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毎日、切腹に励む8歳市川右近「緊張するけれど楽しい」

2018年11月18日14時30分  スポーツ報知
  • 国立劇場で上演中の歌舞伎「名高大岡越前裁」に出演中の市川右團次(左)と市川右近親子

 いま東京・国立劇場で上演中の歌舞伎「名高大岡越前裁(なもたかしおおおかさばき)」(26日まで)がおもしろい。時代劇ドラマでも知られる庶民にも人気の名奉行、大岡越前守忠相(中村梅玉)の物語なのだが、“大岡裁き”の格好いい話とは少し異なり、絶対絶命のピンチに立たされる。

 ここに昨年連ドラ「陸王」(TBS系)でシューフィッターを好演した市川右團次(54)の長男で、2016年に歌舞伎の世界に入った2代目市川右近(8)が大岡の息子・忠右衛門を熱演している。

 名奉行は、壮大なウソで身分を偽っていることを確信している右團次演じる男(法沢後に天一坊)の正体を、なかなか暴くことができない。ついに諦め、覚悟を決め、切腹しようとするクライマックス。白い着物に身を包んだ親子3人。父はまず、幼い息子の首に腹切刀を近づける。すると以下のようなことが起きる。

 「父上、お待ち下さりませ~」と制したかと思うと、自ら切腹の作法に入るのだ。右近のセリフは2階席までよく通る、はっきりした声。驚く越前は、誰に教わったのか聞く。大岡妻・小沢(中村魁春)が武士の心得として「教えおいた」と説明される。小さな体でかみしもの肩衣(かたぎぬ)をはね、三方を持ち上げ後ろに置く、堂々とした動きのひとつひとつがけなげで観客の涙を誘う。

 初日前、右團次と右近の囲み取材があったが、右近はこの新鮮な役がうれしくてたまらない様子。「難しいけど楽しい。(切腹の作法を)いまここでもできるよ」というと、おもむろに着物を脱ぎかけ、右團次が「大丈夫。いまやらなくていいから」とあわてて止めるひと幕もほほ笑ましかった。歌舞伎が大好きなのだという。

 いま右近が演じている役は、右團次が初舞台を踏んだ際に演じた思い出深い役。1972年6月の京都・南座。そのとき市川猿翁(当時、猿之助)が演じたのが、今月右團次がふんしている天一坊だ。日本舞踊の家に生まれながら歌舞伎の道へ進み、いま息子が右近の2代目を継いでいる。

 46年の年月をかみしめながら「もちろん懐かしさも感じます。まさかこの作品で息子とも共演し、師匠のお役をやらせてせもらえるとは」と感慨深げ。しかし舞台ではこの天一坊を名のる男こそが、名奉行を苦しめ追い詰める張本人。写真のような仲の良い和やかムードの場面はありませんのでご了承を。(記者コラム)

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