ダイナマイト・キッドさんらレジェンドが遺した魂と文化を次の時代も…金曜8時のプロレスコラム

スポーツ報知
ダイナマイト・キッドさんが表紙の「Gスピリッツ」50と「『プロレス』という文化 興行・メディア・社会現象」

 2018年もあとわずか。今年も、またレジェンドレスラーが亡くなった。6月18日にビッグバン・ベイダーさん(享年63歳)、7月14日にマサ斎藤さん(同75歳)、そして12月5日に、ダイナマイト・キッド(トーマス・ビリントン)さんが60歳で亡くなった。

 今月発売された「『プロレス』という文化 興行・メディア・社会現象」(岡村正史著、ミネルヴァ書房、3500円+税)では、「三大紙の訃報研究」について書かれており、読売新聞、朝日新聞、毎日新聞の3紙すべてに訃報が掲載されたプロレスラーをリストアップしている。

 この10年では、09年は三沢光晴さん、ショータ・チョチョシビリさん、10年はラッシャー木村さん、アントン・ヘーシンクさん、山本小鉄さん、ジョー樋口さん、11年は上田馬之助さん、14年はビル・ロビンソンさん、15年はビレム・ルスカさん、16年はハヤブサさん。そして今年はブルーノ・サンマルチノさん、マサ斎藤さん、輪島大士さんだった(ベイダーさんは2紙、キッドさんは原稿締め切り後に3紙)。

 「『プロレス』という文化-興行・メディア・社会現象-」は、出版社と価格からもわかるように、大学の社会学のテキストになりそうな学術書だ。著者はプロレス文化研究会代表の岡村正史氏(64)で、同志社大学大学院文学研究科修了、大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了という経歴。「知的プロレス論のすすめ」(1989年、エスエル出版会)、「日本プロレス学宣言」(1991年、現代書館)、「力道山と日本人」(2002年、青弓社)の書名は聞いたことがあるかもしれない。

 最新刊は、第1章が「ロラン・バルトとフランス・プロレス衰亡史」から始まるように、岡村氏は、プロレスというものをアカデミックなものに寄せていく手法で、プロレスファンの欲求を満たしてきた。プロレスが世間からどう見られているか、とりわけ、いかにプロレスが新聞に載ったかを指標にしており、「力道山研究という鉱脈」の章では、報知新聞の引用も出てくる。

 昭和を大事にするプロレス文化研究会だが、平成が終わろうとしている現在のプロレスについて、「新日本プロレスの一人勝ちが明確になっていく状況」とし、昭和プロレスを愛するマニアについて「今の新日本はそんなマニアを相手にしていない。そういうマニアはDVDを見るか、専門誌『Gスピリッツ』を読んでおけばいい」という参加者のコメントを紹介。岡村氏は「今や九〇年代のプロレスでも古いという感覚が支配的になってきている」という。

 90年代は三銃士、四天王の時代。この7人のうち2人が亡くなり、3人が引退、2人がセミリタイア状態だ。昭和のプロレス者としての拠り所は、ご指摘の通り「Gスピリッツ」だ。

 プロレス専門誌「Gスピリッツ」(辰巳出版タツミムック)は、休刊した「週刊ゴング」の元編集長コンビ、清水勉氏(ドクトル・ルチャ)と小佐野景浩氏がメインライターを務め、記者だった佐々木賢之氏が編集長。古き良き時代の懐古、発掘記事が魅力で、このコラムでも何度もネタにさせてもらった。

 今月発売の最新刊「vol.50」(1200円+税)の表紙はダイナマイト・キッド(トーマス・ビリントン)さん。メインの特集は「BI砲時代の日本プロレス」だが、発売直前の訃報に表紙が差し替わった形だ。巻頭では、キッドさんの甥が英国でプロレスデビューしたことを報じている。

 以前、このコラムでも紹介した“1000の顔を持つ男”ミル・マスカラスの最初の顔(デビュー戦マスク)をドクトル・ルチャが特定したというニュースの続報として、その実使用マスクの発掘リポートが掲載されている。「“黄金の左”輪島大士の全日本プロレス時代」も興味深い。

 「ゴング」誌の支流はいろんなものが出たが、マニアック過ぎると思っていた「Gスピリッツ」だけが生き残り、ついに50号を突破した。前号の表紙と特集はマサ斎藤さんで、昭和レジェンドの訃報請け負い誌ともなっているが、「Gスピリッツ」があるからこそ、英霊たちも浮かばれることだろう。「プロレス文化研究会」がマニアの象徴として認めた“G魂”は、次の時代にも残り続けてほしい。(酒井 隆之)

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