【平成回顧】〈25〉プレゼン力で東京五輪決定…トイレの間に出来ていた“おもてなし”振り付け

スポーツ報知
招致活動の顔として「おもてなし」を流行語にした滝川クリステル

 天皇陛下の生前退位により4月30日で30年の歴史を終える「平成」。スポーツ報知では、平成の30年間を1年ごとにピックアップし、あらためて当時を振り返る。第25回は平成25年(2013年)。(この記事は2018年10月28日の紙面に掲載されたものです)

 平成25(2013)年9月7日午後5時20分(日本時間8日午前5時20分)、国際オリンピック委員会(IOC)総会がブエノスアイレスで行われ、20年夏季五輪開催都市が東京に決まった。投票ではライバルのイスタンブール、マドリードを寄せつけず、アジアでは初の2度目の開催となった。東京は16年五輪招致ではリオデジャネイロに完敗。リベンジを期して挑んだ招致レースの成功は、前回の失敗を糧に「プレゼンテーション力」を磨き抜いた努力の結晶でもあった。(樋口 智城)

 ジャック・ロゲ会長が開催都市を記したボードをくるりと返すと「TOKYO」の文字が鮮やかに浮かび上がった。ブエノスアイレスの最終プレゼンに立った滝川クリステルが、フェンシングの太田雄貴(現・日本フェンシング協会会長)が号泣。開催決定に喜びを爆発させた。

 決選投票でイスタンブールに24票差をつける60票を獲得。圧勝劇の理由は、滝川の「おもてなし」に代表されるプレゼンの成功にあったとされた。広報チームの中心として活動した高谷正哲さん(40、現・組織委スポークスパーソン)は、その裏に16年五輪招致の反省があったと打ち明ける。

 「当時の敗因の一つに、プレゼンの弱さがあった。主張に一貫性がなかった」と高谷さん。「環境五輪とかいろいろ掲げましたが『結局何を訴えたかったの?』って評価でしたね」と説明する。温暖化対策をアピールした時、ある委員には「国連でやってくれ」と突き放された。

 20年招致は、まず「プレゼンに特化した五輪コンサルタント」を探すことから始めた。白羽の矢を立てたのは英国人のニック・バーリー氏。12年ロンドン、16年リオの招致を担当した辣腕(らつわん)だった。

 20年招致のプレゼンは、最後のブエノスアイレスを含め4回。バーリー氏と高谷さんが中心となって、計画を話し合った。まず主張する「日本の強み3つの柱」を決定。「安全安心確実な大会運営」「どれだけ国民から支持を受けているか」「日本文化の魅力」を、しつこく強調し続けた。プレゼンターも「論理的に利点を語る人」と「委員の感情に訴える人」を適材適所に振り分けた。

 滝川にも、「東京という都市における『文化の魅力』を委員の感情に訴える」という明確な役割があった。高谷さんらが事前に何を強調したいのか聞くと、滝川からは「おもてなしの心」という言葉。純粋な景観面の魅力ではライバルに勝てないと踏んでいたバーリー氏は、この考えを取り入れた。

 滝川が最終プレゼン前に都庁で行われた3週間に及ぶ特訓の最中。何か物足りないなぁと感じた外国人の原稿トレーニングのコーチが、不意に「おもてなし」の言葉に振り付けを加え始めた。高谷さんは「トイレで席を外したわずかな間に突然あの手ぶりが完成。私は振り付け必要ないじゃん派だったんですが、とてもキュートだったので採用~ってなりました」。

 最終プレゼンでは、冒頭で高円宮妃久子さまがフランス語と英語を交えて被災地支援へのお礼を述べるなど8人が登壇した。高谷さんは「話す順番から内容まで全てがハマッた」と振り返る。

 当時都知事だった猪瀬直樹氏(71)は「16年招致は組織が縦割りでバラバラだった。20年の時は国や経済界まで招致活動に加わり、チームワークが抜群でしたね」と話す。東京五輪の開催は、関わった人が役割を自覚し、全力を尽くしたからこそ勝ち取れたものだった。

 ◆皇室の協力大きかった…久子さまスピーチにIOC感銘

 20年の五輪招致成功をもたらした要因の一つに「皇室の協力」がある。猪瀬氏によると、最終プレゼンで最もIOCを感銘させたのは、高円宮妃久子さまだったという。

 猪瀬氏は「IOCは貴族文化なんですよ。ロゲ会長も伯爵で、委員も皇室の親戚とか『サー』が付く人が多い」と指摘。「だから、日本の皇室の方がスピーチすればリスペクトが集まるのです」と話す。久子さまは、英語、仏語が流ちょう。「気品あるスピーチによって、日本の支持が確固たるものになった」と説明する。

 猪瀬氏が都知事に就任したのは2012年。初登庁となった12月18日に真っ先に訪問したのが宮内庁だった。交渉は難航を極めたが、何度も足を運び、説得に成功。

 13年3月にIOCの評価委員が東京に来る際には皇太子殿下と面会。「皇室の方々の協力がなければ、東京五輪の実現はなかった」と猪瀬氏は振り返った。

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