喜多村緑郎、金田一なりきり「映画超えた」の声も…新派版犬神家「深い感動を」

劇団新派は、14日から東京・新橋演舞場で「犬神家の一族」(横溝正史作、齋藤雅文演出、25日まで)を上演する。新派誕生から130年のラストを締めくくる今作は市川崑監督の映画版でも有名。名探偵、金田一耕助を演じるのが、喜多村緑郎(49)。歌舞伎から新派に移籍して2年。役への思いとともに、劇団の今後をどのように考えているのか聞いた。(内野 小百美)
戦後間もない財閥屋敷を舞台に、遺産相続を巡って次々に事件が起きる犬神家の骨肉の争い。今月10日に大阪公演が終わる。映画とは違うストーリー展開、息つく暇(いとま)もないスピーディーな進行に「映画を超えた」の声も出ている。新しい新派へ。屋台骨にならなければならない1人が喜多村だ。
「今回、稽古の段階から毎回涙が出てくるほどの仕上がり。必ず深い感動を届けられるはずです」。金田一役のために1年間切らずに伸ばし続けた髪の説明もしながら手応えを話す。
「金田一は映画の石坂浩二さんの印象が強いかも知れません。一番大事にしているのは事件を解決するためのひたむきさ。その思いが強すぎて少し変わったキャラクターも生まれると思うので」。少年時代は江戸川乱歩、横溝正史の推理小説を好み、むさぼるように読んだ時期もある。「独特の世界観が新派に向いているのに」ほとんど上演されてこなかったのを不思議に感じていた。
演出、上演台本を作った齋藤氏は「原作にあって映画で使われなかったエピソードを意識した」と明かし「母と子、血族、愛憎こそが、この作品を貫く太い柱です」と強調する。複数の出演者からは脚本について「日本語が美しく、覚えるのが楽しかった」とも聞いた。齋藤氏はその点にもこだわっており「時代とは逆かもしれませんが絶対に翻訳できない作品があってもいい」と話す。
喜多村が歌舞伎から新派に入って2年が過ぎた。すっかり溶け込み、自主公演にも積極的。「移ってきて本当に良かったと思うし、後悔はありません」。一見ジャンルは違うが約30年間、歌舞伎の世界で培ったことが、確かな礎になっているという。「細かな息遣い、舞台でどこを向き、どう立つのか…一挙一動を変に意識せず自然にできるのは歌舞伎にいたお陰。離れてそのすごさを再確認させられています」
まだ2年と思う人もいるだろうが、131年目へ向け、引っ張っていかなければならない立場だ。「犬神家は、どの役も個性があって脇役はあっても端役がない。(劇団員が)みんな生き生きと参加できている」と喜び、「強く思うのは、今こそ新派が生まれた原点に立ち返ることの必要性。なぜ、どのように生まれたのか。揺るぎない精神、哲学もこの機会に考え、見つめ直したい」。新しい新派の再興に向け、思いは尽きない。