【平成回顧】〈11〉来なかった恐怖の大王「ノストラダムスの大予言」2000年問題の方がリアルだった

スポーツ報知
1973年に出版され、ブームの火付け役となった「ノストラダムスの大予言」(祥伝社刊)

 天皇陛下の生前退位により4月30日で30年の歴史を終える「平成」。スポーツ報知では、平成の30年間を1年ごとにピックアップし、あらためて当時を振り返る。第11回は平成11年(1999年)。(この記事は2018年7月22日の紙面に掲載されたものです)

 「1999年7の月 空から恐怖の大王が降ってくる」―。ルネサンス期のフランスでミシェル・ノストラダムス師が書いた四行詩集、俗称「ノストラダムスの大予言」は、73年にライターの五島勉さん(88)が著書で紹介してから日本人へ人類滅亡への危機感をあおり続けてきた。しかし予言された1999年(平成11年)の7月は何事もなく過ぎ去った。世紀の大ブームとなった「ノストラダムス現象」をひもといてみた。(樋口 智城)

 人類は滅亡するのか。日本人が四半世紀にわたって恐怖におののき続けた1999年7月は、静けさとともにスーッと過ぎ去っていった。本紙も同年7月1日に最終面で特集記事を組んだが、見出しは「予言に踊らされたのは日本人だけなのか」。ハズレ前提の危機感ゼロな記述となっている。

 超常現象を扱う月刊誌「ムー」の三上丈晴編集長は当時のことをこう語る。「予言の直近、1年前くらいになると分かっちゃうじゃないですか。核戦争の気配ねぇなあとか。原子力で動いていた土星探査機カッシーニが99年8月に地球に近づいてたんで『当たるならコレか!』とザワついたくらいでしたね」。ムーは8月号までは大予言を特集したものの、話題はすぐ2000年問題【注1】に移行。「そっちの方がリアルでしたもん。私も銀行並びましたし」

 ノストラダムスが世間に登場したのは73年だった。女性誌のルポライターだった五島勉さんが新書の「ノストラダムスの大予言」を出版。“超能力者”ユリ・ゲラー来日なども重なり、一大オカルトブームとなった。79年のシリーズ2作目で惑星直列による地球破滅という独自論を取り入れ、91年の湾岸戦争勃発の直前には先取りする形で「中東編」を出版。飽きさせない工夫で計10冊、累計約600万部を売り上げた。

 五島さん本人と親交がある三上編集長は「終末論関連の思想は、すべて聖書に基づくもの。日本にない概念を日本的に解釈するとアクロバティックになるんですが、それが逆に面白かった」と分析する。特に1999年7月が注目されたのは日本独自の現象だった。なぜここまでブームになったのか。「まず数字ですよね。1999年というドン詰まりの世紀末感。まぁホントの世紀末は2000年なんですけど…」。象徴的な詩ゆえに、子どもでも自在に解釈でき、延々と議論できることもポイント。「ムーでも記事の最後に『ほら、ノストラダムスで書かれてあるから正しいでしょ』で締める“ノストラダムス落ち”が定番だった」という。

 一方、「今を生き抜くための70年代オカルト」などの著書があるライターの前田亮一さんは、社会情勢との結びつきを指摘する。「大予言が騒がれ出した70年代前半は、全国にカラーテレビが普及し始めたころ。初めて見たカラー映像で予言だのスプーン曲げだのされたら、大人も信じちゃいますよ」。当時は石油危機があり、世界では冷戦まっただ中。「日本は発展せずに滅びに向かうのではとの不安感があった。そこで第2次世界大戦を期に封印されてきた日本の精神主義が、一気に飛び出してきた」

 だが、平成直前になって風向きは変わる。「関口少年事件【注2】などがあって、テレビも本当だと思わせない作りになった。冷戦も終わって、人類滅亡にリアリティーがなくなってくるんですよ」。89年、丹波哲郎さんの映画「大霊界」が大ヒット。オカルト界のテーマが「予言・滅亡」から「精神・死後」に移行していく中で、この流れに乗り遅れた人たちがいた。

 「当時、新興宗教が台頭していたんですが、彼らの中枢は子どもの頃にノストラダムスブームを見ていた世代。人類滅亡をあおる役割を宗教が担うようになったんです」。95年にオウム真理教による地下鉄サリン事件が発生。阪神大震災という未曾有の天災もあった。「人類滅亡の類似体験をしたわけですから、世間では大予言ブームはこの年で終わってしまった」

 五島さんは5年ほど前まで予言関係の本を書き続けていたが、88歳となった現在は都内の自宅で穏やかに過ごしている。三上編集長によると、もともと女性問題や反権力的な記事を専門にした五島さんは当時こう話していたという。「予言は当たり外れじゃなく、人類への警告なんだ。このままだと崖から落ちるから曲がりなさい、と提示することに意味があるんだよ」

【注1】2000年になるとコンピューターが誤作動する可能性があるとされた問題。古いプログラムでは年計算などを西暦の表記を下2桁で行っていたため「00年」が1900年と認識される危険性が指摘された。
【注2】74年にスプーン曲げで時代の寵児(ちょうじ)となった関口淳さん(当時11)が、テレビ収録中にインチキをしたと週刊誌などでバッシングされた事件。

 ◆ファティマの予言、マラキの予言、マヤの予言…ブーム再燃ある!?

 今後、新たな予言は出てくるのだろうか。三上編集長は「イチローばりのヒーローが突然引退しちゃったんだから、沈静化したように見えるのは仕方ない」としながら「予言自体は継続して存在するんですよ。00年以降ならファティマの予言、マラキの予言、マヤの予言」と話す。前田さんは「20年の東京五輪後は絶対不況になるのでブーム再燃の余地がある」と予告した。

 一方、スピリチュアル本を数多く手掛ける、たま出版の韮澤潤一郎社長は「静かに見えるのは宇宙人が活動をコントロールしているから」と主張。「米トランプ大統領の裏に宇宙人がいることは、報道官がオフレコで話している。今後の展開は注目ですよ」とのことだった。

 ◆ミシェル・ノストラダムス(本名ミシェル・ド・ノートルダム)1503年12月14日、仏プロバンス生まれ。医師として南仏でのペスト流行時の治療で名を馳(は)せ、宮廷侍医にも任命された。占星術師、詩人、料理研究家としても活躍。1555年の「諸世紀」第10巻72番に「1999年人類滅亡」の四行詩を記した。五島さんの大予言シリーズは「ノストラダムスの大予言」から98年7月の「ノストラダムスの大予言 最終解答編」まで祥伝社から計10冊出版された。

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