有働由美子アナ、zeroからのスタート「松井秀喜さんが背中押してくれた」

スポーツ報知
「zero」で再出発する有働由美子アナ(カメラ・小泉 洋樹)

 今年3月末でNHKを退局した有働由美子アナウンサー(49)が、10月1日から日本テレビ系「news zero」(月~木曜・後11時、金曜・後11時半)のメインキャスターに就任する。「実家」と表現するNHKを離れる際の葛藤や、新天地の「zero」で取り組みたいテーマ、そして50歳を目前とした自分自身の現在地についても飾らない言葉で語った。(宮路 美穂)

 秋の風とともに、有働キャスターが「zero」にやってくる。“デビュー戦”は10月1日。

 「NHKにいた最後の方は、さすがにドキドキしたりってあんまりなかったんです。でも先日の会見に出させていただいたとき、出て行く前に心臓が飛び出ちゃうような感覚になった。そんな感情まだあったんだって思いました」

 新鮮な心境を楽しんでいるようだ。

 有働キャスターの加入に伴い、番組タイトルも大文字から小文字へ変化する。現在は新しい企画などを話し合っている段階。

 「民放もNHKも、『番組を作ろう』って思うときの情熱って同じなんだと思いました。『あさイチ』を立ち上げたときと同じように、どんな新しいものが、どんなふうに視聴者の皆さんに届くのか。みんな純粋にそこに向かっている。楽しいですね、新しいものを立ち上げるときは」

 充実の表情を浮かべる。

 一貫しているのは「命を守る」という思いだ。地震や豪雨、台風などの災害被災地の現状を伝えることは使命だととらえている。

 「視聴者の方に『いま被災地にいると、どんな感じのものが見えて、どんな思いなのか』は一緒に追体験してもらえるようにしたい。オンエアになるかどうかは別にして、できる限り自分の目で見て、頭でっかちにならずに伝えていけたら。せめて、夜の11時から朝までの間、見てくれている人たちの命は自分たちが守るぞ、という意気込みはあります」

 今年3月にNHKを退局した。迷った末の決断だった。

 「みんな、それぞれのタイミングで降ってくるのでしょうけど、わたしはたまたまそれが50歳前だった。『自分がメインを張ってやる!』という自信は今もないけど、背伸びはしなくてもいいのかなっていう年齢になれた。ここまで一生懸命生きてきて、それでダメならしょうがないかなって。ずぶとく、ずうずうしくなったのかな。周りの環境も含めて、リスクを背負っても、変わっていこうと思いました」

 退局まで誰にもその決断を言えずに悶々(もんもん)とする日々は続き「夜中にシクシクすることもあった」という。しかし、2月。ある出会いが有働キャスターの背中を押した。

 「NHKの『100年インタビュー』の取材で、松井秀喜さんにインタビューをさせてもらった。この時点で誰にも、もちろん松井さんにも会社をやめることを言ってはなかったんですけど、松井さんが巨人をやめてヤンキースに行ったときの話をしてくださって、自分のなかで、ひとつひとつが(胸に)落ちるものがあったんです」

 眼前のもやが晴れたような気がした。松井氏の姿を見て、苦しむのは、古巣への愛があったからだということに気づいた。

 「松井さんも巨人への愛があって、巨人で育ててもらったのに『そっち行くんかい!』と思われた時期もあったと聞きました。私もNHKで、ここまで受信料で視聴者の方に育ててもらったのに『どっかに行っちゃうの?』と思われるのが一番怖かった。でも、松井さんでもそんなふうに思って、前に進んだのだから、それでいいんだなと思えました。年を重ねて、仕事を続けて、このタイミングで松井さんと話せてよかったと心から思いました」

 3月31日の夜は今でも忘れられない。

 「最後の片づけして、お世話になった人にメモを置いたりして。夜11時ぐらいに局を出るとき『この入館証ではもう(NHKに)入れないんだ』ってグチグチ悩んでたんですが、いざ出てNHK西口の信号を渡ったとき『はあ~っ、これがフリーなんだ』と思ったんです。うれしいとか自由になったとかいうのとは違って、今までにない感情でした」

 物心ついたときから、自分はずっと「〇〇の有働」だった。ただの「有働由美子」に戻ったとき、どうにも表現できない不思議な感情になったという。

 退局の際に出したコメントの「今後、ジャーナリストとして…」という文言は、その後、同業者から「簡単に使わないで」などの反論意見もあった。これについても有働キャスターは「肩書なんて本当はなんでもいいんですけどね。でも、これまでのジャーナリストの価値観とは変わってきてるんじゃないかなと思うんです」と語る。

 「戦地に行ったりスクープネタを取って、危険な取材をして、はじめてジャーナリストと言えるというのは古い価値観のような気がして。私にとっては『あさイチ』でセックスレスやワキ汗に悩んでる方、離婚についての座談会―。そういう取材もジャーナリストとしてやっているつもりだったんです。もちろん気恥ずかしさがないわけではないですが、古い価値観には縛られずにいきたいなとは思います。憲法改正の話と離婚の話は、人によっては離婚の話のほうが大きい。それもひとつの問題として扱うべきなんじゃないかな、って」

 多様性やライフスタイルの問題も、十分ジャーナリズムの対象に値するととらえている。「こんなふうに言ったら偉そうに聞こえるのかもしれませんけど、でも偉そうでいいのかな。もうおばさんになったんだし」。年をとることも、有働キャスターにとってはポジティブなできごとだ。

 「30代ぐらいのころは、結婚できてないことに欠落感みたいなものがあって、すごく迷ってた時期もありました。でも最終的にしないまま来ちゃった。ひょっとしたら子どもを産まなかったことは、人生においてミスジャッジだったかもしれない。でもミスジャッジをした自分を含めて受け入れざるを得ない。『で、どうしますか?』って話ですから。楽しいですよ、年取るの」

 サバサバと語る笑顔にはなんの気負いもなく、美しかった。

 「バッシングは恐れてはいません。異なる価値観だってちゃんと突きつけたい」と有働キャスターは語る。

 「仕事で疲れて帰ってきた人たちにとって、ニュースを自分のこととして考えるのってなかなか難しい。でも、いろんなことがいま過渡期で、ちゃんと向き合っておかないと、いずれ自分の首をしめる結果になる気がしているんです。だから『日々の生活大変ですけど、これだけ1回いっしょに考えませんか』って番組を通じて伝えられたら。もし次の日の朝に覚えてたら、続きを考えてみてもらえたらうれしいですね」

 文字通り「zero」からのスタート。新しいジャーナリスト・有働由美子が日本のニュースに風穴を開けていく。

 ◆有働 由美子(うどう・ゆみこ)1969年3月22日、鹿児島県生まれ、大阪府育ち。49歳。神戸女学院大を卒業後、91年NHK入局。大阪放送局を経て、94年から東京に。「おはよう日本」「サンデースポーツ」「NHKニュース10」「スタジオパークからこんにちは」などを担当。2007年から米ニューヨークに赴任。10年に帰国し、同年からV6・井ノ原快彦と「あさイチ」の司会を務め、3月末に卒業。NHK紅白歌合戦は01~03年に紅組司会、12~15年に総合司会を務めた。

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