由紀さおり、「夜明けのスキャット」大ヒットは「好きな言葉で歌ってみて」で始まった!

スポーツ報知
本人“発案”による名曲秘話を語った由紀さおり(カメラ・能登谷 博明)

 来年デビュー50周年の由紀さおり(70)が一躍有名になるのが、1969年発売のデビュー曲「夜明けのスキャット」。ラジオ番組「夜のバラード」(東京放送、現TBSラジオ)のテーマ曲が反響を呼び、レコード化された。当時20歳。即興的に生まれた名曲だが、背景には6歳から培った確かな歌唱力があり、決して偶発的なヒットではなかった。

 ♪ルルルルル…、ラララララ…。

 斬新な“歌詞”が驚きを与えた「夜明けのスキャット」は、由紀の歌謡曲デビュー曲。ラジオ番組「夜のバラード」のテーマ曲は、名作曲家・いずみたく氏が担当していた。「メロディーはこれなんだけど。好きな言葉で歌ってみて」。譜面を渡され、少し考え試してみたのがこれだった。スキャットは音楽用語で、主にジャズで使われる即興的な歌唱法。1960年代に入って多用されるようになった。

 一見、無意味に同じ音が続くようだが違う。小1から「ひばり児童合唱団」で童謡に親しみ、中・高とジャズを専門的に習った。デビュー前からクラブで歌うなど、歌唱力に磨きをかけていた。

 「音の広がりを考えながら起承転結をつくるイメージ。ル、ラの次がパパパ…。間が抜けたように終わるのはよくないので再び“ル”に戻る流れにしたのね」

 誰の声なんだ?問い合わせ殺到 

ラジオで流れ始めると、「誰が歌っているのか」などの問い合わせはがきが段ボール1箱も届く反響ぶり。山上路夫氏の作詞が後半について69年3月レコード化。異例の展開で150万枚のヒットになった。

 冷静に振り返ることができる。ここにくるまでに約300のCMソングを歌っていた。若いながらもコマーシャルが新しい時代をつくる最先端の世界であるとの本質も見抜いていた。

 「音楽に限らず、あのころ世の中は混沌(こんとん)としているのに、言葉が氾濫していた。CMソングもストーリーより、耳に心地良いサウンドに変わり始めていた」

 スキャットを用いたのは、冒険でなく、むしろ自然な流れだった。

 「1曲のヒットで、見る側だった憧れのテレビ番組から次々に声がかかるようにもなった。私に、もっと歌いたいと思わせ、歌の魅力にさらに気づかせてくれた」

児童合唱団通う姉安田祥子影響 そもそも、歌との出会いは7歳上の姉・安田祥子が児童合唱団に通っていたのがきっかけ。幼い女の子を家に置いておけない。親に一緒に連れられ、おとなしく待っていた。まだ歌詞も読めない。しかし、いつの間にかしっかり覚えて家で歌っている天才的な一面を持っていた。

 もし「夜明けのスキャット」がなかったら、どうなっていただろう。

 「今この由紀さおりは、いなかったでしょう。『知る人ぞ知る』のまま、好きな歌を続けていたと思いますよ」

 10代で銀座のクラブで初めて人前で歌う。ジャズを教わった先生は、由紀の早熟な才能を見抜いていた。「僕のところに来ても、うまくならないよ。歌はお客さんの前で歌ってこそ、初めてうまくなるのだから」。早い段階でプロの厳しさに触れることを勧められた。

 銀座の表と裏。華やかさとは対照的に、楽屋付近はジメッとしていて暗かった。

 「カビやお酒、お姉さん方の香水…独特のにおいが混ざっていて。最初そこに入るのが嫌でね。でも英語の歌を初めて歌い、初めて拍手もらって、演奏のバンドの人に『良かったなぁ』と言われたのもそこ。忘れられないですよ」

 半世紀たっても初心に帰ることのできる柔軟性こそが、由紀の表現の原点であり強さなのかもしれない。

 ◆由紀 さおり(ゆき・さおり)本名・安田章子。1948年11月13日、群馬・桐生市生まれ。70歳。童謡やCMソングを歌い69年「夜明けのスキャット」でデビュー。主なヒット曲に「手紙」「生きがい」「故郷」「恋文」。83年映画「家族ゲーム」で毎日映画コンクール助演女優賞。2011年米ジャズアンサンブル、ピンク・マティーニとコラボしたアルバム「1969」は世界50か国以上で発売。NHK紅白歌合戦にソロで13回、姉とのユニットで10回と計23回出場。

 来年1月記念公演
 来年1月に東京・明治座で50周年記念公演(6~20日)を行う。オリジナル喜劇「下町のヘップバーン」(堤泰之作・演出)と、俳優・中川晃教(36)ら日替わりゲスト計6人との共演で名曲を中心とした歌のステージの2部構成。演技、トーク、音楽と盛りだくさんだ。
歌手でありながら女優としても評価。天性の間を生かしたコメディエンヌぶりに人気がある。「下町―」では映画館近くで働く人情に厚い食堂の女店主役。「50周年のスタートを切る最初の仕事。年末、年始をゆっくり過ごすつもりはありません」ときっぱり。「今までにない喜劇をお届けしたい。新年から大いに笑ってほしい」。共演は篠田三郎、重田千穂子、久住小春、渡辺正行ら。

 【1969年の世相】▼アポロ11号月面着陸▼500円札発行▼東大安田講堂事件、その影響で入試中止▼東名高速道路が全通▼巨人5年連続セ・リーグ優勝▼映画「男はつらいよ」シリーズ始まる▼パンタロンスタイルが大流行

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