【巨人】新星・メルセデスと球団をつないだ運命のトライアウト…名スカウト大森剛氏に聞く

スポーツ報知
自身の初勝利を1面で報じる7月11日付のスポーツ報知を手に笑顔を見せるメルセデス(カメラ・矢口 亨)

 巨人のC・Cメルセデス投手(24)が、10日のヤクルト戦(神宮)で初先発初勝利を挙げた。9日に育成契約から支配下登録され、背番号が「026」から「95」に代わったばかりの左腕が5回無失点と好投。育成出身投手が初登板初先発で勝利するのは、史上初の快挙だった。

 この歴史的な投球を自分のことのように喜んでいる人がいた。国際部・大森剛氏だ。慶大から巨人に入団し、左の長距離砲としてプレー。引退後はスカウトとして光星学院高・坂本勇人内野手を担当し、発掘した確かな眼力の持ち主だ。

 大森氏とメルセデスの出会いは2年前の16年オフ。ドミニカ共和国の首都、サントドミンゴで実施した球団のトライアウトだった。

 テストには所属先が決まっていない投手10人、野手10人が参加。国際部スカウトとして担当していた大森氏は、整備が完璧にいきとどいていない、決して良いとは言えないグランド状況の中で行われたシート打撃の初球を見て、メルセデスの獲得を決意したという。当時をこう振り返る。

 「広場みたいなグラウンドでやったんですけど、1球目を見て決めました。150キロを出して。とてもいいボールが来ていた。投げ方も中南米には少ない、日本人のような奇麗なフォームをしていた」

 5日後、大森氏はメルセデスとマルティネス(現巨人育成内野手)の2人だけを改めてグラウンドに呼び、再テストを実施した。この時点で2人以外の18人が落選。倍率10倍という超狭き門だ。投内連係、バント処理など細かいプレーも確認し、合格を正式に決めた。本人にそれを伝えた時の様子が忘れられないという。

 「育成契約なので年俸は200万円くらい。本当に200万でも良いのか、と5回くらい本人に聞いたけど、『お願いします。どうしても日本で野球をやるチャンスが欲しいんです』と。ハングリー精神を感じた。テストの後、ボロボロのユニホームのまま着替えもせず、そのまま乗り合いバスみたいなのに乗って家まで帰って行く姿をすごく覚えています」

 ドミニカ共和国では、1000万円あれば、家を建てて車を購入できるという。ジャパニーズ・ドリームを目指すその姿勢に、大森氏は強く胸を打たれた。

 来日2年目。日本野球を学び、2軍で好成績を残してつかんだ支配下登録、1軍の舞台。大森氏は10日のヤクルト戦のメルセデスの投球を「心配で心配で試合を見ることができなかった」というが、結果を知り「本当に良かった。トライアウトをやった当時のことを思い出しました」と感慨深そうに振り返った。

 改めてトライアウトのことを思い返し、大森氏は思うことがあるという。

 「20人テストに参加していたけど、みんな所属がない選手ばかりで。目の輝きが本当にすごかった。50メートル走でも足がちぎれてもいい、というくらいで走る。とにかく必死な姿が印象に残っています」

 同じく6月に育成から支配下登録されて1軍で中継ぎ登板した157キロ右腕のアダメスも、大森氏がドミニカ共和国で実施した別のトライアウトで発掘した投手だ。メジャーリーガーの大物選手を獲得することだけが外国人補強ではない。トライアウト、育成契約から1軍で白星を挙げた今回のケースは、新たなモデルケースになりそうだ。  (片岡 優帆)

巨人

×