引退から1か月、飯塚高史が鬼になる直前に遭遇した時の話…金曜8時のプロレスコラム

スポーツ報知
2月21日の引退試合から姿を見せていない飯塚高史

 “クレイジー坊主”こと新日本プロレスのヒール、飯塚高史(52)が引退して1か月がたった。2月21日に東京・後楽園ホールで行われた「NEW JAPAN ROAD 飯塚高史引退記念試合」で、札止め1726人の観衆を前に無言でリングを去ってから何の音沙汰もない。

 スキンヘッドに長いひげ、181センチ、107キロのたたき上げの肉体。最後の6人タッグマッチでは、鈴木みのる、タイチと組んで、矢野通、天山広吉、オカダ・カズチカ組と対戦。天山から「飯塚! 目を覚ませ」と呼びかけられたが、かみついてヒール全開。最後は天山のムーンサルトプレスに散った(22分14秒、体固め)。

 天山と握手したものの、結局、またかみついて凶器の「アイアンフィンガー・フロム・ヘル」で地獄突き。タイチが「飯塚、本当に引退するのかよ。最後くらい自分の声でちゃんと答えろよ。コノヤロー」とマイクを促されたが応じず、応援に駆けつけたアイドルグループ「ももいろクローバーZ」をも無視して退場した。鈴木みのるが、無理やりテンカウントゴングを鳴らして終わらせた。

 試合後の囲みもなく、新日本プロレスでの一夜明け会見も開かれず。その後、入ってきた唯一の情報は、23日にCSテレ朝チャンネルの「ワールドプロレスリング 大特集」で「“怨念坊主”飯塚高史 大特集!」が放送されるということ。

 午後2時から3時間にわたって飯塚の過去の映像が流される。もちろん本人が振り返ったりはしない。番宣資料によると「1985年5月に新日本プロレスに入門。1986年11月にプロレスデビューをはたす。旧ソ連(現ロシア)へのサンボ留学など、長らく本隊の正統派選手として活躍していたが、2008年3月に天山広吉との友情タッグを裏切って、G.B.Hに加入。以降はルックスや試合も凶悪スタイルに変貌し、アイアンフィンガー・フロム・ヘルで幾多の戦士を窮地に陥れた。そんな新日本マットを代表する狂気あふれるヒールレスラーとして活躍した飯塚高史選手の引退を記念して過去の名試合を大特集!!」という紹介だ。

 予定されている対戦カードは、1989年に長州力からパートナーに抜擢されスーパー・ストロング・マシン、ジョージ高野組からIWGPタッグ王座を奪取した出世試合から、前述の引退試合まで11試合。2000年に佐々木健介に挑んだIWGPヘビー級選手権や、天山とのシングルマッチもある。

 引退から第2の人生が発表されていない謎の空白の時間だからこそ、アーカイブを神秘的に楽しめることだろう。ついでに、この空白の期間だからこそ、書いておきたいことがある。

 あれは2年前の両国国技館でのことだった。デスク勤務のため、取材を担当記者に委ねて興行の途中で中座。バックステージのトイレに立ち寄った。この日は使用されていない大広間前で、選手控え室からも遠いトイレだったが、入った時に上半身裸の男が手を洗っていた。「お疲れ様です」と言いながら足を小便器の方に進めてから、出番前の飯塚であることに気付いた。

 決して花道を使用せず、観客席の後方からサプライズで暴れながら入場する飯塚は、控え室(支度部屋)や花道とは反対の見えない所でスタンバイしておく必要があったのだ。こちらもイレギュラーな行動をしたから、普段なら入れるはずのない、出番前の控え室に侵入してしまった。「やばい」と思いながら用を足して、出て行くとき、鏡越しに目が合い、会釈に応じてくれた。

 “鬼”になる前でよかった。「ドレッシングルームは、レスラーが人間から鬼に変わる場所」と言ったのは作家の村松友視氏だったか。そして、試合後に人間にまた戻る場所でもあるのが控え室。鬼のままフェードアウトした飯塚は、“人生の支度部屋”で長風呂に入っているのだろうか。また、鬼になって出てきてほしいと思ってみたりもする。(酒井 隆之)

 ◆飯塚 高史(いいづか たかし) 1966年8月2日、北海道室蘭市生まれ。52歳。本名(旧リングネーム)は飯塚孝之。1985年5月、新日本プロレス入門。86年11月2日、野上彰(現・AKIRA)戦でデビュー。89年、馳浩とグルジアでサンボ修行し、異種格闘技戦に挑んだ。08年、天山広吉との「友情タッグ」を結成。同年4月に真壁刀義、矢野通組のIWGPタッグ王座に挑戦も試合中に天山を裏切り、ヒールに転向。以降は頭をスキンヘッドにし「クレイジー坊主」として無言を貫き、入場時には観客席を破壊する狂乱ぶりを披露。テレビ朝日の野上慎平アナウンサーを試合のたびに襲撃することでも話題を呼んだ。

 ◆CSテレ朝チャンネル「ワールドプロレスリング “怨念坊主”飯塚高史 大特集!」(3月23日午後2時~)放送予定カード

 ・マシン、高野vs長州、飯塚(1989年7月13日)

 ・飯塚、野上vs齋藤、青柳(1994年1月4日)

 ・橋本、平田vs山崎、飯塚(1996年6月12日)

 ・佐々木vs飯塚(2000年7月20日)

 ・真壁、矢野vs天山、飯塚(2008年4月27日)

 ・天山vs飯塚(2008年10月13日)

 ・天山vs飯塚(2011年1月4日)

 ・天山、小島vs矢野、飯塚(2012年5月3日)

 ・天山、小島、永田、桜庭vs矢野、飯塚、裕二郎、YOSHI(2014年3月6日)

 ・矢野、飯塚vs鈴木、ベンジャミン(2014年5月25日)

 ・引退試合 オカダ、天山、矢野vs飯塚、鈴木、タイチ(2019年2月21日)

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