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NHK制作トップもついにテコ入れ宣言…大河ドラマ「いだてん」序盤で1ケタ視聴率の衝撃

2019年2月16日11時0分  スポーツ報知
  • NHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」主演コンビの中村勘九郎(左)と阿部サダヲ
  • 「いだてん」で主人公・金栗四三の妻役を演じている綾瀬はるか

 NHKの幹部がこれほど「視聴率」という3文字を口にし、危機感をあらわにしたのは、本当に稀なケースではないか。そう思わせる会見を13日に取材した。

 東京・渋谷のNHKで行われた木田幸紀放送総局長の定例会見。木田氏は編成・制作の総責任者。1977年の入局後、90年の大河ドラマ「翔ぶが如く」演出、97年の同「毛利元就」制作統括など一環して制作畑を歩み、現在は月に1回、放送記者を集めての定例会見を行っている“NHKの放送全体の顔”と言っていい存在だ。

 常に柔和な笑顔を浮かべ、記者たちの際どい質問にも答え続ける同氏。この日の主題は2019年度番組の新キャスター発表。4月から新設されるニュース番組「ニュースきょう一日」(月~金曜・後11時20分)のメーンキャスターに就任する井上あさひアナウンサー(37)、「ニュース7」(月~日曜・後7時)の平日担当キャスターに抜てきされた上原光紀(みつき)アナウンサー(27)らの名前が次々と読み上げられ、華やかな雰囲気に包まれた。

 そんな空気が一変したのが、放送中の大河「いだてん~東京オリムピック噺~」(日曜・後8時)の平均視聴率についての質問が飛んだ瞬間だった。

 同ドラマは10日放送の第6話で平均視聴率9・9%を記録。大河史上最短での1ケタ視聴率となった。記録が集計されている89年以降の大河ドラマでは、12年「平清盛」が8月5日放送の第31話で7・8%となり、史上初めて1ケタ台をマーク。15年「花燃ゆ」も4月12日放送の第15話で9・8%と1ケタに転落。前作「西郷どん」も10月7日放送の第37話で9・9%と初の1ケタを記録したが、「いだてん」の第6話での1ケタ台は異例の早さ。それだけに「この数字を、どう捉えているか?」と言うのは当然、聞かれるべき問いかけだった。

 木田総局長は「前回(の会見で)も申し上げましたけれど、1回1回のリアルタイムの視聴率については、あまり気にはしていない」とした上で「ですが!」と語調を強め、「(10日は3)連休の中日とは言え、やはり、リアルタイムでも少しでも多くの人に見ていただくに越したことはないとも思ってます」と本音を漏らした。

 「(放送時間の)45分を見ていると、あっという間に過ぎちゃったという意見も良く聞きます。(マラソンランナーの)金栗四三が主人公なので、走力が大変なものだと思うんですが…。走りが速すぎてついていけないとか、分かりにくいというご意見も、確かにいろいろなところから聞いております」と率直に続けた。

 続けて口にした発言に、私は驚かされた。「3月3日の第9話の終わりで(金栗が五輪会場の)ストックホルムに着く予定です。3月24日の12回がオリンピックのマラソンのスタートになると。3月31日の13回が途中で行方不明になっちゃう。発見されて、日本に帰ってくる。3月いっぱいがストックホルムオリンピックに関わる金栗四三さんの一つの人生のハイライトになります」―。

 放送トップが懇切丁寧にこれからのあらすじを説明するのは異例中の異例。さらに「このへんの話のタイミングを利用して、さっきの分かりにくいとか言った所をPRとか解説番組とか、いろいろな形で補強して、前半の山場をじっくり楽しんでいただけたらなあと思ってます」と具体的なテコ入れ策にまで言及した。

 12年ストックホルム五輪でマラソン選手として日本人で初めて五輪に出場も不本意な結果に終わった金栗氏を演じる中村勘九郎(37)と、東京に五輪を招致するために尽力した日本水泳連盟会長・田畑政治氏を演じる阿部サダヲ(48)が2部構成のもと、ダブル主演する作品が「いだてん」。

 東京高等師範学校の嘉納治五郎校長(役所広司)の元に五輪の招待状が届いた09年から64年の東京五輪開催までの激動の55年間を描く宮藤官九郎氏(48)の脚本には「見ているうちに今は明治なの?昭和なの?と混乱する。時代が行ったり来たりして分かりにくい」という視聴者からの声が上がった。挙げ句の果てには物語の語り部となる伝説の落語家、5代目・古今亭志ん生を演じるビートたけし(72)にも「滑舌が悪くて、何を言っているのか聞きとりにくい」という声まで出た。

 そもそも「いだてん」の舞台は視聴率が取りにくいと言われる近現代。豊臣秀吉や坂本龍馬と言った歴史上のスーパースターも登場せず、知る人ぞ知る金栗氏らを主人公に据えた物語には「どこまで大河のボリュームゾーンである中、高年層をつかめるか」という課題が当初からあった。

 13年度上期の朝ドラ「あまちゃん」が大ヒット。若者人気抜群の宮藤氏を起用した作品について、同局の上田良一会長(69)は今月7日の定例会見で「私も毎週見ていますが、オリンピックを目指す当時の人の思いがテンポ良く描かれていると思います。私も皆さんと一緒で先回りしては(作品を)見ていない。今後の展開を期待しているということですね」と答えた。

 しかし、同席した制作幹部は「今まで扱ったことのない題材で、新しい大河ドラマのあり方を目指したのが、まだ、従来の大河ドラマのファンに受け入れていないのではないか」と冷静に分析。「これから、もっと皆さんの分かりやすい方向、大きな流れの方向に展開していくのではないか」と期待を込めて続けていた。

 “裏番組”も強力そのものだ。10日の日本テレビ系「世界の果てまでイッテQ!」が平均視聴率17・2%、テレビ朝日系「ポツンと一軒家」も15・2%を記録するなど、強敵がズラリと並ぶ最激戦区が、日曜の午後8時台なのだ。

 「あまちゃん」でクドカン・ファンとなった私も第6話までを録画し、じっくりと視聴してきた。リアルタイム視聴をしていない1人で申し訳ないが、毎回とても面白く見ている。

 特に芸能記者時代に、その才能と人柄に大きな影響を受け、今でも敬意と共に、あらゆる出演番組を追いかけている2人、ビートたけしと役所広司が“夢の共演”を果たしているとあって、1分1秒も無駄にしない思いで視聴していると言っていい。それだけに、作品のクオリティー以前に視聴率ばかりが取り上げられる現状が歯がゆくて仕方ない。

 この日の会見で、NHKの番組全体について「視聴率は重要な指標だとは思っていますけれども、民放さんとの視聴率競争をしているつもりは全くありません」と言い切った木田総局長。続けて「今までNHKに接触していただくことの少ない視聴者に向けての番組作りの試行錯誤は、ずっと前から重ねています。視聴率というより接触率。見ている人の広がりについては、わずかながら改善しているのではないかと、手応えを得ています。公共放送・NHKとしては、ずっと同じ方々に見ていただいている事も必要な事ですが、あまりNHKの番組は見ないという人にもぜひ触れていただいて、ああ、NHKはこう言うことをやっているのかと、ファンになる糸口になってもらえればなあと思って、いろいろな番組をやっているということです」と切実な口調で言った。

 番組を最初から最後まで通して見た人の数字を平均で示すのが視聴率なのに対し、その番組を5分以上見た人を全てカウントするのが、接触率。そう、「いだてん」が挑んでいるのは、これまで大河と言えば、必ず見てきた固定視聴者だけでなく、未知の視聴者との“触れ合いの機会”を高めようという試み。実際、50~60代の女性視聴者が前作「西郷どん」より減ったが、20代と30~40代の女性は増加。男性でも60代が減少も40代が増えたというデータもある。

 だからこそ、私は「朝ドラとか、大河ドラマとか、7時のニュースとか、NHKスペシャルとか、言わばウチの看板番組には視聴率もある程度、行ってもらいたいというのはあります。ただ、視聴率を獲りに行くために番組作りをすると言うのは、どの番組でも優先事項ではない。何番目かにそういうことを考える番組もありますが、視聴率を最初から無視して、自分たちの好きなものを作ると言うことではない。見ていただく方を十分に意識した上で番組作りと言うのはすべきだと思います」と訴えた木田総局長の言葉に大きくうなずかされた。

 大河ファンの皆さん、クドカン・ファンの皆さん、五輪とスポーツ大好きの皆さん。どうか焦らないで欲しい。「いだてん」が提供してくれる“お楽しみ”は、きっとこれから。私は、そう思っている。(記者コラム・中村 健吾)

 ◆「いだてん」視聴率の推移
 ▽第1話 15・5%
 ▽第2話 12・0%
 ▽第3話 13・2%
 ▽第4話 11・6%
 ▽第5話 10・2%
 ▽第6話 9・9%
(数字はビデオリサーチ調べ、関東地区)

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