乃木坂・樋口日奈が中原淳一さんからもらった、アイドルとしての生きる知恵

スポーツ報知
 私物の中原淳一氏のグッズを披露する乃木坂46・樋口日奈(カメラ・橋口 真)

 3月31日に京都高島屋で100体限定で受注販売された人形が、1人の男性客に買い占められた“騒動”は記憶に新しい。人形のモデルとなったのは、画家の故・中原淳一氏の少女の絵。今回、初めて中原氏の名前を聞いた人も多いかもしれないが、実は戦後間もない時期に女性ファッション誌のはしりとなった「それいゆ」の編集を担当するなど、画家として以外にもマルチな才能で知られた人物だった。その魅力を中原氏のファンという乃木坂46の樋口日奈(20)に聞いた。(高柳 哲人)

 少女のかわいらしさを持ちながら、どこか気品も醸し出している高島屋で限定販売された女の子の人形「ロリーナ」。そのモデルとなった中原氏の作品に樋口が“一目ぼれ”したのは、高校生の時だった。

 「学校帰りに寄った書店で、たまたま中原さんのコーナーが設けられていたのですが、もうズシンとドストライクでした(笑い)」。その場でイラスト集を購入。当時は「中原淳一」という名前も知らなかったが、グングンひかれていった。「矛盾しているんですが、レトロさを感じさせながらも古くないというか。美しい女性を描いているのに、親近感も湧く。不思議な感覚ですね」。何より、中原氏の描く女性のポーズに「物語」を感じるという。

 「女の子の目線やポーズがモデルさんというよりも、むしろ女優さん寄り。ストーリーが伝わって来るんです。もし、私がソロ写真集を出せることになったら、意見を言えるように参考にしようと、ポーズを研究しています」。イラスト集を片手に、“予行演習”はバッチリできている。

 さらに、中原氏を知るにつれ、絵に添えられた言葉の数々にも注目するようになった。「最初は『絵がかわいいな』だけだったのが、ファッションのポイントの説明などはもちろん、『美しさとは何か』と語りかけてくる中原さんの言葉に、女性として生きていく上での知恵をもらえたような気持ちになりました」

 中でも「美しさを求めるのは、人に振り返ってもらうためではなく、自分のため」という言葉は、常に心の真ん中にある。「アイドルをやっていると、どうしても他人の目や評価が気になる。元気をもらえることもありますが、自信をなくすことも。でも、この言葉を見た時に『自分が生き生きしていることが大切なんだ』ということを教えられたような気がして、ハッとしました」と振り返った。

 中原氏の作品が巻き込まれた心ない人による騒動を、どのように見ているのか。「中原さんが生きていた時代だったらありえなかったこと。いろいろ便利になったからこそ起きたと思うし、残念です。でも、今回の人形のように、過去の作品が今の技術でリアルに再現されたということそのものは、悪いことではないとも思う。複雑な気持ちですね…」と言葉を濁した。

 とはいえ、樋口にとっては間接的ではあるものの「師」ともいえる中原氏とその作品は、今後も人生の指針であることに変わりはない。「私のように女の子が中原さんの絵を見て『あんなふうになりたい』といろいろ妄想をするように、いつかは私自身が妄想をされる側の女性になりたいですね」。まずは、中原氏デザインの洋服が似合う女性になるのが目標だ。

 ◆公式ショップに等身大パネルも

 樋口も訪れたことのあるという中原淳一の公式ショップ「それいゆ」があるのが東京・南麻布。昨年7月に移転したが、東京メトロ日比谷線の広尾駅が最寄り駅だ。店内には、グッズや洋服などが多数販売されているほか、日本橋高島屋で16日から発売される人形のモデルとなった「中原淳一ブラウス集」にある赤いスカートの少女の等身大パネルなどが置かれており、来店記念の写真スポットとして人気という。営業時間は午前11時~午後7時半。火曜が定休日となっている。

 ◆樋口 日奈(ひぐち・ひな)1998年1月31日、東京都生まれ。20歳。愛称は、ひなちま。2011年8月、1期生として乃木坂46に加入。14年4月発売の「気づいたら片想い」で初の選抜メンバー入り。23日発売の女性ファッション誌「JJ」7月号で専属モデルデビュー。6月8日から東京・天王洲の銀河劇場で上演されるミュージカル「乃木坂46版 美少女戦士セーラームーン」(24日まで)にセーラーヴィーナス役(Wキャスト)で出演。身長159センチ、血液型A。

 ◆人形買い占め騒動の経緯 3月31日、京都高島屋が中原氏の絵を再現した「ロリーナ」という名前の女の子の人形(高さ64センチ、税込み12万4200円)を100体限定(1人2体まで)で受注販売。即日完売したが、1人の男性客が先着50人の代金をすべて支払った。中国での転売目的とみられる。このため、今月16日から発売予定の日本橋高島屋では1人1体、抽選での販売に変更された。人形は「スーパードルフィー」と呼ばれ、さまざまなポーズを取ることができるのが特長。また、自身で改造しやすい合成樹脂で作られている。

 ◆中原氏は「ルリ子カット」生みの親

 中原氏は1913年に香川県に生まれ、15歳で日本美術学校に入学。戦前は少女向け雑誌「少女の友」の表紙絵などを担当し、注目を集めた。

 終戦からちょうど1年後の46年8月15日に婦人雑誌「それいゆ」を創刊し、企画、編集から挿絵までを担当。戦後で物資不足の中、表紙がカラーのファッション雑誌は批判もあったが、それ以上におしゃれを求める女性の欲求を満たす一冊として人気に。同時に、芦田淳さんやコシノヒロコさん、高田賢三さんらデザイナー、池田理代子さん、里中満智子さんら少女漫画家などに多大な影響を与えた。

 中でも知られるのが、女優・浅丘ルリ子との関係だ。デビュー作「緑はるかに」のオーディションで、原作小説の挿絵を描いていた中原氏は浅丘を猛プッシュ。主役に選ばれると、アイラインの描き方を指導した。また、役に合わせて中原氏自身が浅丘の髪をカット。そのヘアスタイルは「ルリ子カット」として流行した。浅丘は「現在も中原先生が教えてくれたように目を描いている」という。

 中原氏をよく知る関係者は、世代を超えて愛される理由を「『美しく生きる』ことを伝え続けたからだと思います」と話す。しかも、それをあいまいなイメージではなく、絵や言葉で具体的に示した。同時に「外見を美しくするのは大切だが、同時に内面も磨くことを忘れてはいけない」とのメッセージが、女性の心をつかんだとみている。

 現在は、樋口のように若い世代にも徐々に名前が浸透。「歴史を知らず、数十年前の絵であることが分かって驚く人も多い」という。それだけ、中原氏の作品が時代を問わない魅力を放っているということだろう。

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