奇跡の復活・棚橋弘至が明かした「長く付き合っていかなければいけない」ケガとの戦い

2018年8月14日11時0分  スポーツ報知
  • G1クライマックス優勝で完全復活を遂げた新日本プロレスのエース・棚橋弘至

 猛暑の東京・日本武道館で奇跡のような復活劇を目撃した。新日本プロレス真夏のシングル総当たり戦「G1クライマックス28」の優勝決定戦で、41歳の棚橋弘至が3年ぶり3度目の優勝を飾った。

 この夜、抜群の身体能力を生かして攻めてくる現代プロレスの申し子・飯伏幸太(36)との大一番に臨んだ「100年に1人の逸材」は序盤から守勢に回った。飯伏のセカンドロープを使ってのムーンサルトプレス、トップロープからのスワンダイブ式のラ・ケブラータ、雪崩式フランケンシュタイナーと現代プロレス最高難度の攻撃に耐え続けた。

 危険度満点の首へのドラゴンスクリュー、テキサスクローバーホールドにコーナートップから場外へのハイフライフローと全盛期を思わせる技の切れで徐々に形勢を挽回すると、最後はドラゴンスープレックスからハイフライフローを飯伏の背中に、胸にと3連発。ついに3カウントを奪った瞬間、時計はG1史上最長の35分を刻んでいた。

 試合後、G1最多5回優勝の蝶野正洋(54)から優勝旗を受け取ると、「G1、優勝だ~!」と絶叫。「G1、生き残りました。これはどういうことか? そう、棚橋弘至が新日本プロレスで生き残ったということです」と続けた。

 この「新日本プロレスで生き残った」という言葉が、私の心に突き刺さった。

 棚橋と言えば、新日の大看板。元オーナーのアントニオ猪木氏(75)の推し進めた格闘技路線の失敗や積み重なった負債で経営難に陥った2000年代の新日を「エース」として一身に支え続けてきた存在だ。

 今でこそ、オカダ・カズチカ(30)や内藤哲也(36)の台頭でV字回復を遂げた新日だが、それまでの10年以上をメーンイベンターとして支えてきたのは、この男。あえて自分から「エース」と名乗り、始めは失笑を買った「愛してま~す」の決めぜりふも完全に浸透させた。

 一時はスポーツ新聞記者を目指していた「言葉の力」でバラエティーにも多数出演。休日を返上して地方のラジオ局やタウン誌まで回り、大会をプロモーション。睡眠4時間で広報マンとしての役割まで長年果たしてきた男の新日への、ファンへの熱い思いを知っているからこそ、今でも誰もが棚橋を「エース」と呼ぶ。

 そんなスーパースターの口から飛び出した「生き残った」という言葉。確かに長年の激闘で負った右ヒザ変形性関節症のため、今年、2度に渡って欠場した末の復活劇ではあったが、全盛期を思わせる、この日のファイトに魅了された直後だっただけに、その言葉の強さにやや違和感を覚えた。

 だから、13日、東京・目黒の新日本社で行われた一夜明け会見でストレートに聞いてみた。

 「あそこまで追い詰められた言葉が出るほど、心の中に危機感があったのか?」

 常に質問した記者の目をまっすぐに見つめて応える棚橋は「う~ん」とうなると、しばらく考えて言った。

 「ケガの種類にもよるんですけど、良くなるケガであれば、どんどん治療して、しっかり治して万全で帰ってきましたと言えるんですが、僕のケガの種類は武藤(敬司)さんも一緒なんですけど、長く付き合っていかなければいけない。付き合い方がいろいろあって…」

 そう、プロレス界のレジェンド・武藤を今年いっぱいの欠場に追い込んだレスラーの職業病が右ヒザ変形性関節症。長年、コーナーポストから天高く飛ぶフィニッシュホールド・ハイフライフローを繰り返してきた棚橋の右ヒザの状態はボロボロ。すでに完治が不可能なほど痛んでいる。

 2月の欠場後の1か月間を「奇跡の1か月」と語っていた棚橋に「どうやって、ここまでの復活を遂げたのか?」と重ねて聞いた。

 「悪い部分のヒザ周りの筋肉の強化です。インナーマッスル、体幹と臀部大臀筋をバランス良く使ってヒザの負担を減らすことをトレーナーの先生としっかりやってきました」―。そう、すでに功成り名を遂げたトップレスラーは、この半年間、新日の道場やジムで完全復活に向け、地道に、まっすぐに、自分の体を作り直す努力を続けてきた。

 そして、迎えた完全復活の夏。G1優勝決定のリング上で「IWGP(ヘビー級王座)のチャンピオンにもう一度なる」と絶叫。バックステージで「前回の2015年のG1(優勝)から昨日の間に多くの欠場があって、ケガもあって、結果も出なくて。そういうケガしている部分とか、思い通りに自分のプロレスができない悔しさだったりとかは、僕は見せなくていいと思うんで。皆さんの中で棚橋弘至というのは楽しい(存在)、楽しんでもらえればいいかなと思っていた。だから、プロレス界には俺が必要なんです。日本全国のリングに立ち続けます」と堂々、宣言した。

 一夜明け会見でも「棚橋、まだまだ十分行けるぞと。年齢に捕らわれないレスラーになるためにはどうすればいいか? より動けて、今よりビルドアップされた体を作って―。笑いじわとかを増やして、若々しくあればいいかなと」と笑わせた新日のエースは次戦の相手に前IWGPヘビー級王者のオカダを指名した。

 「G1に勝つことは完全復活と言っていいと思うけど、その上でオカダというのは避けて通れないと思います。僕はプロレスの可能性を信じてますんで。もっと、プロレスを好きになってもらう先頭に立っていたい。それは僕しかできないかな」―。そう言い切った新日が誇る「太陽の天才児」は、まだまだ日本マットの中心で輝き続ける。(記者コラム・中村 健吾)

 ◆棚橋 弘至(たなはし・ひろし)1976年11月13日、岐阜・大垣市生まれ。41歳。大垣西高から一般入試で立命大法学部に進学。99年、新日本プロレス入門。冬の時代を送っていた同団体のエースに上り詰めると、女性ファン開拓など人気復活に貢献。V字回復の立役者になる。主なタイトル歴はIWGPヘビー級王座、IWGPインターコンチネンタル王座、G1クライマックス優勝2度(07、15年)など。ニックネームは「100年に一人の逸材」「太陽の天才児」。181センチ、103キロ。9月21日に初主演映画「パパはわるものチャンピオン」が全国公開される。

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