「おんな酒場放浪記」出演の写真家・古賀絵里子さんの「今」 たどり着いた聖地・京都のお寺に嫁入り、子育て、次作準備の日々

スポーツ報知
本堂の前でたたずむ写真家・古賀絵里子さん

 「写真家・古賀絵里子」さんは、京都の古刹(こさつ)で次作への準備を進めている。BS―TBS番組「おんな酒場放浪記」に2012年から約2年間出演。ほんわかした雰囲気と愛くるしい笑顔で人気を集め、37歳になる現在は、全国に200の末寺を抱える総本山の塔頭(たっちゅう)に嫁ぎ、2歳7か月になる愛娘の子育てに奮闘する毎日。写真家としてのこれまでの道のり、人生観、結婚生活、お酒のことなど、今の思いを語った。

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 セミが元気に鳴いている。目の前に霊峰・比叡山が広がる創建600年以上もの古刹、その広大な境内に、古賀さんがぽつり、静かに待っていた。やわらかな表情。変わらぬ笑顔だ。

 「鹿が出るんですよ。山から下りてきて、お墓の花を食べちゃって。好物みたい。境内には塔頭が4つあって、本山は見どころがあり拝観もできて、素晴らしいところです。手を合わせる場所が身近にあるし、ご先祖様も常に身近に感じられるし」

 酒場という聖地へ、酒を求め、肴を求めさまよう人気番組を経て、古賀さんがたどり着いた人生の聖地は、京都の由緒ある寺院。

 どんな生活なのだろう。

 「(作品の撮影で)お坊さんのことも少し分かっていたし、人が言うほど抵抗とかもなくて。たぶん、普通の生活と一緒だろうなと思って入ったらやっぱりで。確かに、お寺の行事があったり、御宝前のお水やお花をかえたりとかあるけれど、あとは変わらない。お酒も飲むし何でも食べるし。ただ、信仰心を忘れない、手を合わせる気持ちっていうのが常に身近にあるから、そこは今までの生活とはちょっと違うかな、と」

 お酒は変わらず、今でも。

 「飲んでますね、毎晩(苦笑い)。完全に復帰して。でも、量はそんなに。体質が変わっちゃって。(妊娠して)飲めない時期が2年半くらいあったから。…でも、飲んでたけど。たまに(笑い)。弱くなって、もう三合も飲めないかな」

 お酒を飲んで見せる表情、笑顔。テレビで醸し出す不思議な雰囲気。様々な「顔」を持ちながら、その裏側で、常に「人間が生きる意味」を探し、写真家として人の「生」と「死」というものをファインダー越しに見つめてきた。

 写真家を志し、福岡から上京。写真発祥の地・フランスで専門学校に通うため語学や文学を学ぼうと上智大学に入学。ただ、あの頃を振り返ると、痛くなる。

 「当時は私、めちゃくちゃ寂しかった。人にとって本当の幸せや、生きている意味って何だろうとか。20歳の時に考えて。それはたぶん、東京で深くつながれる人が1人もいなかったからかも。ただ唯一、写真だけが心の支えで、写真を撮っては、暗室作業に没頭してました」

 孤独の日々。そんな時に、1冊の写真集と出会った。ぼろぼろの服を着ているネパールのおじいちゃんが、孫と手をつなぎ、笑顔でこっちを見つめていた。

 「その人が、常にそういう生き方なんだろうな、という顔をしてて。もう愕然として。その時、私は大学も行けるし、綺麗な格好やお化粧もできるし、食べる物も苦労していないけど、顔は不幸そのもので。このギャップはなんだろうと。ここへ行けば何か答えが見つかるんじゃないかって思ったんです」

 ネパールへ。20歳の春休み。人生を変える出来事に遭遇した。雨の夜、対岸の宿に戻ろうと小舟で湖に出た。雨脚が強まり、引き返そうとしたが、遅かった。

 「嵐になってしまい、波が小舟にどんどん入ってきて。水深もあるから、沈没したら死ぬしかなかった。雷雨の中、寒さと恐怖で震えが止まらず、走馬灯も見ました…」

 諦めかけた、その時。

 「ほんとに奇跡的なことに、バケツが流れてきて。小舟から必死に水を掻き出して、気が付いたら岸で。宿の人たちが泣いて、抱きついてくれて、死んだと思ったって言って。その時、土に足をつけた瞬間、ああ、生きているって、初めて実感して。で、人にとって本当の幸せって、生きている、そのこと自体なんだ、って気づかされたんです。さらに、人が生きている意味って、人を愛し愛されることじゃないかって」

 この生死の経験が、その後の写真家としてシャッターを切る際の根底となった。そして、対象へ愛や畏敬の念を抱くことも大事なんだと、古賀さんは考えた。

 ピアノの音色が、話をしていると、流れてきた。娘さんが弾くには早すぎる。

 「あ。すみません、調律が入っていまして。ピアノは…。主人です。お坊さんなんですけど、音楽活動もしていて」

 高野山の取材を進めているなかで、2013年、アートイベントで写真展を行い、会場の横から流れてくるピアノに魅了された。

 「すごい音色がやさしくて、大人でも寝ちゃうくらい、癒されるというか。会って、いろいろとお話していて、すっごい気があったんです。一緒にいて、こんな楽な人がいるんだ、世の中に、って思うくらい。で、3日後ぐらいに、結婚しようか、ってなって」

 本当に、結ばれた。

 「後から、あっ、そういえばお坊さんだ、お寺なんだってなったんです。普通はお寺って大変そうって思われがちなんですけど、私はむしろ面白そうと思って。今頃、主人は失敗したと思っているかもしれないけれど(苦笑い)」

 遠くから「ママ、ママー」と、バタバタと走ってくる足音。「来たっ。怪獣が来た。怪獣来た」と古賀さんが笑顔を見せる。

 子育ての毎日は。

 「大変。もうタ~イヘン! でも、娘はかわいい。ひたすらその繰り返し。自分のほとんどの時間やエネルギーを彼女に注いでいます」

 そんななかでも、わずかな時間のなかで新作に向けて準備を進めている。

 「2年後を目標に。写真は一生、続けていきたいと思っているので。他のお仕事も、焦らず、ゆっくり、できるときに、いいチャンスがあると思うから」

 穏やかに流れる時間。何気ない、何でもない毎日に、幸せを感じる。だから、古賀さんは言える。

 「今は、寂しくなくなったんです、ようやく」

 (取材・佐々木 良機)

 〇…古賀さんの写真展が10月26日から12月24日まで、奈良市の「入江泰吉記念奈良市写真美術館」で行われる。これまでの写真集「浅草善哉」「一山」「TRYADHVAN」からの作品展示で、写真家・野村恵子さんと「Life Live Love」と題した共同開催。10月27日(土)には野村さんとギャラリートークも行う。

 ◇古賀 絵里子(こが・えりこ) 1980年12月4日、福岡市生まれ。37歳。上智大学文学部仏文学科卒。卒業後から撮り始めた浅草の老夫婦をテーマにした写真で2004年、フォト・ドキュメンタリー「NIPPON」受賞。まとめた写真集「浅草善哉」(青幻舎)で12年に「さがみはら写真新人奨励賞」受賞。14年に写真絵本「世界のともだち カンボジア」(偕成社)、15年に写真集「一山」(赤々舎)、16年に写真集「TRYADHVAN」(同)を発表。国内外で個展など多数開催。清里フォトアートミュージアム、フランス国立図書館などに作品収蔵。

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