90年間で36か国・地域を旅するKABUKI大使館…松竹・安孫子副社長に聞く

スポーツ報知
歌舞伎の海外公演について語る松竹・安孫子正副社長(カメラ・小泉 洋樹)

 歌舞伎が1928年(ソ連公演)で初めて海外に渡って90年。36の国と地域で文化交流を担ってきた。今年は6月のスペインに続き、9月にフランス、ロシアでの公演が控える。「歌舞伎は日本の宝」と日本を代表する古典芸能を「旅する大使館」にしたのは、松竹の信念とチャレンジ精神。2020年の東京五輪、パラリンピックまで2年を切る。歌舞伎を外国人にどう発信していくのか、同社の安孫子正副社長に戦略を聞いた。

 東京・歌舞伎座は、今でこそ一年を通じ、歌舞伎が見られる。その昔、空席が目立ち苦戦を強いられた。古典を上演する劇場で年間100万人以上お客さんが集まるところは、世界を見渡してもここしかないという。

 「時々、この状態は夢じゃないのか、とほっぺたをつねりたくなる時があるんですよ」と安孫子氏。「歌舞伎は日本の宝である」。松竹創始者の大谷竹次郎の信念は生き続け、どんな状況下でも続けた海外公演なしに、歌舞伎史は語れない。

 安孫子氏が忘れられない公演のひとつに85年7、8月のアメリカ公演を挙げる。同年4~6月の歌舞伎座での12代目市川團十郎襲名披露に引き続き、休む間もなく米国へ。襲名披露が海外で行われたのは初めてだった。

 「外国で歌舞伎をすると改めて良さを再発見できる。様式美に限らず、ドラマ性があるものも伝わる。本当にいいものは必ず理解される。襲名披露は大変な盛り上がりでした」。外国公演での高評価が、逆輸入となって日本人に歌舞伎の興味を与えることも、もたらした。

 「旅する大使館」として90年間に36の国と地域。世界地図を見れば、いかに広範囲にわたって上演されてきたか一目瞭然だ。しかし安孫子氏は全く満足していない。短期の“普及活動”でなく長期公演、つまりビジネスとしての興行プランを描く。劇場経営権の情報にもアンテナを張る。「もちろん簡単ではありません。しかしロングランに耐えうるものを上演するのは長年の夢です。そういう時期にきていると思う」

 話題を呼んだ人気コミック原作「スーパー歌舞伎2ワンピース」や8月に新橋演舞場での新作歌舞伎「NARUTO―ナルト―」も海外を見据えてのもの。「ともに特にフランスで人気ですが、ナルトの方が知られています。8月は海外での上演も意識した作りで進めています」。伝統と改革。古典に固執せず、歌舞伎の語源「傾(かぶ)く」精神、挑戦の気持ちを強く持ち続けたいという。

 外国人観光客が激増する2020年に向けても準備は着々。歌舞伎座だけでなく新橋演舞場や京都・南座も巻き込み、一丸となってやっていきたいという。「松竹は歌舞伎から始まりました。400年という時間をかけて熟成された日本文化です。少しでも多くの人に、その素晴らしさに触れてもらう機会を増やしていきたいと思っています」(内野小百美、土屋孝裕)

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