【平成回顧】〈22〉元「デジタルネイティブのスーパー高校生」、梅崎健理さん 孫社長がツイッターをフォロー

スポーツ報知
梅崎健理さん

 天皇陛下の生前退位により4月30日で30年の歴史を終える「平成」。スポーツ報知では、平成の30年間を1年ごとにピックアップし、あらためて当時を振り返る。第22回は平成22年(2010年)。(この記事は2018年10月7日の紙面に掲載されたものです)

 平成22年。流行語大賞トップテンに、初めてSNS発の言葉となる「~なう」が入った。受賞者として壇上に登ったのは、当時17歳で「デジタルネイティブのスーパー高校生」と呼ばれた梅崎健理さん(25)。08年にツイッターが日本に上陸した直後から普通に使いこなせる少年として名をはせていた。高校生で自身のIT企業も設立。時代の寵児(ちょうじ)だった男が体験して感じた、ツイッターの役割の変化とは。(樋口 智城)

 

 2010年12月の流行語大賞。壇上に立った高校2年生の梅崎さんの心には「楽しい」の感情しかなかった。楽屋では、AKB48の高橋みなみと談笑。「なう」の流行で本格的に普及したツイッターは、ただのイチ高校生に過ぎなかった自分自身の住む世界を広げてくれた。

 ツイッターが日本に登場したのは08年。前年にiPhone(アイフォーン)が日本で初めて発売され、場所を選ばずパソコンと同様の画面が見られ、ネットができるようになり、「どこでも誰もが好きなことを発信できる」ツールに需要ができた。

 たった2文字で「今、ここにいます」を簡単に表せる「なう」は、その象徴。「それまでは自宅などパソコンの前でしか発信できなかったことを考えると画期的。中3で初めて触れて『コレは来るな』と直感しました」

 有名になったきっかけは、09年末に投稿したツイッターの一文だった。ソフトバンクの孫正義社長がツイッターを始めたことを知ると、すぐ「孫さんが16歳の頃に藤田田さん(日本マクドナルド創始者)に会いに行ったように、僕もいつか孫さんに会いに行きます」と呼びかけ。直後に孫社長からフォローされた。孫社長のフォローは、梅崎さんで3人目。「カリスマ社長に認められた高校生」として一躍寵児になった。「当時のツイッターは大人だけが集う場所。高校生がやっているだけで珍しくて注目されたんです」。孫社長とは翌年に面会も果たした。

 「この一件が示す通り、ツイッターを介して知らない人と直接会うことが目的だった」。地元福岡のIT経営者らともツイッターを通じて交流。10年には高校生でIT会社を起業した。「それ以前は2ちゃんねるなどの掲示板文化で、匿名かつ特定の人しか集まらないクローズな社会だった。当時のツイッターは実名を明かしているのが普通だったので、安心して会いに行けたんですよ」

 ツイッターの利用者は爆発的に増え続けた。情報通信白書によると、ユーザー数は09年1月の時点で約200万人だったが、10年には約1000万人。17年には約4500万人に増加した。すると「外へ開かれた便利なツール」だったツイッターの役割も変化した。

 「誰でも使える普通の道具になったことで、以前のように全員が『発信する人の文脈や発言意図をくみ取ろう』とする人だけではなくなった」。ある日、梅崎さんは大学生と交わした、たわいもないツイッターのやりとりで炎上した。「途端に面倒くさくなりました」。さまざまな考えを持つ人が参加することで、気楽に好き放題に書き込む自由が失われた気がした。流行語大賞から4年、梅崎さんはツイッターをほぼやらなくなった。

 同時期に問題となった、悪ふざけや犯罪行為を投稿する「バカッター」騒ぎを経て、多くの人は外部の批判を恐れて身元がバレないよう匿名で発信するようになった。芸能人ら宣伝目的の使用以外では「仲間内にだけ話す」ことと「情報を読むだけ」の人へと二極化。梅崎さんがハマッた「知らない人と交流する」機能は喪失した。「昔の『掲示板』と同じ、クローズなツールに戻ってしまったということです」。場所を明示してしまう「なう」も、ツイッターで使われることはなくなった。

 梅崎さんは現在、高校生の時に作ったIT会社の社長として活躍。傍らで別会社のマーケティング部長にも就任した。「業務は…。例えば『新聞配達員は、毎日家に訪問しているから、配達のみではもったいない。このネットワークを何とかビジネスにつなげられないか』といったことを考えるコンサルタントですね」。アナログ感あふれる仕事。それでも「直接人とつながることが重要」とする基本姿勢は変わっていない。

 ◆梅崎 健理(うめざき・けんり)1993年、鹿児島県生まれ。4歳からパソコンを始める。小学5年生まで長野県で育ち、その後福岡県へ。2010年12月1日、高校在学中にIT関連企業「ディグナ」を設立、同日に「~なう」で2010年流行語大賞を受賞した。現在は慶大総合政策学部に在籍(休学中)。

 ◆日本の主なSNS 「ツイッター」は、上限140文字での短文投稿のためのもので、リツイートで不特定多数の人へ情報が拡散されやすいのが特徴。「フェイスブック」は、世界で一番使われているSNS。全体の8割が実名登録していることから、比較的フォーマルな場として使われやすい。「インスタ」は写真投稿に特化しており、ハッシュタグをつける利用者が多いのも特徴。「LINE」は実際の友だちなどとのトークでのやりとりが中心。つながるのは知人が多く、範囲は狭い。

 ITジャーナリストの井上トシユキ氏
梅崎さんが指摘した「SNSの役割の変化」について「結局、人間は、そんなに多くの人とつながれるものじゃないってことですよ」と分析する。「例えばスナックは、どの街でもなくならないでしょ? 少人数の閉じられた社会でワイワイすることに安らぎを覚えるものなんですよ」

 08年、ツイッターとフェイスブックが日本に上陸。11年にLINE、14年にインスタグラムがお目見えした。井上さんは「SNSは、時勢に合わせて最も便利なものが隆盛する」と説明する。LINEは、仲間内での会話と「LINEニュース」などの情報提供に強み。インスタはハッシュタグなどを駆使して「モノ」を介してつながることに主眼を置いたもので、いいね疲れなど「人とつながる」ことに限界を感じた人が飛びついた。

 「SNSは便利。今後もなくならないでしょう」。ならばどう進化していくのか。井上氏は一例として「仮想現実(VR)」を挙げる。「例えばVRのゴーグルとかメガネとかを装着してSNSと連動させれば、遠くにいてもまるでその場にいるかのように相手と話せる。いわばSNSのリアルスナック化ですね」。仲間内でのやりとりというクローズ性は、今後も加速していくのかも知れない。

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