【平成回顧】〈24〉東京スカイツリー開業 強風問題を克服…次はリピーター率ツリ上げたい

スポーツ報知
平成を代表する建造物となった東京スカイツリー

 天皇陛下の生前退位により4月30日で30年の歴史を終える「平成」。スポーツ報知では、平成の30年間を1年ごとにピックアップし、あらためて当時を振り返る。第24回は平成24年(2012年)。(この記事は2018年10月21日の紙面に掲載されたものです)

 世界一高い自立式電波塔、東京スカイツリー(東京都墨田区、634メートル)は平成24年5月22日に開業した。東京の新シンボルは当初、強風の度にエレベーターが止まってしまう難点があったが、改修工事を経て現在は解消。その一方で、集客力やリピーター率の向上など課題は常に山積している。平成という時代を象徴する建造物は、次の時代にどんな役割を果たしていくのか。東武タワースカイツリー株式会社の酒見重範代表取締役社長(63)と現場スタッフにそれぞれの思いを聞いた。(甲斐 毅彦)

 完全予約制だったにもかかわらず、徹夜組を含む約4900人が長蛇の列を作った記念すべき開業日。天気はあいにくの雨だった。高倍率を勝ち抜いて入場券を入手した9000人が地上350メートルの天望デッキで見た下界は雲で真っ白。来場者たちは苦笑いし「せっかく来たのに…」とため息を漏らしていた。

 天候に勝てないことはもちろん分かっていたが、間が悪いことに夕方からは強風により、デッキから天望回廊(450メートル)へ向かうエレベーターが停止。期待が大きければ、そのぶん失望も大きい。最高点にたどり着けなかった来場者たちは、払い戻しの料金を受けると、肩を落として帰っていった。開業当初から誘導スタッフのリーダーを務める波塚美華さん(34)は「見送るのはつらかったです」と振り返った。

 「初日から風で止まった」。エレベーターは、その後も12年度に15日、13年度に33日、14年度に25日、強風による中止・停止があった。最大の課題だったエレベーター補強の第1期工事が完了したのは2015年8月。それ以降、営業の中止・休止は一度もない。

 「風が強い日のほうが空気が澄んでいて景色がきれいに見えるんです」とうれしそうに話す波塚さんは「展望台に上がれなかったお客さんが再度来てくださって笑顔で『また来たよ』と言われた時は救われた思いでした」と振り返る。自身は開業前年の東日本大震災での液状化により千葉・幕張の自宅が半壊。東京・江東区に引っ越し、新しい仕事を探している時に、スカイツリーのスタッフ募集を見つけ「新しいことにチャレンジしたい」という気持ちで応募した。被災した自らが、平成の新シンボルで、サービス業に携わることに、この上ないやりがいを感じた6年だったという。

 東武グループで主にホテルマンとして活躍して来た酒見さんが社長に就任したのは15年6月。強風対策にメドがつき、課題のリピーター対策として「スター・ウォーズ」などの人気米映画や人気アニメとの共同企画を進めた。

 その年の11月、フランスでパリ同時多発テロが発生。スカイツリーはトリコロールのライティングを3日間実施し、エールを送った。このことが、思わぬ国際友好につながった。翌16年の2月にパリのアンヌ・イダルゴ市長(59)が、スカイツリーに訪ねて来たのだ。

 「パリの観光客が激減し、特に日本からのお客さんの戻りが遅いということで、安全になったというアピールで東京にいらしたんです。ツリーで追悼ライティングのパネルを渡したら大変喜んでいただきました。その後はエッフェル塔(300メートル)のCEO(最高経営責任者)のアン・ヤニックさんもいらした」

 パリ7区のエッフェル塔はセーヌ川の左岸に、スカイツリーは隅田川の左岸にある。墨田区とパリ7区は互いの写真展を開催するなどですでに交流している。「五輪パラリンピックは2020年東京の次の24年はパリです。ぜひ友好関係を深めていければ、と思っています」

 武蔵大時代には鉄道研究会に所属し、鉄道会社に就職した酒見さんの好奇心は強い。ツリー社長就任後は、シンボルとしてのあるべき姿を探るべく、世界中の塔や高層ビルを視察して来た。エッフェル塔をはじめオーストラリアのシドニータワー(309メートル)、中国上海の東方明珠電視塔(468メートル)、広州タワー(604メートル)、台北101(509メートル)、マレーシアのクアラルンプールタワー(276メートル)、韓国のソウルタワー(236メートル)…そして、もちろん東京タワー(333メートル)も。

 「マカオタワー(338メートル)に行った時は233メートル地点からバンジージャンプをしているのを見て驚きましたね(笑い)。国や地域ごとにそれぞれのやり方がある。スカイツリーは電波塔としては世界一の高さを誇っていますけれども、いずれは抜かれると思います。ですが、海と山々と富士山が見える関東平野に匹敵する眺望は世界中みてもなかなかない。建築技術のコンセプトとなっている日本の伝統文化とおもてなしの心を感じていただき、世界一愛されるタワーを目指していきたいです」

 開業2年目の2013年度に619万人を記録した東京スカイツリーの来場者だが、その後は年々右肩下がり。昨年度はピーク時の約7割の444万人にとどまった。

 物珍しさ感が薄まったことに加え、天望デッキ(当日券大人2060円)、天望回廊(同1030円)と、家族4人で行けば1万円近くかかる料金設定も、リピーターを呼び込む際のネックになっているとみられる。ツリー来場者からは、「天望回廊から景色を見られたから満足してしまった」(20代女性)、「1回子どもを連れて来たので(もう十分)」(30代男性)という声が聞かれた。

 外国人の来場者比率は13年度の6・8%から17年度には22・4%と急増。隣接する埼玉県川口市から定期券で毎日のように通い、スタッフと顔見知りになっているほどの熱狂的なツリーファンもいるが、現在約3割とされるリピーター率を上げることが今後の課題だ。

 ツリー側も手をこまねいているわけではない。23日には新たに地上155メートルにある展望テラスがオープン。天望回廊と天望デッキと違ってガラスがなく、風や音を体感できる。

 また、来年4月には一般・学校ともに団体予約客の料金値下げが決まった。天望回廊と天望デッキのセット料金は、大人(18歳以上)2880円、中高生2210円がそれぞれ2500円、1900円に。学校団体ならばさらに割安となる。

 映画やアニメなどとの共同企画イベントにも力を入れている。今月31日までは絵本キャラクター「ウォーリーをさがせ!」の誕生30周年イベントを展開。なりきり衣装で来場した人には、天望デッキの当日料金が3割引きの1440円(大人)になる特典をつけた。来場者数アップへ、あの手この手の取り組みは今後も続く。

 ◆東京スカイツリー 高さは武蔵国にちなんで634メートル、総重量約4万トンの自立式電波塔。2003年にNHKと民放キー局5社が東京タワーに替わる新タワー推進プロジェクトを発足。墨田区が誘致に乗り出し、東武鉄道が12年2月、貨物操車場跡地に総事業費650億円で完成させた。頂上に向かうにつれ断面が三角形から円形に変化する構造。五重塔の「心柱(しんばしら)」を参考に鉄筋コンクリート製円筒を中心部に採用しており、耐震性は高い。開業時に「粋」(青)「雅」(紫)の2色だったライティングに現在は橘色を基調とした「幟(のぼり)」が加わっている。

 ◆スカイツリーのその他の役割 電波塔と観光としての役割以外に、現在では気象観測なども行っている。高さ497メートル地点と445メートル、300メートル地点では雷、458メートル地点では雲粒と大気中の微粒子、375メートル地点では風、250メートル付近では大気中の二酸化炭素をそれぞれ観測している。都市での気象や大気質の解明はツリーの役割の一つだ。

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