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好視聴率というカンフル剤はこんなに効く!…ドラマ好調でフジテレビ復活の夏が来る

2018年7月28日11時0分  スポーツ報知
  • フジテレビ

 地区大会まっただ中の第100回全国高校野球選手権大会。

 27日に行われた愛媛大会の決勝では「『やれば出来る』は魔法の合言葉」という独特の歌詞を持つ校歌で一躍、野球ファンのハートをつかんだ済美が2年連続6度目の甲子園切符を勝ち取った。

 同じ日の夜、都内で行われたフジテレビの定例社長会見で、私はテレビ業界にとっての「魔法の合言葉」に出会った。

 その言葉とは皆さんご存じの視聴率―。ビデオリサーチ社が900世帯(関東地区)を対象にリアルタイム視聴の割合(現在はタイムシフト視聴率調査もあり)を調べた、たった3文字の言葉が、テレビ業界では制作者にとってカンフル剤になり、時にはどん底にたたき落としもする。

 「楽しくなければテレビじゃない」のキャッチフレーズのもと、82年から93年まで12年連続で視聴率「三冠王」に輝いた栄華も昔話になりつつあったフジが今、徐々に勢いを取り戻しつつある。昨年6月の就任時、あまりの低迷ぶりに「非常事態宣言」を全社員に発した宮内正喜社長(74)も、この日は笑顔だった。

 その理由は7月クールのドラマの好調ぶりにある。9日スタートの沢村一樹(51)主演の「月9」ドラマ「絶対零度~未然犯罪潜入捜査~」(月曜・後9時)初回の平均視聴率が10・6%を記録。「月9」の初回視聴率2ケタ超えは昨年7月期の「コード・ブルー~ドクターヘリ緊急救命~THE THIRD SEASON」の16・8%以来、4作ぶり、1年ぶりだった。

 さらに12日に放送された山崎賢人(23)主演の「グッド・ドクター」(木曜・後10時)初回の平均視聴率も11・5%。「木10」枠での初回視聴率2ケタ超えは2016年7月期の「営業部長 吉良奈津子」の初回10・2%以来、2年ぶり。さらに両ドラマとも最新回の第3話で最高視聴率を記録と右肩上がりだ。

 冒頭、この好調発進について聞かれた宮内社長は「ともに2ケタを超える視聴率を獲得。内容も見応えがあって、視聴者の皆様から高い評価をいただいています。第3話で両番組とも最高視聴率を更新しており、今後を楽しみにしています」と、社長会見では久々の笑顔を見せた。

 編成担当の石原隆取締役(57)も「おかげさまで、いい滑り出しを見せています。特に木曜ドラマは見逃し配信も好調。内容的にもお客様にリーチ(届いて)しているのかなと思っています」と自信をのぞかせた。

 「率直にうれしく思っています。フシテレビ製作の2作がともに2ケタは非常に久しぶりです。第3話でさらに上がったところがうれしい」と正直に笑顔を見せた石原氏は好調の要因を聞かれ、「4月クールのドラマ2本(長澤まさみ主演の『コンフィデンスマンJP』、ディーン・フジオカ主演の『モンテ・クリスト伯―華麗なる復讐―』)も視聴率的には今回の7月クールほどではなかったんですが、調査会社のアンケートなどでの満足度は高かった。その頃から(フジの)連続ドラマ、面白いんじゃないの? という期待度が高まって、今回につながった。制作陣も自分たちのやっていることが間違っていないという自信につながった。企画立案でも思い切ったものが出ることにつながったのではないでしょうか」と分析した。

 石原氏が口にした「自分たちのやっていることが間違っていないという自信」という言葉こそキーワードだ。

 例えば、今を時めくテレビ東京を躍進させた代表的番組「緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦」にしろ「出川哲朗の充電させてもらえませんか?」にしろ、始めは企画のあまりのワンコンセプト、ワンアイデアぶりに「このまま進めて大丈夫か?」という声が社内にあふれたという。ところが放送してみたら、視聴率を稼ぐ。「一番大切な視聴者の支持を集める」イコール制作陣の「俺たちの作るものは、これでいいんだ」という自信につながるという好循環が生まれたのだ。

 同じことが今、フジテレビで起こりつつある。そもそも石原氏自身が「自分が面白いと思う」番組と「視聴率を取る」番組との乖離(かいり)に悩んだ経験を持っている。

 今年3月、「スポーツ報知」のwebで単独インタビューした時に、こんなエピソードを明かしてくれた。

 「僕が学生の時に見ていた番組について(84年にフジに)入社して最初に調べたんです。当時はコンピューターもなくて、調査部に行って分厚い冊子にまとめられた過去の番組のデータを見たんです。そうしたら、僕が熱狂的ファンだったドラマはほとんど低視聴率なんですよ。題名は言えませんが(笑)。ショックでした。その時代の一ケタと言ったら相当悪い。でも、本当に好きで、それらの番組が無かったら、この世界で働こうなんて思ってない作品なんです。大げさに言うと、自分の人生の一部を作っている番組なので。でも、低視聴率。自分は好きなものをやっちゃいけないんだと言われた気がしました。おまえが好きなもの作ったら、(数字が)上がらないんだと言われた気がして、すごくショックを受けました。僕は今後、自分の嫌いなものを選んで作っていくのかって。嫌いなものを作るって、何だかイヤな作業じゃないですか。どうしたらいいのか、愕然とした経験があります。自分は向いてない世界に来てしまった、でも、好きな世界ではある、どうしたらいいだろうとずいぶん悩みました」

 しかし、石原氏は自分の「面白いもの」を信じ続け、その結果、三谷幸喜さん(57)とのタッグで生み出した「王様のレストラン」「古畑任三郎」始め数々のヒットドラマを連発するまでになった。

 「自分の好きなものと世間が好きなものの交わりがない、空集合だとしたら諦めざるを得ないけど、薄いけど(交わる部分は)あるに違いないと思って頑張って来た感じです」と笑顔で答えていた石原氏。

 そう、作り手にとって、自分の「面白いもの」と視聴者の「面白いと思うもの」が交わって、好視聴率を生み出す瞬間ほど、やりがいを感じ、楽しい瞬間はないのではないか。だからこそ、この日の社長会見で宮内社長も、石原氏も、そして集まった社員たちも、どこか幸せそうな顔をしていたのではないか。それを生み出したのは、全て2つのドラマの好視聴率発進だ。

 我々、スポーツ新聞で言えば「部数増」。出版界で言えば「重版出来(しゅったい)」が“魔法の言葉”であるとするなら、テレビ局にとっての、それは「好視聴率」なのだろう。

 石原氏は春のインタビューでこんなことも言っていた。

 「フジテレビが、ここのところの厳しい状況になったのはお客さんが見たいと思う番組がなかったんだと。フジを復活させるためには、お客さんが見たいと思う番組を作るしかないんだと思ってます。ブランドというものはテレビ局だけの話ではないと思いますが、商品そのものの力、魅力が形成していくものだと思う。テレビにとっては、それが番組だと思います」―。

 そう、全てを決めるのは、番組という商品の魅力。原点に立ち返って勝負するフジテレビに学んで、私も記事の面白さという商品力で勝負しようと思う。(記者コラム・中村 健吾)

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