【平成回顧】〈28〉76歳ひふみん14歳の藤井少年に衝撃「あれあれ?ひゃ~!」

スポーツ報知
平成28年12月24日、加藤一二三九段(右)とのデビュー戦に臨む藤井聡太四段(当時)

 天皇陛下の生前退位により4月30日で30年の歴史を終える「平成」。スポーツ報知では、平成の30年間を1年ごとにピックアップし、あらためて当時を振り返る。第28回は平成28年(2016年)。(この記事は2018年11月18日の紙面に掲載されたものです)

 伝説は聖なる夜から始まった。平成28年12月24日、将棋の史上最年少棋士・藤井聡太(16)=当時14=が史上最年長棋士・加藤一二三九段(79)=当時76=を破り、デビュー戦を飾った。半年後、無敗のまま29連勝の新記録を打ち立て列島を熱狂させる天才少年の初白星だった。時代が継承された世紀の一局を、中学生棋士第1号の「ひふみん」が今、振り返る―。

 決戦の朝、将棋会館特別対局室の襖(ふすま)を開けた加藤は目を疑った。

 「あれあれ? と思ったのですよ。50人もの報道陣が詰めかけておりました。昭和57(1982)年7月31日午後9時2分、わたくしが名人(※)になった部屋なのですよ。ところが、当時にはなかった民放のカメラまであった。これは実に驚いたものです」

 第30期竜王戦ランキング戦6組1回戦。天才少年VS76歳の元名人。史上最大62歳差の対決に日本中から熱視線が注がれた。座布団に着座した加藤は将棋盤の向こうにいる藤井を見て、さらに驚いた。

 「あれあれ? 極めて落ち着き払っているぞ、と思いまして。14歳の少年です。若干ソワソワしてもおかしくないのですが、微動だにしない藤井少年には『ああ、もうプロなのですね』と思わせる何かがありました」

 対局が始まると、さらなる衝撃が待ち受けていた。

 「わたくしが500勝はした矢倉(『将棋の純文学』とも称される伝統的な戦型)になったのですが、藤井少年はなんと、わたくしが6局のみ苦戦した序盤戦をやってきたのです。研究熱心であることが分かりました。頭脳プレーだぞ、と」

 午後3時。おやつの時間になると、今度は感心した。

 「わたくしがカマンベールチーズを食べ始めた後で、やおらチョコレートを取り出したのです。藤井さんは礼節を知っているぞ、と思いましてね。後輩が先に食べてもマナー違反でも何でもないのです。でも、いいなあと思いましたね。後の取材で『チーズを食べる加藤先生はかわいらしかった』と…。かわいらしい! ひゃ~! と仰天しました」

 夜になり、勝負どころでは鋭利な視線を感じた。

 「一瞬だけ藤井少年がわたくしの顔を見て『私が勝ちますよ』と意思表示してきたのですね。いいなあ、と思いました」

 午後8時43分、加藤投了。 「ああ、定評通りの鮮やかな寄せっぷりだなあ…と。引退前に出てきてくれたんですね、という気持ちもありましたね、ええ」

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