【平成回顧】〈12〉いつの間にか消えた2000円札…ミレニアムに沸くも悪かった使い勝手

スポーツ報知
2000円札を手に発行の経緯などを語った堺屋太一氏

 天皇陛下の生前退位により4月30日で30年の歴史を終える「平成」。スポーツ報知では、平成の30年間を1年ごとにピックアップし、あらためて当時を振り返る。第12回は平成12年(2000年)。(この記事は2018年7月29日の紙面に掲載されたものです)

 ミレニアム(千年紀)で沸いた平成12(2000)年。2000円札発行を主導した小渕恵三首相は5月に脳梗塞で亡くなり、続く森喜朗内閣で7月に発行された。バブル崩壊後の不況の中、景気を押し上げるとの期待もあった。ピーク時の04年8月末には、流通枚数が5億1000万枚となり、5000円札をしのぐ規模だった。ところが電子マネーの普及などが進み、現在は紙幣全体の1%以下にとどまる。2000円札はどこに消えたのか―。(久保 阿礼)

 「2000円札が必要なんですか? 両替機では対応できないので、窓口でお願いします」。都内のある大手銀行では紙幣の“在庫”を慌てて確認してから、窓口で対応した。

 1999年10月5日の閣議。小渕首相(当時)は2000年7月までに2000円紙幣を発行すると表明した。新たな額面の紙幣は58年に「聖徳太子の1万円札」を出して以来42年ぶり。貨幣全体では、82年の「500円玉」発行以来18年ぶりのことだった。表には「沖縄の守礼門」、裏には「源氏物語の一場面」をあしらったデザイン。ミレニアム、そして7月に沖縄サミットが開かれるため、絶好のタイミングと判断された。小渕氏は会見で「発行にふさわしい年だ」と強調した。

 新札構想は通商産業省(現・経済産業省)若手官僚の提案がきっかけとされる。当時の経済企画庁長官で作家の堺屋太一氏(83)が明かす。「(発行の)最終決断は小渕さんでしたが、沖縄開発庁の意向が強かった。『新札であれば、沖縄特有のものを作りたい』と」

 日本の通貨の歴史をたどると、『1』や『5』がほとんどで、戦前の20円券、200円券も浸透しなかった。日銀には「2」がつく貨幣が流通することで、現金の支払いや受け取りに必要な紙幣を節約できるなどの期待があった。ほかの主要国でも同様の理由で2のつく通貨が使われているため、導入を契機に「これまでの習慣を変えたい」という狙いがあった。

 「米国やフランス(当時の通貨はフラン)など諸外国では2のつくお金がたくさんありますが、日本は1円、5円、10円という文化でした。『2ドル札のように2がつくお金があれば、祝儀としても便利ではないか』、『なぜ、日本だけにないのか』というところから検討が始まりました」

 小渕氏は病に倒れ、森首相の下で00年7月19日、新札は発行された。商店街やスーパーでは「2000円均一セール」が始まり、景気浮揚につながるとの期待もあった。だが、発行からわずか3か月で「使い勝手の悪さ」を指摘する報道が相次いだ。「自販機で使えない」、「電子マネー時代に逆行する」―。大蔵省(現・財務省)では、職員給与の一部を2000円札で支払うなどPRしたが、焼け石に水だった。その存在感は徐々に薄れていった。

 日本銀行によると、2017年末、家庭や企業、金融機関などで年越しした「紙幣」の残高は旧紙幣を含め106・7兆円。枚数にすると、約165・3億枚に上る。6月末の統計では、1万円札が約67・0%を占め、1000円札が約28・0%、5000円札の4・3%と続き2000円札はわずか0・7%。94年に発行停止となった500円札(1%強)をも下回る。

 00年度に7億7000万枚、03年度に1億1000万枚を製造したのが最後となる。現在、2000円札は全国で約9800万枚流通し、残りは日銀の金庫に眠るか、摩耗で回収されたという。

 本土では“行方不明”となった「2000円札」。だが、沖縄県内では、約592万9000枚が流通する。官民一体の流通促進委員会(11年3月解散)が普及に努め、流通数は毎年のように増加している。

 沖縄の財界首脳は「沖縄への愛着を持って財布に入れている人はいます」と話す。「ただ、県内でも両替機やコインパーキングで使えない場合が多いですね。これ以上は、難しいかもしれません…」

 今後、電子マネーの利用はさらに進み、仮想通貨も普及していく。堺屋氏は言う。

 「日本では2の数字は使われない、というのが結論でした。日本は10進法の文化ですから。インド政府も2016年に高額紙幣を廃止したり、キャッシュレスに突入しています。今後はカード決済する訪日外国人もさらに増え、労働力も節約できます。お札を使う時代ではなくなりつつあるのでしょう」

 ◆堺屋 太一(さかいや・たいち)本名・池口小太郎(いけぐち・こたろう)1935年7月13日、大阪府生まれ。83歳。東大経済学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)。大阪万博(70年)、沖縄海洋博(75年)、新エネルギー技術研究開発「サンシャイン計画」(74年)などに尽力。76年に退官後、テレビなどで活躍する。98年、小渕内閣で経済企画庁長官に就任。2011年から大阪府市特別顧問など。「油断!」、「団塊の世代」、「巨いなる企て」、「峠の群像」、「豊臣秀長」、「知価革命」など著書多数。

 ◆主な外国貨幣(レートは27日)

 ▼米国・1ドル=約111円 紙幣は1、2、5、10、20、50、100(ドル)。硬貨は1、5、10、25、50、100(セント)

 ▼EU・1ユーロ=約129円 紙幣は5、10、20、50、100、200、500(ユーロ)。硬貨は1、2、5、10、20、50(ユーロセント)、1ユーロ、2ユーロ

 ▼中国・1元=約16円 主な紙幣は1、5、10、20、50、100、(元)、5角、1角。硬貨は1元、5角、1角など

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