鈴木杏、「涙は大事なところに…」主演映画「明日にかける橋1989年の想い出」公開中

スポーツ報知
キャリア22年、演技力への評価は高まるばかりの鈴木杏(カメラ・小泉 洋樹)

 女優の鈴木杏(31)の主演映画「明日にかける橋1989年の想い出」(公開中、太田隆文監督)が好評だ。弟の死をきっかけにバラバラになった家族を取り戻すため、地元企業に勤めるOLがタイムスリップして奔走する。「今年一番泣ける映画」との呼び声も高い作品。「演じていてもずっと泣いてしまいそうで、バランスを取るのが大変だった」と振り返った。

 「ウルッとくる場面だらけで、心を許すとずっと泣いてしまいそうでした」

 鈴木は大きな瞳をさらに大きくして作品の魅力を語った。演じたみゆきは30代のOL。地元の企業で淡々と働くが、つらい過去と厳しい現実問題を背負う。

 1989年、弟の健太が交通事故で亡くなってから家族が一変する。母が精神的ショックから病気で入院。父は独立するも会社が倒産し、酒に溺れる日々…。みゆきが家計を支える。

 「みゆきは日常に追われ、いろんなことを諦めている人なのかな、とイメージしました。恋愛や結婚など自身の幸せとか」

 そんなある日、地元で「願い事がかなう橋」との都市伝説を持つ橋を渡ると、知らないうちにタイムスリップ。1989年に弟が亡くなる前日に戻っていた―。

 「みゆきは受け入れることに慣れているから、きっとタイムスリップものみ込めるだろうなと思った」

 台本を読み込み、とことんみゆきの気持ちになりきって演じた。太田監督も「演技指導の必要がなかった」と舌を巻く。

 鈴木自身、作品内でタイムスリップするのは初めてではない。2002年の映画「リターナー」では、宇宙人に支配された未来から現代に来た少女を演じた。

 「私も“経験”があるので懐かしい感じでした(笑い)。まさか31歳になってまたタイムスリップするとは思いませんでしたけど」

 89年に戻ったみゆきは、弟の事故を防ごうとする傍ら、正体を明かさずに家族と接触することで多くのことを知る。板尾創路演じる父親が、当時のみゆきをもてあそんでいた彼氏に「娘と別れてくれ」と陰で懇願し、殴られていたこと。みゆきの将来のことを本気で考えてくれていた母親。自分がいかに両親から愛されていたかを知る。

 「板尾さんが殴られた後にトボトボと去っていく背中が泣ける。“名・背中”だと思います。板尾さんは俳優やお笑いタレントというジャンルではなく、もう『板尾創路』という一つのジャンルですね」

 板尾とは05年、17歳当時に映画「空中庭園」でも親子を演じた。その後もドラマで何度か共演するなど勝手知ったる間柄だ。

 「5年ぶりの映画、さらに7年ぶりの主演で自分に不安しかなかったので、『お父さんは板尾さんにやってほしい』とお願いしました。“芸能界の父”という表現はちょっと大げさですね。近所のおじさんのような感覚です」

 家族再生というテーマがある一方で、タイムスリップというSFの要素も入り込む。バランスを取って演じるのに苦労した。

 「家族の暗い現実を背負いながら、タイムスリップというエンターテインメントな部分。どちらかに偏っても、どちらかにリアリティーがなくなってしまうと思いました」

 大変なのはそれだけではない。「今年一番泣ける映画」との呼び声も高い同作。いたるところに感動の場面がちりばめられている。

 「板尾さんの背中もそうですし、タイムスリップして弟と再会するときも『ワッ』ってこみ上げてきた。でも感情的になっちゃうと、見ている人からは『この子、ずっと泣いてる』となる。涙は大事なところに残しておかないと、と我慢が大変でした」

 気が付けば自身も31歳。

 「涙もろくなってきました。家族ものや、若者たちが頑張っている姿に泣くようになってしまいました」

 9歳でデビューし、天才子役と注目を集めてから22年。30歳を超えて変化が芽生えつつある。

 「20代の頃は自分以上の何者かになろうともがいていた。30になってだんだん『できないことも含めて自分なんだな』と割り切れるようになった」

 40歳に向け、まだまだ挑戦したいことはある。

 「役もそうですが、何事もこだわらずに新しいことに挑戦していきたい。最近はボイストレーニングに通い始めました。今まで知らなかった自分の感覚があるんだと気付かされています」

 太田隆文監督の一言
「杏ちゃんの芝居を見ていると『あしたのジョー』に登場するチャンピオンのホセ・メンドーサを思い出す。的確なパンチ。無駄のない動き。計算された攻撃。無敵のボクサー。主人公の矢吹丈さえも勝てなかった相手。杏ちゃんの演技も同じ。計算された演技。無駄のない動き。まるでボクサーのように舞い、観客の心を打つせりふを連打する。本人に聞くとボクシングではなく、キックボクシングをやっているという。それが演技に反映しているのか? 真偽はとにかく、杏ちゃんは女優のチャンピオンだと思える!」

 ◆明日にかける橋1989年の想い出 あらすじ
 地方に暮らす主人公のみゆき(鈴木杏)は30代のOL。弟・健太(田崎伶弥=りょうや)が交通事故で死んでから家族は崩壊。母(田中美里)は病気で入院。父(板尾創路)は会社が倒産、酒に溺れる。2010年のある日、「明日橋」を渡りタイムスリップ。弟が死んだ1989年に戻る。若き日の両親、元気な弟、若き日の自分(越後はる香)に会い、健太を救うために奮闘する。静岡県袋井市、磐田市、森町でロケを行い、地元市民グループにより企画・製作された。

 ◆鈴木 杏(すずき・あん)1987年4月27日、東京都生まれ。31歳。96年、日本テレビ系ドラマ「金田一少年の事件簿」でデビュー。2002年、映画「リターナー」で日本アカデミー賞・新人俳優賞、話題賞を受賞。蜷川幸雄さんの舞台に多く出演し、「ハムレット」「ロミオとジュリエット」など。ドラマでは日テレ系「anone」(18年)などに出演。趣味は映画観賞、英会話、モダンダンス。

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