【平成回顧】〈26〉“カープ女子”NHK「ニュースウオッチ9」でわずか4秒初登場から流行語大賞トップテンに!

スポーツ報知
今年8月、マツダスタジアムでカープ女子仲間の馬場絵里香さん(左)、佐伯比佐枝さん(中)と声援を送った大井智保子さん

 天皇陛下の生前退位により4月30日で30年の歴史を終える「平成」。スポーツ報知では、平成の30年間を1年ごとにピックアップし、あらためて当時を振り返る。第26回は平成26年(2014年)。(この記事は2018年11月4日の紙面に掲載されたものです)

 惜しくも日本一は逃したが、セ・リーグ3連覇を果たした広島の熱心な女性ファン「カープ女子」が話題となったのは、平成26年のこと。同年の新語・流行語大賞でトップテンに選ばれ、その後、さまざまなジャンルで女性ファンを指す愛称が生まれる走りとなった。2013年にメディアで初めて「カープ女子」の単語を使ったとされるNHK「ニュースウオッチ9」の特集を担当したディレクター・丸岡裕幸さん(35)が当時を振り返るとともに「カープ女子神3」の一人として流行語大賞の表彰式にも登壇した大井智保子さん(35)に思いの丈を聞いた。

 「地方の不人気球団」と言われていたのも今は昔。広島は、魅力あふれるチームとして知られるようになった。ホームゲームの観客動員は2014年から5年連続で過去最高を更新し、今年は約223万人に。原動力となっているのが「カープ女子」の存在だ。

 単語の誕生の場とされているのが、13年9月30日放送の「ニュース―」。「急増カープファン 首都圏でなぜ?」という特集内だったが、当時「カープ女子」という5文字が画面に映し出されたのは、わずか4秒に過ぎなかった。

 担当ディレクターの丸岡さんは「『カープ女子』の特集をしようとしたわけではなくて、『弱い時代しか知らない人たちが、なぜ負けてもカープの応援をし続けて来たのか?』というのがテーマでした。だから、文字は一瞬しか出ていないんです」と振り返る。そんな中、広島が16年ぶりのAクラス、球団初のクライマックスシリーズ(CS)進出を決めていたこともあり、翌週以降に民放がこぞって「カープ女子」のフレーズで特集を始めた。

 それを見た丸岡さんは、チーフプロデューサーの松木秀文さんと顔を見合わせた。「そういう特集の作り方もあったのか。『カープ女子』で番組を全面展開すれば良かったのか…と思いましたね(笑い)」。ただ、それらの番組が作られたのも「カープ女子」という絶妙な呼称がNHKから生まれたのが理由かもしれない。

 特集内に登場した女性ファンは、自身のことを「カープファン女子」と名乗っている。それを「カープ女子」と“命名”したのは、丸岡さんと松木さんの「番組で紹介した時の愛称が新しい潮流になれば」という思いと、入念に練られた戦略があったという。

 「2つの単語をくっつけて造語するとして、チームを表すのは『カープ』か『鯉(こい)』の2つかな、と。さらに、女性を表すのは『女子』『ガール』『ジョ(女)』の3つ。2×3で6パターンの中から、見た目と聞こえ方がいいのはどれだろうと考えたんです。例えば『カープガール』だと長音(伸ばす音)が2つあって語呂が悪い。その中で残ったのが『カープ女子』と『鯉女』でした」

 当初、丸岡さんは「鯉」が「恋」にも通じることから、女性を表現するにはいいのでは、と「鯉女」を選ぼうとしたという。だが、松木さんと意見を交わす中で、ふと気が付いた。

 「『カープ=鯉』というのは、野球ファンでないと分からない。おそらく、多くの人には『コイジョ』というカタカナ4文字の音では意味が通じないのではないか。それなら、見ても聞いても分かりやすい『カープ女子』だろうということになりました」。その後は、もはや説明するまでもない。現在ではさまざまなジャンルの女性ファンに愛称をつける習慣が広がっている。

 丸岡さんは「カープ女子」という単語が“市民権”を得た理由を、どのようにみているのだろうか。「先入観として『野球は男性、もしくは男性に連れられた女性が観戦するもの』というものが一般的にあり、意外性があったからだと思います。しかも、女性だけで野球を見に行くという行為が、自然発生的に起きており、そこにたまたま『カープ女子』という言葉が寄り添っただけだったということだと思います。その意味で、我々の番組は、単なる『発火点』だったんでしょうね」

 ◆カープシックから始まった“布教活動”で今では「カープ女子神3」 大井智保子さんに聞く

 「何でカープの試合を見れんのじゃ!」。ホームシックならぬ“カープシック”にかかったことが、大井さんの球団への愛を目覚めさせた。幼い頃は、父親にテレビのチャンネル権を握られて仕方なくナイターを見ていたが、中学生の時に球場に足を運ぶようになったのがきっかけでファンに。その後、大学入学のために上京すると、広島戦の中継がほぼないことに驚いた。

 「現在のようにCS放送などで試合が見られるような時代ではないし、夜のスポーツニュースでもほとんど試合の様子が流れないことに衝撃を受けたんです」。そこから、都内近郊で開催される広島のビジターゲームはスタジアムで観戦するようになった。

 同時に、読者モデルとしても活動していた大井さんはファンを増やすための“布教活動”を始める。「応援が盛り上がれば、人気が出る。人気が出れば、注目が集まるようになる。そうすれば、テレビで見られる機会が増えるに違いない―というのが理由でした」。チームが勝った時にはモデル仲間などに頼んでユニホームを着てもらい、自身のブログに写真を載せて「私たちもカープを応援しています!」と呼び掛けた。

 その成果もあり、「カワイイ女の子たちに球場で会いたい」という若い男性ファンが増え始めたが、同時に女性からも声がかかり始めたという。「『今まで恥ずかしくてカープファンと言えなかった』という子からも連絡をもらったりして。盛り上がりが広がっていったんです」

 それだけに、「カープ女子」代表として流行語大賞の表彰式に呼ばれた時には「ついにここまで来たか!」と感慨深かったという。「今、カープが好きというと『ミーハーだね』と言われることもあるし、人気が出たことでチケットが取りにくくなったことは、自分自身を苦しめる結果になったかもしれません(笑い)。それでもいいんです」。今年もかなわなかった1984年以来の日本一を夢見て、今後も応援を続けていくつもりだ。

 ◆大井 智保子(おおい・ちほこ)1983年5月15日、広島県江田島市出身。35歳。成城大学1年の時に読者モデルとなり、ファッション誌「CanCam」「JJ」「With」などに登場。「カープ女子神3」としても芸能活動を行う。最初に好きになったのは栗原健太内野手(現・楽天打撃コーチ)。来年期待をかける選手は藤井皓哉投手。

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