【広島】新井、20年の現役に幕…三国志演義に影響受けた義兄弟の精神

◆SMBC日本シリーズ2018第6戦 広島0―2ソフトバンク(3日・マツダスタジアム)
赤いメガホンが揺れ、耳をつんざく歓声が響き渡った。8回、新井は先頭の代打で打席に入り、遊ゴロに倒れた。「悔しさがないと言えばウソになるけど、みんなの必死さが伝わってきた。ありがとうという気持ちが強い」。34年ぶりの日本一は逃したものの、しびれる頂上決戦でユニホームを脱ぐことへの感謝が、本音としてあふれ出た。
数々の栄光の裏にあったのは苦難の日々だ。プロ5年目から4番の十字架を背負ったが、重圧に押し潰され、一度は定位置を失った。「最初の2年間は4番の力なんてなかったけど、金本さんが移籍して、誰も打つ人がいなくなった。選手会長就任もそう。求めていないのに、高い地位・役職を与えられて、追いつこうともがいてきた」
今でも広島の中心地を車で通ると、旧市民球場跡に視線が向く。「カープでも阪神でも苦しい思い出のいっぱいある球場。やっぱり人間は、苦しい時の方がよく覚えている」。閑古鳥が鳴いていたかつての本拠地は、新井の原風景として、今も胸に刻まれている。
苦難に立たされても、仲間の支えではい上がってきた。軍記物を好む新井には、三国志演義に思い出に残るシーンがある。蜀の皇帝・劉備が周囲に猛反対されながら、関羽のあだ討ちに立つ一幕だ。「負けると分かっていて弔い合戦を仕掛けた。情に弱いかもしれないけど、あれが絆なんだと」。桃園の誓いで契りを交わした義兄弟の精神は、チームメートを「家族」と愛してやまない新井に重なる。
グラウンドは離れるが、勝負師の本能を忘れることはない。代名詞となった護摩行のため、今後も鹿児島に出向くつもりだ。「野球だけじゃなく、先祖、両親への感謝、家族を守ってくださいと唱えてきた。年に一回でも続けておかないと、自分がだめになる。一度、夏に行きたい。熱くて死ぬらしいよ」と笑い飛ばした。
「すごくみんな結束しているんで、それを若い選手、ファームで頑張っている選手とか、これからカープに入ってくる選手たちに引き継いでいってほしい」。20年の現役生活を終えた新井は、最後まで柔和な笑顔だった。その胸の内には、ほとばしる情熱が宿っている。赤ヘル軍団の先頭に立つ日を待ち、穏やかに研さんを積む。(表 洋介)
◆劉備と関羽 劉備は西暦200年前後に中国で活躍した蜀の初代皇帝。魏、呉と、三国時代の覇権を争った。三国志演義の序盤に登場する逸話で、武運に優れた関羽、張飛と出会い、3人で義兄弟の契りを結び、生死をともにする宣言を行った。「桃園の誓い」と呼ばれる。