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今年の邦画は「万引き家族」「カメ止め」だけじゃない!東出昌大も驚いた「寝ても覚めても」濱口監督の演出法

2018年9月10日11時0分  スポーツ報知
  • 映画「寝ても覚めても」のメガホンを執った濱口竜介監督

 今年の邦画界は第71回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した是枝裕和監督(56)の映画「万引き家族」と2スクリーンから累計269館まで拡大公開中の低予算映画「カメラを止めるな!」(上田慎一郎監督)がけん引。年末の賞レースをどちらが取るか注目を集めているが、2大話題作に負けず劣らない良作が今月1日に公開された。映画「寝ても覚めても」だ。同作のメガホンを執った濱口竜介監督(39)がこのほど、インタビューに応じた。

 朴とつとした雰囲気だが、映画と話のキレ味は逸品な濱口監督。「寝ても覚めても」は商業デビュー作にも関わらず、今年のカンヌで最高賞を争うコンペティション部門に出品された。世間的にはまだ“無名”だった監督に注目が集まったが、当の本人は「まじか、そんなことあるのか…」と絶句。「カンヌやアカデミー賞は選ばれたら親が喜んでくれるという思いはあったが、驚いた。作家性が出ていないといけない映画祭でエンターテインメント性の強い映画が選ばれるなんて意外とカンヌは懐が深いと思った」と振り返る。

 大舞台での上映後、10分間のスタンディングオベーションを受けたが、「上映後の好評な反応は儀礼的なものなのでどうしたらいいか分からなかった。プレスは賛否両論で、そういう映画だろうなと思っていた」と冷静に受け止めた。

 原作は柴崎友香氏の同名小説。同じ顔を持つ2人の男性に惹(ひ)かれる女性のを描いた恋愛作だ。12年に知り合いのライターに同作をすすめられて読んだ。「小説を読むことはあまり得意ではないが、カメラで物を見るような文体が肌に合い、全く同じ顔、それに恋する女という設定が奇妙なマッチングを生み出していた。大仕掛けなものをやりたいと思っていたが、こういうリアリティーの持たせ方があるのかと教えてもらった」。

 原作にほれ込み実写化へ。主演は俳優の東出昌大(30)に託した。自由人でミステリアスな麦(ばく)と実直なサラリーマンの亮平を1人2役で演じなければいけない難役だが、「最初に浮かんだのが東出さんだった」という。「バラエティー番組に出演している時に外見はパリコレに出ていた美しさやある種のミステリアスさがある中で内面は、いい兄ちゃんという二面性を感じ、この役を表現できるんじゃないかと」。

 濱口作品はリハーサルが肝。他の監督たちよりも本読みに時間をかけ、しかも感情を込めずに淡々と読み上げるという。お経のような演出方法が誕生したきっかけが317分大作「ハッピーアワー」(15年)だ。同作は演技未経験者がメインキャストを務めたため、「演技をしたことがない人への演出方法は徹底的な本読みしかなかった」。

 今作でも本読みに力を入れた。「どういう風に言うか決めずに本読みをした。ニュアンスは決めないけど、役者さんが安心して現場に入れるよう、セリフは考えなくても口から出てくる状態にした。プラン通りに演じてしまうと、もったいない」。ほかにも役が答えた設定のインタビュー記事を監督自ら作成。役者に渡し、役の人となりを伝えた。

 東出自身も「クランクイン前のワークショップが多く、初めて耳にする演技法だった」と驚いたという。

 もともと、10代から映画少年だった。学生時代は映画制作に没頭し、東京芸術大学大学院映像研究科を卒業。「気付いたら映画を見ることと作ることくらいしかやっていなかったので、卒業後に映画の世界に入ろうと決めた。生活している底の底に隠れている感情が好き。そういうのが描けているのが望ましいと思う」。

 自主映画を制作し、シンガポールなどの国際映画祭で主要賞を受賞し、今作で商業映画デビューを果たした。「これまで5、6人のスタッフでやっていたものが十倍に増えた。一人一人がスクリーンの余白を埋めようと努力したので、画面としては一番充実したものになった」と自信作となった。

 愚かな恋愛に走る女の生き様を丁寧に描いた。記者が見た試写会でも涙を流す人や朝子の幼なじみ役の伊藤沙莉(さいり、24)の出演シーンでは大爆笑に包まれた。「大阪出身の役をやっているけど、ああ見えて伊藤さんは千葉県出身。すごいですよね」と濱口監督。「泣いたという反応はうれしかったけど、笑ったという声は予想していなかった。ポジティブな反応だと思う」と手応えを感じた。

 次回作の構想は具体的に決まっていないというが、「サスペンスを撮ってみたい。犯罪もの、人がハラハラドキドキするものを描きたい」。無名からカンヌ監督となった濱口監督が観客の心を揺さぶる。(記者コラム)

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