日本の現状を打破するため障がい者専門タレント事務所が発足…野望は「芸能界の一大勢力!」

スポーツ報知
障がい者タレント専門芸能事務所「Co―Co LIFE タレント部」の(右から)小林春彦、梅津絵里、代表・岡安均氏

 日本最大規模の障がい者タレント専門芸能事務所「Co―Co LIFE(ココライフ)タレント部」が発足した。

 高次脳機能障がいの作家でミュージシャン・小林春彦(31)と、車いすのタレント・梅津絵里(40)、代表の岡安均氏が5月下旬、取材に応じた。

 2020年東京オリンピック・パラリンピックへ向けて、日本も少しずつ障がい者への理解が進み始めている。

 最近ではテレビや雑誌などのメディアが、リオデジャネイロや平昌などのパラリンピックで活躍したパラリンピアンをこぞってバラエティー番組に出演させたり、次世代のパラアスリートを特集した番組を放送したりするようになった。

 しかし、障がい者の社会進出やエンターテインメントへの起用が盛んな欧米に比べ、日本はまだまだ“起用の仕方”がわかっていないというのが現実だ。

 そのような現状に一石を投じようと、今年3月1日に新しい芸能事務所が設立された。特徴は「多様性」。所属タレントがそれぞれ抱える障がいは、車いすや義足などだけではなく、精神障がいやダウン症、視覚障がいなど多岐にわたっている。同事務所では、芸能人としての自覚が必要とし、タレント同士の意見のぶつかり合いも歓迎、事務所としての見解も1つにまとめる必要はないという。

 論客として知名度のある小林が口を開いた。まず「メディアがパッケージ(取り扱い)する時に障がい者は、お笑いかお涙にしかならないのが違うなと感じています」と舌鋒鋭くチクリ。

 小林は21歳の頃の07年、障がいや病気のある小中高校生・大学生の進学と就労への移行支援を通じ将来の社会のリーダーを育成するプロジェクト、東大先端科学技術研究センターによる「DO-IT Japan」に第1期生として参加、現在も関わりを継続している。

 自身が抱える「高次脳機能障がい」「視野狭窄(きょうさく)」など“見えない障がい”について理解を深めてもらおうと、年間数十回の講演活動を行なっている。東京パラリンピックについても「限られた予算を、またも身体の方にもっていかれちゃうのかと考えてしまう。今の福祉は、高齢者と身体障がい者の独占状態ですから」と現状を説明した。

 その上で、「僕の活動は、自分たちのようなスポットの当たらない障がいに光を当てていくというもの。例えば障がい者手帳を持っていれば交通費が割引になるとか、公営の施設が無料になるとか、どこまでが合理的なんだと。そういうことをちゃんと言える、身内への批判が出来るポジションにいたいです」と語った。

 「―タレント部」の母体は、難病や障がい、生きづらさを抱える女性向けの季刊フリーペーパー「Co―Co LIFE☆女子部」(2008年創刊・毎号1万部発行)。事務所には、障がいを持つ同誌の読者モデルや団体趣旨に共感するタレント、文化人ら男女合わせて18人が集まった。5月6日に締め切られた第2回タレントオーディション募集には、8歳から65歳まで老若男女203人の応募があったという。

 設立当初は「Co―Co LIFE☆女子部タレント事業部」との名称だったが、その後「Co―Co LIFEタレント部」に改称された。

 小林は、このことについても「最初『女子部』と名付けたのはリスクがあって、僕の周りにもLGBTでなおかつ他の障がいを抱えているダブルマイノリティーの方が結構いる。『女子部』と付けているとアイデンティティーとして受け入れられないみたいな話を聞いた」。さらに「障がいの種別ごとにブームの浮き沈みはあると思う。最近はより“生っぽく”なっているというか、リアリティー重視になっている。僕は、もっともらしいことをちゃんと言うキャラでいたい。障がい者批判ができる障がい者っていないですから」と自らの立ち位置を強調した。

 一方の梅津は、両上下肢まひで車いす生活を送っている。結婚後、2005年27歳の頃に難病・全身性エリテマトーデス(SLE)を患った。翌年、SLEの悪化で中枢神経ループスを併発、脳と脊髄に障がいを負い、一時は植物状態に。6年間の寝たきり入院生活からリハビリを経て12年に退院。自宅療養をしている中で、17年にタレント活動を開始した。「私は今まで“ただの病人”だったけど、雑誌に出会って“ただの病人”という枠から社会に目を向けて活動できるようになりました。この団体は『心のバリアフリー』を掲げているので、私もそれを発信するお手伝いをしたい。自分が体験してきた病気とか、障がいを抱えている自分も一個人、私として活動していけたらうれしいです」と希望を語った。

 しかし、始めたばかりのタレント業は「まだまだです」と照れ笑いを浮かべた。「(雑誌の初掲載時は)写真を撮られるのも全然慣れていなくて、カメラに向かってわざとらしくニコっとしたら、カメラマンさんに『不自然』と注意されました」と苦笑い。「今もわざとらしさは抜けていないんですけど、写真を撮られて、誌面に載せてもらうのは私の中でも大きな一歩でした。病気をしてから家にこもっている生活で、以前は写真に写る時は車いすが見えないように、なるべく立って撮ってもらったりしていました。病気の自分を見せたくなかったんです」と振り返った。

 梅津はこれまで、障がいを受け入れられず人目に触れないように生活していた。しかし、Co―Co LIFE☆女子部との出会いで世界が開けた。「堂々と『車いすに乗っている私』っていう感じで紹介して頂いたので、そこで吹っ切れました。『障がいを受け入れた私を見て!』と、自然体でありのままの自分を表現できることが気持ちよくて一歩前に進めた気がしました。私だけじゃなくて、みんなにそうなってもらいたい」。

 そして「気持ちを割り切って前に出て行くことはすごくいいことだと思う。自分らしく生きることの価値を見出せたので、タレント活動を始めてすごく良かったです。言葉で『バリアフリーにしよう』って言うのは大事なのかもしれないけど、押しつけがましくなってしまう。なので、理解してもらおうというよりは、こういう人たちがいるんだよということを知ってもらって、ちょっとだけ想像してもらうような活動を続けていきたいです」と目を輝かせた。

 梅津は「BEYOND GIRLS(ビヨンドガールズ)としても活動しています」とアピールした。BEYOND GIRLSとは梅津、小澤綾子(筋ジストロフィー、35)、中嶋涼子(下半身不随、31)による、Co―Co LIFEタレント部がほこる車いすガールズ3人組ユニット。モデル、講演、イベントでのパフォーマンスやオリジナル楽曲の制作を開始。動画配信やSNSなどで、多彩な発信活動を始めている。代表の岡安氏は「タレント部は設立したばかりでプレスリリースも出していないのに、結構な引き合いが来ている。設立初日に、いきなり企業からダイバーシティーについて講演を開いてくれという依頼があって、タレントを派遣しました。今後はテレビ局、出版社、広告会社やユニバーサルデザインに意識が高いメーカーさんにもどんどんアプローチをしていって、もっと派手にやっていきたい」と野望を明かし、「普通にキャスティングしてもらえるようになりたい。バラエティー番組などのひな壇に、必ず1人、2人障がいを持つ人がいるような状態になってくれるとうれしいです。芸能界の一大勢力になりたいですね」と力を込めた。(松岡 岳大)

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