羽生善治九段、竜王失冠での新しい肩書きは「他に選択肢はないと」

スポーツ報知
幸福や健闘を祈念し、一局の将棋を棋士や関係者が一手ずつ指し継ぐ行事「指し初め式」で笑顔を見せる羽生善治九段(右、後列中央は広瀬章人竜王)

 昨年末、27年ぶりの無冠となった羽生善治九段(48)はスポーツ報知のインタビューに応じ、再出発を期す2019年の誓いを立てた。注目された新しい肩書に、段位の「九段」を選んだ理由について「もともと他に選択肢がないと思っていたんですよ」と笑った。(北野 新太)

 ―どんな思いで2019年を迎えたのでしょう。

 「新年なので気持ちを新たに臨む、ということですね。年末年始は対局がないので、小休止をして年度末に向かっていこうという時期なんです」

 ―年始の誓いは。

 「どうなっていくか分からないけど悔いなく過ごしていきたい、という気持ちが今年は非常に強かったです。先に何が起こるか、ということは、まず横に置いて、自分のできうる限りのことを後悔しないようにやり尽くして前に進んでいく、ということを考えました。一日でも一局でも、どんな単位でも」

 ―竜王失冠から約2週間。タイトル通算100期まで王手をかけた中での27年ぶりの無冠後退を、どのように捉えたのでしょうか。

 「周りの反響の大きさは感じましたけど、将棋を指していくことに大きな変化はないので、一つの事実として受け止めて次に向かう、ということですね」

 ―肩書には「前竜王」を名乗る権利があり、将棋連盟から特別な称号の提案もあった中、なぜ「九段」を選んだのでしょう。

 「理由は…もともと他に選択肢がないと思っていたので(笑い)。最初に(日本将棋連盟会長・佐藤康光九段から)『どうされますか?』と聞かれたこと自体が意外だったんです。考えるまでもなく、他に選択肢はないと思っていたので。変化していく環境に適応していくことが大事だと思っています」

 ―志すのは継続、あるいは変化なのでしょうか。例えば佐藤会長は、竜王戦での指し手を見て「羽生さんはコンピューターを使ったハードなトレーニングを日頃から積んでいるんだ、とカルチャーショックを受けました」と語っています。

 「(AIによる革命は)将棋だけでなく他のボードゲーム、世の中全般で起きていることで、今後も社会や事象に影響を与えていくものです。考えることは不可避で、どんな影響を与え、何をもたらしていくのか分からなくても、ひとつの時代の流れは避けられません」

 ―年齢について自ら言及する機会が増えた印象も受けます。

 「来年には50歳になるので、年代が変わる時期に来ているなという感覚はあります」

 ―将棋史には、50代で11ものタイトルを重ねた大山康晴十五世名人という巨人もいます。

 「晩年に対局をさせていただいたり、お姿を見てきましたけど、大山先生のようにパワフルにやっていくのは並大抵のことではないです。自分自身がまねられるものではないので…自分として」

 ―他の世界で、年齢という尺度で影響を受ける人はいるのでしょうか。

 「小林研一郎先生(『炎のマエストロ』と称される77歳の指揮者)がコンサートの度に力を振り絞る姿には感銘を受けますし、白石康次郎さん(51歳の海洋冒険家)には、やっと自分の望んだ形で『ヴァンデ・グローブ』(世界最高峰のヨットレース)に来年出られるようになったと聞いて、やはりすごいことだなあと思います」

 ―春には元号が改まる。再びタイトル通算100期を、大山十五世名人を超える歴代最多の通算1434勝(現在1419勝)を目指す一年になります。

 「元号が変わることはなかなか体験できないので、一つの区切りにはなりますね。数字的な目標は…近づいてくれば意識すると思います。あと1勝、という時になったら」

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