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8・31初音ミク、11回目の“バースデー” 熱烈ファンの「オフ会」に潜入

2018年9月12日16時0分  スポーツ報知
  • apapicoさん描き下ろしの「ツナガルミライ 2018」のキービジュアルと初音ミクの誕生日ケーキ
  • 初音ミクのコスプレヤーの月音るいさん
  • 参加者と談笑するキヨさん
  • DJが流すボーカロイド楽曲にのってノリノリのミクファン
  • ファンが持ち寄ったミクの人形を飾る「祭壇」

 バーチャルアイドル・初音ミクが8月31日に11回目の“バースデー”を迎えた。熱烈なミクファンの通称「ミク廃」(初音ミク廃人の略)たちによるオフ会が様々な場所で行われた。オフ会とは、オフラインミーティングの略称で、ネットワーク上ではなく実際に会って親睦を深める会のこと。そのうちの一つである「ツナガルミライ」を取材した。

 初音ミクは、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社(以下、クリプトン)が企画開発した“歌を歌わせることができるソフト(ボーカロイド)”の名称で、そのパッケージ・キャラクターの名前。2007年の“誕生”以来、オリジナル楽曲や二次創作のイラスト、動画など、さまざまな創作を生み出す「創作の連鎖」のハブとして機能しているだけでなく、世界中で最も知られる“日本の女性シンガー”でもある。

 「ツナガル―」は、初音ミクの企画展とライブを併催したイベント「マジカルミライ」の開催日と同日に実施されており、「マジカル―」が幕張メッセで開催するようになった16年からは、アパホテル&リゾート東京ベイ幕張の49階のイベントスペースを借り切って行われている。今年は8月31日と9月1日の2日間で六百数十人を“動員”。参加者や運営スタッフの募集はイベント公式サイトで行っているが、日本が世界に誇る「電子の歌姫」のオフ会とあって、同サイトは日本語、英語、中国語の3か国語に対応。実際に海外からの参加者も多く、今年は中国、台湾、韓国、米国、豪州、ロシアなど、世界各国のミク廃たちが駆けつけた。会の年齢層は20~50代と幅広く、男女比は6対4から7対3で男性の方が多い。

 一般的なオフ会同様、参加者は本名ではなくツイッターのハンドルネームでお互いを呼び合う。主催者のキヨさん(26)は「同じミクファン同士で盛り上がれる場を持ちたくて」と会の成り立ちを説明する。キヨさんが初めてオフ会を開いたのは、11年8月のミクのライブイベント「札幌ミクパ」の終演後で、当時の参加者は二、三十人だったという。その後もイベントごとに継続して参加人数を増やしながらオフ会を行い、150人が参加した14年の「マジカル―」後のオフ会から「ツナガル―」と名付けた。名前の由来についてキヨさんは「人と人とがツナガルことができる、(ミクファン同士で)交流をはかれるという意味合いのネーミングです」と話す。

 参加者のルックスは初音ミクのコスプレ、ミクのイラストがデザインされたはっぴ姿、普通のカジュアルウェアなど様々。参加形態も友達同士、カップル、単独と、バラバラだ。会場内の中心部には、初音ミクのイベント名物「祭壇」が用意されている。ファンが持ち寄ったミクのフィギュアやぬいぐるみ、ドール人形などを壇に並べて飾る“初音ミク文化”のことで、ミクファンからは単に「ドール」と呼ばれることも。自分好みにコスプレさせた何十体ものミクの人形が並ぶ様は圧巻で、「マジカル―」の祭壇をしのぐ迫力だ。

 「ツナガル―」最大の特徴は「DJブースエリア」と「交流・雑談エリア」という全く異なる二つの空間が共存していること。一方のエリアでxNEOxGENESISx氏やBIGHEAD氏ら、プロとして活躍するクリエイターがDJを務め、ノリノリのボーカロイド楽曲にあわせ、ミク廃たちがかけ声と共にサイリウムを振りまくる“クラブイベント”が行われているかと思えば、もう一方のエリアでは年齢や性別の壁を越えてファン同士がミクについて熱く語り合っている。多くの参加者が両エリアを行き来し、思い思いにオフ会を楽しんでいた。「いろんな方が楽しめるような『作り』にしています。いつもだったら交わることがないミクファンであっても、ここだったら交流することができる。そうするといいつながりも生まれますよね」とキヨさん。

 “ミクの生みの親”、クリプトンの伊藤博之代表取締役(53)は、スポーツ報知が8月31日に発行して現在発売中のタブロイド新聞「初音ミク10周年特別号」のインタビューで「初音ミクは(ファンの)自発的な活動に支えられている。従来のコンテンツ産業は作る側と聴く側が完全に分離し、公式と非公式という明確な線引きがあったが、ミクはそこの垣根がないケースもある。公式と非公式の境目が曖昧ということは、公式のイベントもファンが一部を担っており、ファンのイベントでもあるんです」と語っている。ミクに対する自分の価値観を持ったさまざまなファンやクリエイターが交流する場=ハブとして機能している「ツナガルミライ」は、ある意味、「公式との境目が曖昧なミクファンのための非公式イベント」といえる。

 「ツナガル―」のキービジュアルは、ミクのCDのジャケットや、グッズなどのイラストを手がけてきたapapicoさん、しぐぽんさんが担当。ファンだけでなく、クリエイターも公式、非公式の区別無く「初音ミクつながり」でイベントに携わる。オフ会一つとってみても、創作の連鎖の中心に座る依り代(よりしろ)、初音ミクのすごさを実感した。

 イベント終盤、会場中から上がる「ありがとう! キヨさん!」のコールに、「これからもずっと(ツナガルミライを)やります!」と高らかに宣言したキヨさん。「みんなが楽しく盛り上がれるのはやっぱりいいことだし、僕たちとしては盛り上がれるような公式イベントもあって欲しいです。一番望んでいるのが『ミクの日感謝祭』(「39=ミク」にちなんで10年3月9日に開催されたライブイベント)。ぜひまたやって欲しい」。ミクの神髄を体現する非公式イベントの仕掛け人は、一ファンに戻り、ミクファンにとっての記念日、「39の日」の公式イベントの復活を待ち望んでいた。(記者コラム・斉野 民好)

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