【平成回顧】<29>5年ぶりの赤ちゃん・シャンシャン誕生 上野のパンダ人気の秘密は家康!?

スポーツ報知
公開当初から大人気だったシャンシャン(左)とお母さんのシンシン(東京都動物園協会提供)

 天皇陛下の生前退位により4月30日で30年の歴史を終える「平成」。スポーツ報知では、平成の30年間を1年ごとにピックアップし、あらためて当時を振り返る。第29回は平成29年(2017年)。(この記事は2018年11月25日の紙面に掲載されたものです)

 平成29年は上野動物園(東京都台東区)で5年ぶりとなるパンダの赤ちゃん誕生に沸いた年だった。6月12日午前11時52分、シンシン(雌)とリーリー(雄、当時ともに11歳)との間に生まれたシャンシャン(雌)は今月に入り、別々の施設で暮らす「親離れ」の練習を始めた。国内では和歌山県や神戸市にもパンダはいるが、なぜ、「上野のパンダ」は人気になるのか。識者は江戸時代から続く歴史があるとみている。(久保 阿礼)

 6月12日午前11時52分、上野動物園で5年ぶりとなるジャイアントパンダの赤ちゃんが生まれた。親のシンシンとリーリーは、11年2月に中国から初のレンタル方式で来園。2頭の間には12年7月に赤ちゃんが生まれたが、6日後に肺炎で死んでいた。

 悲しみの後に訪れたシャンシャン誕生は大きな話題となった。入園者数は6年ぶりに400万人を超えた。周辺のレストランは「パンダ定食」や関連グッズを売り出すなど、上野の町はパンダであふれた。経済効果は「年間267億円」(関西大・宮本勝浩名誉教授)との試算も出た。

 パンダは国内で上野動物園のほか、神戸市王子動物園、観光施設「アドベンチャーワールド」(和歌山県白浜町)でも観覧できる。なぜ、上野のパンダにこれだけの注目が集まるのか。北海道大メディアコミュニケーション研究院の岡本亮輔准教授(39)は「上野動物園のパンダは歴史的、文化的な背景が興味深いですし、面白い」と語る。

 岡本さんは人気の理由について、江戸時代まで遡ってこう考察する―。もともと、動物園がある「上野の山」は徳川家の聖地の一つ、寛永寺があった。250年もの間、徳川家の象徴だったが、幕末になると、新政府軍と彰義隊による上野戦争(1868年)が勃発。寛永寺や周辺の建物の多くが消失した。

 その後、明治政府は近代化を進め、その象徴として芝・増上寺、吉宗が整備した飛鳥山、上野の山を公園として開発。上野動物園は「近代科学の展示と教育を行う動物園」として1882年に開園された。家康を祭った東照宮の敷地は徐々に動物園へと拡大されていく。岡本さんは「最初は徳川家の墓所であり、その後、近代を象徴する動物園、美術館、博物館へと変わっていった。そうしたさまざまな背景が積み重なっています」と上野には歴史的重みや他の町にはない空気感があると指摘する。

 パンダの初来日は1972年10月。日中国交回復を記念し、日本に贈られたパンダ(カンカン、ランラン)は爆発的な人気を呼んだ。毎日3万人が訪れる日もあり、入園者数は72年から88年まで年間500万人~700万人で推移。空前のパンダブームとなった。

 来年6月に2歳となるシャンシャン。体重は30キロを超え、元気に成長している。ただ、石原慎太郎知事時代の2010年7月、都が中国野生動物保護協会と結んだ協定書では「繁殖した子は満24か月で中国に返し、双方で返還時期を協議、決定する」とある。中国側に支払う「レンタル料」は年間約95万ドル(1億735万円)で、都によると、期間延長の可能性もあるが、今後の協議次第という。来春にはシンシンの繁殖準備も再開。20年3月には総工費約22億円でパンダ舎が完成するが、シャンシャンが不在でも別の赤ちゃんがいる可能性もある。

 シャンシャン誕生に沸いた平成29年。上野駅や公園周辺は再開発が進み、ホテルやカフェなどが立ち並び、上野・浅草を訪れる訪日外国人も増え続けている。岡本さんは言う。

 「パンダはシンボルであり、今で言うと、ゆるキャラみたいな存在でした。上野は開発が進み、洗練されていきますが、私たちにとってのパンダの存在もまたこれまでとは違った意味を持つようになるかもしれませんね」

 カンカン・ランランが上野に来てから46年。年号や町の風景が変わろうとも、上野のパンダは人々に喜びや癒やしを与える特別な存在であり続けるだろう。

 ◆和歌山「アドベンチャーワールド」では8月に16頭目が誕生

 「アドベンチャーワールド」では、現在6頭のパンダを飼育している。94年から中国成都市の成都ジャイアントパンダ繁殖研究基地の日本支部として活動し、8月には16頭目の赤ちゃんが誕生した。12月には名前が決まる予定。同施設担当者は「上野動物園は東京にありますし、人気になるのかなと思います」と分析しつつ、「お互い競っているつもりは全くなくて、パンダを通じて、盛り上げていければと思います」と話した。

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