市原悦子さん葬儀で注目の樹木葬…「墓守」気にせず経済的で選ぶ人増加

スポーツ報知
生前、樹木葬での埋葬を望んでいた市原悦子さん。葬儀の祭壇にも緑が多く使われた

 先月12日に心不全のため亡くなった女優の市原悦子さん(享年82)の葬儀の際に、故人の遺志として注目されたのが、遺骨を樹木の下に埋める「樹木葬」だ。近年、核家族化や親族間の付き合い方の変化により墓を持たない人が増えている中で、新たな供養の方法として選択肢の一つに考える人が増えているという。元葬祭業者で、樹木葬や海洋散骨に詳しい「株式会社くぼた」の久保田豊さん(48)に、樹木葬の現在の状況などについて聞いた。(高柳 哲人)

 「コンクリートの下に眠らせるのはかわいそう。自然に返してあげたい」と2014年に亡くなった夫の演出家・塩見哲さん(享年80)を関東近郊の寺にある樹木の下に葬り、自らもその場所を安息の地と決めていた市原さん。1999年に岩手県一関市で初めて許可されたという「樹木葬」は、数年前から新たな供養の方法として徐々に知られるようになってきた。

 久保田さんによると「樹木葬を行うことができる場所(霊園や寺など)は、2年ほど前は首都圏で約100か所ほどでしたが、現在は1・5倍になったともいわれています」。その数字は現在も増えているという。

 「樹木葬」と聞くと「粉状にした遺骨を木の根元に撒(ま)いたり、土を掘ってそのまま埋め、土に返す」というイメージがある。ただ、久保田さんは「樹木葬と一口に言っても、さまざまな形があり、一概には言えません」とした。

 「もちろん、遺灰を撒く『散骨』という方法もありますが、容器に入れて埋めることもあります。容器も1体用のものもあれば、複数の遺骨を入れて共同埋葬するという形式も。亡くなられた方の名前などをプレートに残す霊園がある一方、何もない場所もあります」。それだけに、故人や送る人の要望に沿う方法なのか確認する必要がある。散骨は埋火葬許可証が不要だが、2ミリ以下に粉骨しなければならない。一方、墓石がない樹木葬でも粉骨をしないのであれば許可証が必要となる。

 最近は、残される親族に迷惑をかけないようにする「墓じまい」という言葉がよく聞かれるようになった。そんな中、樹木葬はその風潮に合ったものといえる。「宗教の付き合いが面倒くさいと感じる人や、跡取りがいないので『墓守』を気にしなくていいと思う人には、楽という考え方はあります。また、経済的な面でも墓を建てるよりも安いですから」。久保田さんのところに相談に訪れるのも、子供や身寄りがないという人が圧倒的に多いという。

 では、樹木葬の費用はどれくらい? 都内にある都立の8霊園の中で唯一、樹木葬が可能な小平霊園(東村山市)の樹林墓地(墓誌なし、焼香や献花は、墓地正面の献花台で行う形式)では、粉骨して粉状にしてあれば1体4万2000円(18年度、数字は以下同)で申し込むことが可能。粉骨をしていない場合は12万8000円となる。

 この金額を支払えば、その後は管理料などはかからない。一方、民間の墓地では10万円台から、タイプによっては数十万円することもある。ちなみに小平霊園の場合は、申し込みは毎年の抽選となっており、粉骨の方が倍率は低く、5・6倍。粉骨していないと16・6倍(1体)とはね上がる。

 今後、更に増えていくことが予想される樹木葬。申し込む時に注意しなければいけない点は、どのようなことだろうか。久保田さんは「特に散骨をした場合は、遺骨が“なくなって”しまうので、後から『やっぱり残しておきたかった』と言われても無理。ご遺族がいる場合は、そこはきちんとしておかないといけない。生前申し込みも可能なところが多いですが、その場合も親族間で意思疎通を取っておかないと、トラブルのもとになると思います」と話した。

 ◆「海洋散骨」は航路の回避や周辺住民に配慮

 新しい形の供養方法として、樹木葬よりも早く世間に知られるようになったのが「海洋散骨」。久保田さんによると15年ほど前から業者ができ始めたという。14年には「日本海洋散骨協会」が設立され、遺族が安全かつ安心できる海洋散骨の提供に向けてのガイドラインなどを定めている。

 海は所有権がないことから「どこでも好きなところで散骨していい」という考えにもなりそうだが、「周辺に住んでいる方の感情を考えなくてはいけないし、漁場や航路の海域は、もちろん避けなければいけません」。法的にルールが定められているわけではないが、あくまでも散骨は「葬送」が目的だからだ。

 ちなみに、「株式会社くぼた」では東京湾、相模湾を中心に海洋散骨を受け付けている。費用は散骨の手続きを全て任せた場合は6万円から、8人以上が参加して船をチャーターする場合は25万円からという。

 ◆過去に散骨を行ったとされる主な有名人(敬称略)

 ▼石原裕次郎(俳優・歌手、1987年死去) 死去当時の法解釈では死体損壊罪に問われるとされて断念も、後に「節度をもって行う限り違法ではない」とされたことから相模湾に散骨。

 ▼横山やすし(漫才師、96年死去) 愛用のボートが係留されていた広島・宮島競艇場(現ボートレース宮島)と厳島神社近くの海に散骨。

 ▼勝新太郎(俳優、97年死去) 妻の女優・中村玉緒らの手により生前、大好きだったハワイの海に散骨。

 ▼中島らも(作家、2004年死去) 本人の遺志で遺骨の一部は兵庫県内の自宅の庭に、残りは軽飛行機で大阪湾上空から散骨。

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