若葉竜也、超能力者を“怪演” 映画「パンク侍、斬られて候」公開中

スポーツ報知
俳優歴30年近い中で出会った今作への特別な思いを語った若葉竜也(カメラ・森田 俊弥)

 俳優の若葉竜也(29)が、先月30日に公開された映画「パンク侍、斬られて候」(石井岳龍監督)で“怪演”を見せている。町田康氏の同名小説を原作に、タイトルどおり奇想天外に展開する物語。綾野剛(36)、浅野忠信(44)らが演じる12人のくせ者の中でも“想像を絶する阿呆(あほう)”の超能力者・オサムを演じる若葉は、特に異彩を放つ。「若葉劇団」で1歳3か月で初舞台を踏み、ここまで積み重ねた経験、概念を全て投げ捨て、自身の俳優人生を懸けた一作となった。

 「とにかく映画ぶっ壊しちゃってくれたら、それでいいから」―。石井監督の言葉で、若葉の頭のネジがはじけ飛んだ。現場初日にカメラに向かったオサムの登場シーン。目を見開きながら、口いっぱいに頬張った米粒を派手にまき散らし、セリフをまくし立てた。

 「他の俳優さんも、あまりにけれん味たっぷりでやっていた。(自分も)勝負を懸けないと、この映画に参加する意味がないなという思いがあった。それで、これ怒られるんだろうなというもの(演技)を持って行ったら…本当にみんなが本当に困惑していましたね」

 演じたのは、食べ物を与えた者の言うことだけを聞く“想像を絶する阿呆”というオサムだ。超能力を持つ一方、自分の名前すら分からない特殊な役柄だ。

 「最初に石井さんと2人きりで、その時にやったのは多分、石井さん的にも面白くないなと。俺もやっていて面白くないと思ったし、ああ、全部ダメだ…と。それで『3時間あげるから、それまでに面白い動きとか考えてほしい』って言われて、3時間ででき上がったのが今回のオサムでした」

 石井組への参加は念願だった。今作はオーディションで出演をつかんだ。

 「(改名前の)聰亙(そうご)さんの時代から大好きだった。単純にミーハー心じゃないけど、最初会った時は『石井岳龍だ!』って。石井岳龍って本当にいるんだと思った。そのぐらいのテンション。参加したいという心持ちは誰よりも強かったから、バキバキ緊張しましたね」

試行錯誤連続 最初は、憧れの監督の前でいい演技をしよう、という思いが強かった。

 「3時間で準備していくうちに、大作映画だったら、誰もがここにたどり着くだろうなみたいなことをやっていたんだと気づいた。そうじゃなくて『狂い咲きサンダーロード』(80年)とかを見ていた頃の石井岳龍に対して、それは失礼だという気持ちもあった。今まで見たことないことをやろうと。今までの概念とか全部取り払って、デビュー作みたいな気持ちでした」

 撮影を重ねていく中で、試行錯誤を繰り返した。

 「段取り、テスト、本番って流れで、全部動きも変えた。本当は僕、そういうの嫌いなんです。でも、段取りで、まだ頭で考えてるなとか。役者っぽい動きとか、格好いいであろう動きとかを考えてしまうと、面白くない。1カット1カット、捨てていく作業でした」

 経験のない演技すべてが、貴重なものとなった。

 「これに出られれば、何か変わるぞという直感があった。その代わり(オーディションを)受からなかったらもう終わりかも、とも思っていました。『葛城事件』以来、転機になるって直感がどこかにあった」

 「葛城事件」(16年、赤堀雅秋監督)では無差別殺人事件を引き起こす青年を演じ、TAMA映画賞で最優秀新進男優賞に選ばれた。一人の俳優として考え方を一変させた映画だった。

 「それまで賞なんて全然いらないと思っていた。多分、格好つけていたんですけど。でも、完成後に『これ、何か賞もらえるかもよ』って言われてから、めちゃめちゃ意識した。形になって『あなたのお芝居で感動しました』って賞状もらった時、悔しいけど、めちゃくちゃうれしかった」

 今作の評判も、周りから耳にした。

 「カメラアシスタントだった人が、違う現場で僕の知り合いと仕事をした時に『あの人って何なの? 訳が分からない』って。でも、その人は『こんな訳が分からない人がいるんだったら、俺もいけるところまでいっていいんじゃないか』と思ってくれたらしくて。褒め言葉では最上級です」

 「パンク侍―」は20代最後の1年に出会った特別な作品となった。俳優として、さらなる飛躍のきっかけとなることは間違いない。

 「生きざまとして、これに参加できたのは、すごく大きかったです。こんな役ばっかりでも困りますけどね(笑い)」

 石井岳龍監督のひと言
 「作品を見る度に違う存在になりきっていて驚かされ、今後がとても楽しみな男優さんです。今回のオサム役もとびきり難しかったと思います。初めてのお仕事でしたし、捉えどころが難しい役だったので、若葉君とは演技やオサム特有の動きについて二人でリハを何回かやりました。普段は静かな人ですが、演技勘も動きもシャープでしなやかで、カメラが回ると若葉君にしかできないオサムを常に全身全霊で体現してくれました。またぜひ、違う役柄でご一緒したいです」

 ◆「パンク侍、斬られて候」あらすじ
 芥川賞作家の町田康氏の同名小説が原作。脚本は宮藤官九郎が手がけた。江戸時代を舞台に、ある隠密ミッションの発令によって、12人のくせ者たちがハッタリ合戦を繰り広げるSFスペクタクル時代劇。主演・綾野剛のほか北川景子、染谷将太、東出昌大、浅野忠信、永瀬正敏らが出演。

 若葉は俳優業のほか、高校時代から自主映画の製作にも取り組んでいる。メガホンを執った最新作「蝉時雨」は今年、大阪で初開催される「門真国際映画祭」(27~29日)の入選11作品の中に選ばれた。「昔から現場で何か役に立てるかなと遊び程度で。今回は自分が描きたいものってどういうものだろうって、しっかり追求して脚本も書きました。ノミネートされるとは」と喜んだ。

 ◆若葉 竜也(わかば・りゅうや)1989年6月10日、東京都生まれ。29歳。90年「若葉劇団」にて1歳3か月で初舞台を踏み、子役としても98年NHK大河ドラマ「徳川慶喜」で慶喜の幼年期を演じる。以降映画、ドラマなどで活躍。今年は「パンク侍―」ほか「曇天に笑う」など計4作の出演映画が公開。身長174センチ。特技はギター。

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