羽生善治竜王、27年ぶり無冠「時代」に終止符

スポーツ報知

 将棋の第31期竜王戦7番勝負の最終第7局が21日、山口県下関市の「春帆楼」で行われ、先手の広瀬章人八段(31)が167手で羽生善治竜王(48)に勝って対戦成績4勝3敗として竜王を奪取した。前人未到のタイトル通算100期の偉業が懸かっていた羽生は1991年3月に棋王に就いて以来継続していたタイトル在位者の地位から27年ぶりに陥落した。世代交代の著しい現在の将棋界を象徴する歴史的一日となった。

 誰も見たことのない羽生だった。終局後、30社70人の報道陣が殺到した対局室。将棋盤の前で肩を落としてうなだれる動作を何度も繰り返した。「結果を出せなかったのは自分自身の実力が足りなかったということ。次の機会、チャンスをつかめたらと思います」。どんな時も平然を貫いてきた男が屈辱と絶望を見つめていた。

 過去24勝14敗と力を発揮してきた最終局で屈した。タイトル100期と無冠という両極の運命に分かれる大勝負。「(注目される)ひのき舞台を指せるのは棋士にとって名誉なこと」。振り駒で不利な後手番となったが、周到な事前研究によって序中盤を互角以上に進めた。ところが、終盤の入り口で見落としがあり、形勢は暗転。一気に窮地に陥った。「細かい選択で間違ってしまった気がします」。最終盤は逆転の可能性も見えないような時間帯が長く続いた。持ち時間を使い切って一分将棋に突入するまで指し続ける執念を見せたのが最後のプライドだった。

 平成という元号を通じて続いた羽生の時代に一つの終止符が打たれた。平成元(1989)年、当時史上最年少の19歳で初タイトルを獲得。91年3月18日の第16期棋王戦5番勝負第4局で南芳一棋王(現九段)から棋王を奪取して以来27年9か月4日、通算で1万141日間にわたって1冠以上保持したタイトルを、ついに失った。

 昨年度から20代の挑戦を受けて王位、王座、棋聖を失冠。8大タイトルを7人が分け合い、藤井聡太七段(16)という天才も出現した。将棋界に押し寄せる世代交代の波を受けながら、40代後半の棋士として孤軍奮闘してきたが、頂点の地位から降りることになった。

 通常のタイトル保持者は失冠すると段位を名乗るが、竜王は段位か「前竜王」を選択する。日本将棋連盟は終局後、九段の段位を持つ羽生に意向を確認しているが「羽生前竜王」の呼称となる見込みだ。

 1972年、49歳の大山康晴十五世名人が16年ぶりの無冠に。82年には35歳の中原誠十六世名人が12年ぶりの無冠に転落したが、後に復位した。「今回のシリーズを反省して、これから先につなげていけたら」。再生の100期はなるか。将棋の神様と呼ばれる男の新しい挑戦が始まる。(北野 新太)

 ◆羽生 善治(はぶ・よしはる)1970年9月27日、埼玉県所沢市生まれ、東京都八王子市育ち。48歳。二上達也九段門下。6歳で将棋を始め、85年、史上3人目の中学生棋士に。96年、史上初の7冠独占。昨年12月に永世7冠達成、2月に国民栄誉賞受賞。家族は理恵夫人と2女。

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