尾上菊之助、歌舞伎にドラマに“時の人” 挑戦続きの1年を語る

スポーツ報知
「姫路城音菊礎石」に出演する(左から)尾上菊之助、中村時蔵、尾上菊五郎、尾上松緑

 放送中の連ドラ「下町ロケット」(TBS系、日曜・後9時)でも話題を集めている歌舞伎俳優・尾上菊之助(41)。新年は東京・隼町の国立劇場「姫路城音菊礎石(ひめじじょうおとにきくそのいしずえ)」(1月3~27日)が仕事始め。舞台に映像に“時の人”は新たな転換期を迎え、役者として充実期に入った。今年を振り返る中で、自分自身をどのように見つめているのかを聞いてみた。

 菊之助が民放連ドラに初レギュラー出演中の「下町ロケット」も佳境。刻々と変わる展開から目が離せない。インタビュー中も、主人公(阿部寛)の味方から敵に転じ、別人格に変貌した新事業会社「ギアゴースト」の伊丹大社長のイメージがちらつく。

 「ベンチャー企業の社長役など歌舞伎ではまずできない役ですからね。難しくもあり、現代劇の面白さも。撮影現場ではドライといって一度、お芝居を合わせて直す部分があれば瞬時に修正。知恵や意見を出し合ってつくる瞬発力。とてもいい刺激を受けています」

 ドラマと舞台。全く別ジャンルでなく、歌舞伎にも生きる貴重な経験だと語る。

 「テレビではカメラを通して“自分の見え方”をいやが応にも知ります。こんな点が自分のクセだったのか、とか。すぐチェックでき、芝居でこうしたいな、が反映されていく。ここまで細かく内観してこなかった。新鮮で面白い世界です」

 数年前まで「自分は器用ではないので」と歌舞伎一筋で、他の仕事をかたくなに映るほど遠ざけていた時期もある。しかし心境の変化も役者の器を大きくしている。早朝からドラマを収録し、歌舞伎の舞台に出る日も。疲れていても相乗効果を感じている。

 「両方できるチャンスをいただけたことへの感謝。ドラマが素晴らしい現場だけになおさら。私は今も切り替えがうまい方ではありません。でも多少疲労感があっても、また違ったエネルギーが湧いてくるというか。今まで知らなかった新しいやりがいを感じられる喜びも大きいですね」

 歌舞伎でも収穫の多い年だった。3月(国立劇場)に「梅雨小袖昔八丈」で大役、髪結新三に挑戦した。悪役だが“江戸の悪の華”と称される魅力ある有名な役。2016年に初めて演じた「魚屋宗五郎」の宗五郎役もそうだが「音羽屋の芸」の継承も常に考えている。

 「それまで女形を主体でやってきましたが、(尾上)菊五郎の家に生まれたからには、この2つの役はやりたいと思い続けてきました。かといって、それが自分にどこまでできるのか。挑戦でき、落第せずスタートラインに立てたことは大きかった。40歳になって立役(男役)で勉強しておきたい役がたくさんあります」

 家に帰れば3児の父親。5歳になった長男・和史(かずふみ)くんと今年は2度、舞台に立った。子供の成長は早い。昔の自分を見るような思いにもなるそうだ。

 「今のところ厳しい稽古も嫌がらず、へこたれずにやっています。まだ分かりませんけど、気持ちの根底では歌舞伎が好きなのでしょう。親になって分かったことですが、子供が歌舞伎という大人の世界に入ることはやはり大変。楽屋で行儀良く、じっとしていること一つにしても。ストレスもある。思い切り一緒に遊んでやる時、稽古で厳しくする時。切り替えの大切さを一層、思うようになりました」(内野 小百美)

 ◆尾上 菊之助(おのえ・きくのすけ)本名・寺嶋和康。1977年8月1日、東京都生まれ。41歳。尾上菊五郎の長男。84年「絵本牛若丸」で6代目尾上丑之助を襲名し初舞台。96年「弁天娘女男白浪」の弁天小僧ほかで5代目尾上菊之助を襲名。屋号は音羽屋。13年中村吉右衛門の4女、瓔子さんと結婚。1男2女がいる。母は富司純子、姉は寺島しのぶ。

 ◆「五右衛門」出演中

 今月は中村吉右衛門(74)が石川五右衛門役で“つづら抜け”と呼ばれるユニークな宙乗りでも楽しませている通し狂言「増補双級巴(ぞうほふたつどもえ)」(国立劇場、26日まで)に出演中。菊之助が演じるのは藤吉郎久吉(後に真柴久吉)という武将。天下の大泥棒と重臣。立場は対照的だが、かつて同じ主人に奉公していた竹馬の友という設定だ。「五右衛門の対となる役ですが、それに見合った大きさがなければ」といい、ラストでは五右衛門を観念させる人格的な面にもこだわりながら演じている。

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