【報知映画賞】助演女優賞に樹木希林さん、存在感は生き続ける

スポーツ報知
2008年助演女優賞時の樹木希林さん。“紙面映え”を考え珍しい赤い服で

 今年の映画賞レースの幕開けとなる「第43回報知映画賞」の各賞が27日、発表された。助演女優賞は今年9月に亡くなった樹木希林さん(享年75)が3作品で受賞した。

 樹木さんは出演3作のどれも甲乙つけがたい完成度の高い演技を見せた。08年「歩いても歩いても」(是枝裕和監督)での助演、15年「あん」(河瀬直美監督)での主演に続く3度目の栄冠だ。

 「『トロフィーとか盾とかいらないわよ。重いし持って帰っても置くところないから。で、私のお芝居のどこがよかったの?』。希林さんがいたら、そんなことを言ったんじゃないか?と、勝手に想像して笑ってます。おめでとうございます」

 樹木さんの声がいまにも聞こえてきそうなこのコメントは「万引き家族」の是枝監督が、新作撮影中の海外から寄せたもの。晩年は是枝組の常連だった樹木さん。今作がカンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールに輝いた背景には、“扇の要”のような樹木さんの存在感によるところも大きい。

 「モリのいる場所」では古巣、同じ文学座出身の山崎努(81)と夫婦役で初共演を果たした。樹木さんは、黒澤明作品に出演し早くに成功した山崎を「仰ぎ見るような存在だった」と語っていた。しかし、いざ共演すると主人公を支える妻を静謐(せいひつ)な芝居で巧みに表現してみせた。沖田修一監督は話す。

 「撮影の合間も、希林さんが役と同化したように縁側に座っておられる光景が印象的で」といい、「僕のような若い者の意見もおもしろがって何でも聞いてくださった。今も違う作品を撮りながら、希林さんなら何ておっしゃるだろう、とよく思うことがあります」。

 樹木さんは生前、「副賞は気になるけど、トロフィーに関心なし」と、ほとんど手元に置かず、手放していた。しかし、15年の主演女優賞時の取材でこう話していた。「これ、シーサー(沖縄の伝説の獣像)みたいに門に飾ろうかと思ってるのよね」。今回、娘の内田也哉子さんにお願いして、どうなったのか調べてもらった。

 すると、風情のある自宅の庭にありました! ブロンズ像が映画賞のプレートとともに。約束通り、確かにシーサーっぽい雰囲気。しかし、それにしても頑丈で重い大理石の土台をどうやって「分離」させたのか。報知映画賞に関わる者にも大きな疑問を残して旅立ったのでした。(内野 小百美)

 ◆樹木 希林(きき・きりん)本名・内田啓子。1943年1月15日、東京都生まれ。文学座を経て、64年TBS系「七人の孫」で人気者に。77年「悠木千帆」をオークションにかけ芸名変更。他の主な出演作に「わが母の記」「ツナグ」「駆込み女と駆出し男」など。夫はロック歌手の内田裕也、娘は文筆家の内田也哉子。2018年9月15日死去。享年75。

 ◆「モリのいる場所」 30年間ほとんど家を離れることなく、身近な生物などの絵を描き続け、97歳で亡くなった画家・熊谷守一(山崎)と妻の秀子さん(樹木)の晩年の一日を描く。

 ◆「万引き家族」 今にも壊れそうな平屋に、万引きなどの軽犯罪を重ねながら生活する“一家”。犯罪でしかつながれなかった家族の姿を通して、人と人のつながり、本当の家族とは何かを問い掛ける。

 ◆「日日是好日」 原作は森下典子氏のエッセー。生きがいを見つけることができない女子大生(黒木)が、茶道教室に通い始める中で少しずつ人生に張り合いを感じ始め、変化していく。

 ▽助演女優賞 尾野、筧、川栄、松岡の名前も挙がったが、樹木さんが満票。「彼女がいるだけで世界が変わる。世界が出現する。こんな女優、他にいない」(見城)、「亡くなられた年に主演に匹敵する良作を残されているのが素晴らしい」(松本)

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