•  若手の落語家、講談師11名からなるユニット「成金」の正体に迫る連載。読み応えたっぷりのインタビュー記事を随時更新していきます。ご期待ください。

【成金の正体】爆笑派・桂宮治、高収入を捨て結婚直後に無職に 躍進を支えた師匠の言葉(1)

2018年12月18日16時0分  スポーツ報知
  • とにかく明るい桂宮治の高座姿(カメラ・越川 亘)

 ひたすら走り続けている。落語家・桂宮治(42)は現在の二ツ目ブームを牽引するトップランナーでもある。高座では速いテンポでの語り口と、目いっぱいのサービス精神で観客の心をつかむ。会場をひっくり返しドカン、ドカンと笑いを巻き起こす爆笑派だ。

 ユニット「成金」結成前にすでに売れていた。メンバーが口をそろえて「当時は“宮治1強”でした」と振り返る。二ツ目昇進後、約半年でNHK新人演芸大賞の落語部門で大賞を受賞した。参加資格は入門15年未満の二ツ目で、ほとんどが真打ち昇進を控えたタイミングで受賞してステップアップしていた。宮治は入門4年半で大賞を勝ち取る快挙だった。

■二ツ目昇進直後に大賞受賞

 「お祭りだから、1回経験して数年後に取れる努力をしよう、楽しもうと…。優勝するとかじゃなく、目の前のお客さんにとにかく笑ってもらおうと…」。出番前のアナウンスで「軽い噺が魅力の若手」と紹介を受けると「軽いって言ってますが、体重は1番重いです。若手って言ってますけどおじさんです」とマクラで和ませ、「元犬」を演じ笑わせた。

 発表の瞬間は今でも覚えている。「『やっちまったな』と…。ウソでしょうって」。想定外の出来事に笑顔はなく表情がこわばっていた。「この先どうしよう。大丈夫かな俺の人生…。逆に恐怖でした」。

 受賞してから景色が変わった。「賞を取ったおかげで、仕事は増えました。それも自分のキャパオーバーでしたけど…」。売れっ子の先輩師匠方と組まされる落語会のオファーが急増した。「来るモノは拒まずで全部受けた。仕事は自分の力より上の現場が多かったでしたね」。前座の時からかわいがってもらった柳家三三(44)から「群れないで、上の人と戦っていったほうがいいよ」とアドバイスをもらっていたこともあり、必死でしがみついた。会場のキャパもどんどん大きくなっていった。「孤独でしたよね。とにかく食らいついていくことで落語家として成長できたと思う」

■支えとなった師匠の教え

 師匠・桂伸治(66)の教えもあった。「その日の一番になれ」が師匠の言葉だった。宮治は言う。「その日の一番になる努力をして、高座の上できちんと戦って、前座の時から、後に出る先輩師匠方より面白かったと思ってもらえるような努力を毎日する。それだけ続けて今があるので。ずるいことや卑怯(ひきょう)なことをせずにきれいに一番になる。高座は汚いですけどね…」と自虐的に笑った。

 宮治が落語家に転身したのは31歳だった。それまでは化粧品のセールスマンをしていた。デパートやスーパーに出向いてサンプル商品を配りながら、言葉巧みに商品の良さを伝えながら購入してもらう。話術の巧みさと持ち前の明るさで営業成績はトップに上り詰めた。「最初は楽しかったですね。(営業成績で先輩たちを)抜いていくやりがいもありました。でも(給料面でも)これ以上ないという一番高いところまで上がって…。体力が落ちたら下がる。夢がないなと思い始めました」

 そんな時期に交際中の2歳年上の女性と結婚を決めた。舞台俳優を目指していた時に知り合った仲間だった。当時同棲中だった女性のふとした言葉がきっかけだった。「一生の1回の人生だから嫌なこと続けてもしょうがない。もう1回好きなことすれば…」。18歳当時の夢を思い出していた。「板の上に立つ職業をやってみようかな」。You Tubeで、桂枝雀の「上燗屋」に出会った。「ノートパソコンで落語を見て、こんなに面白いモノが世の中にあったんだって…。かみさんを呼んで…。10回見て10回連続で笑って」。枝雀の落語では登場人物が躍動していた。「舞台で、いい役者さんだけが集まったドタバタコメディーのようで、一人でも下手な役者さんがいたら絶対笑いが起きないだろう、演出家も脚本も面白くて完璧なやつで、『うわっ、これ面白いな』と思ったのが何本かあるんですが、それを枝雀師匠が一人でおやりになっていた。一人でこんなの出来るんだ」。落語家になる決意を固めた。

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