Ken’S Bar20周年 苦肉の策で生まれた平井堅の「礎」

スポーツ報知
“開店”20周年で動員20万人の「Ken’S Bar」を行ってきた平井堅

 シンガー・ソングライターの平井堅(46)がライフワークとする「Ken’S Bar」が今年、“開店”20周年を迎えた。「酒と音楽を楽しむ」がコンセプト。8月には米ニューヨーク公演も行い、先月23日からツアー形式のアニバーサリースペシャルもスタート。デビュー4年目の98年5月から、05年には東京ドーム公演も開催。平井の活動を語る上で欠かせないものとなったが、もともとは「苦肉の策」で始めたものだった。誕生秘話から、今後の展望にまで迫った。(畑中 祐司)

 ステージに立つ“平井店長”のおもてなしは、オリジナル楽曲に洋邦楽のカバー曲を織り交ぜながら歌うステージ。円卓を囲む観客は、思い思いのお酒を手に、美声に酔いしれる。それが「Ken’S Bar」だ。

 「もはや通常のコンサートよりもたくさんやっている。小編成でただただ歌う。最近のCD音源もそうだけど、できるだけ音数を少なく、歌を前面に。自分で言うのも何だけど、自分に合っている。自分の礎、基盤」

 抜群の歌唱力は、言うまでもない。アコースティック編成でのライブは、平井の持ち味が存分に生きる。95年のデビューから、00年に「楽園」がヒットするまで、その才能は日の目を見なかった。「なかなかリリースもコンサートを開くのも難しい状況だった」。それを打開しようと思いついたのが「―Bar」だった。

 「当時ほかにやることがなく、苦肉の策。当時スタッフの方とよくソウルバーに行っていて、それを“提供”する側になろうと。店という体にしてやろう、となったんです。どうやったら人に見てもらえるか、しかなかった」

 第1回は東京・大久保の小さなレッスンスタジオ。収容はたったの50人。それも一般客と関係者を合わせてだ。

 「ステージを作って、バーカウンターも作って、コースターも手作りで。本当にハンドクラフトでした」

 20年たって、自身にとって「礎」と言うほどのものになった。苦しいときも、自分を見失いそうなときも自身の精神を支えてきた。05年には東京ドーム公演、今年はNY公演も開催した。

 「今は(―Barが)日常化しすぎて、俯瞰(ふかん)して思うことも、聞かれない限りない。でも、改めて考えると、やめたいなとか、しんどいなとか、嫌だなとか、やりたくないなとか思うときもあった。ネガティブなことばっかり言っているけど、僕はデビューから1回も、1公演もキャンセルしていないのが唯一の自慢。(ステージに立つことを)ギリギリまで逃げたこともあったけど。自分で思っているよりも、すごく、気付けばずっと寄り添ってくれた大事な存在。ずっと支え、叱咤(しった)してくれたもの」

 かけがえのない「―Bar」をきっかけに生まれた楽曲もある。テーマ曲として制作した「even if」だ。第1回で初披露して、00年にCD化。放送中のフジテレビ系ドラマ「黄昏流星群~人生折り返し、恋をした~」の主題歌に採用され、先月28日に発売された「half of me」も同様。09年のステージで初披露され、未発表となっていたが、20周年というタイミングでCD化が決まった。

 「half―」は「―if」の10年後を歌った楽曲だ。23歳でデビューし、倍の46歳になった。自身の10年後を、どう思い描くのか。

 「よく聞かれるけど、末恐ろしい…。10年後は56歳。そうすると鎮座感というか、ドシンと構えた感というか。友人とかにも、そんなにあくせくシングル出してテレビ出てとか、そうじゃなくてもいいんじゃない?って。僕自身もあくせくするつもりはないけど、心の中は、やっぱりどんどん生き急いでいる。やっぱりどうなるか分からないから。声がいつまで出るかも分からない」

 もがき苦しんだ頃に始めた「―Bar」。今も同じぐらい「苦しい」という。それは、今でも理想を追い求めているからだという。

 「若い頃より、いい意味で焦っている。自分を疑っているし、自分に不満を持っている。むしろ、今の方が強い。それが10年後もあるかと思うと、それはそれで末恐ろしいんですけど。皆目見当もつきませんが、ただ、56歳になっても、ニューカマーとかに嫉妬する人生も悪くない。ゆっくり和室でお茶を飲むのもいい。でも、隠居感みたいなものは、あまり憧れない。羨ましいけど。大物感みたいなのも。自分の中では皆無。コンプレックスでもあるけど、本当にずっと新人という気持ち。必死。1つの歌を流すなんて絶対できない。毎回1人でも多くの人に爪痕残せるように必死で歌っているし、やるからには、ずっと戦っていたいですね」

 ◆NY公演映像化

 20周年を記念して、5日に映像作品「Ken’s Bar 20th Anniversary Special!!」が発売される。5月に行った東京公演、8月のNY公演を収録。NYは、かつて3か月ほど暮らしたこともあり、ライブはデビュー15周年の2010年以来。米歌手フランク・シナトラ「ニューヨーク・ニューヨーク」やマリリン・モンロー「I Wanna Be Loved by You」を歌ったシーンなどが完全収録されている。

 ◆平井 堅(ひらい・けん)1972年1月17日、大阪府生まれ、三重・名張市育ち。46歳。横浜市立大卒。大学在学中にソニーレコードのオーディションに合格し、93年に同社と契約。95年「Precious Junk」で歌手デビュー。2000年「楽園」でブレイクし、NHK紅白歌合戦に初出場。その後「Ring」「瞳をとじて」などヒットを連発。ベスト盤を含めたアルバムで、ミリオンセラー4作は、男性ソロ歌手では歴代最多。身長183センチ。血液型A。

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