【巨人】“高専初”のドラ2指名から裏方転身の鬼屋敷「細かなことにも気づけるブルペン捕手に」

スポーツ報知
裏方として巨人を支える現在について語った鬼屋敷正人ブルペン捕手

 プロ野球界は華々しく映るが、選手たちが球場で躍動するだけがすべてではない。それを支える多くの裏方たちはどんな思いを抱えて日々を過ごしているのか―。今週は、鬼屋敷正人ブルペン捕手(27)の「今」を特集する。高等専門学校から初のドラフト指名選手として2009年にドラフト2位で巨人に入団。17年に現役を引退してから球団の裏方として新たな道を歩んでいる現在を、大いに語った。(取材・構成=小林 圭太)

 こうして、メディアの前に登場するのは久しぶりかもしれません。僕は今、大好きな巨人の裏方として働いていて、ブルペン捕手という仕事をしています。ブルペン捕手というのは、名前の通り、ブルペンなどで投手の球を受ける人のこと。今の仕事はすごく楽しいです。

 17年に引退しましたが振り返ると、悔しかった方が大きい。自分は「うまい」と思って入ってきて、正直すぐに活躍できると思っていた。でも周りを見たら違うな、と思った。肩が強いキャッチャーはいっぱいいるし、それ以外にも特徴を持ったいいキャッチャーばかり。「あぁ、やっぱりプロってすごいな」って。

 でも後悔は一切していない。小学校6年生くらいの頃からずっとプロ野球選手になりたいと思っていた。僕は高等専門学校卒。高専の入試の面接の時に、「将来のなりたい職業は?」と聞かれ、「プロ野球選手になりたいです」と本気で答えた。もちろん高専でプロ野球選手を目指す、なんて人は当時はいなかったでしょうから、面接官の人たちには笑われましたけどね(笑い)。甲子園も出たことない、決して強豪校ではなかったけど、それでもあきらめなかった。どこにいても、自分の志や強い信念を持っていれば、必ずチャンスは来ると思う。僕みたいな高専卒の人であろうと、プロになれない、ということは一切ない。それは今僕から若い人たちに伝えたいことの一つです。

 僕の地元は田舎なので、ジャイアンツ戦しかテレビで映らない。お父さんがジャイアンツファンで、よく見てました。入った時はテレビで見ている人ばかりで感動しました。でもプロの世界はアマの世界とは全然違った。アマ時代に緊張したことがなかった自分でも、さすがに緊張で震えた。ファンや球場の雰囲気はやっぱりすごいものがありましたね。

 現役を引退してから、球団から「ブルペン捕手をやってみないか?」と打診をいただきました。結婚する予定だった年に引退した。これからの人生は、僕一人だけではない。すぐに返事はできなくて、一度持ち帰って妻と相談しました。妻の後押しもあり、後日球団に「やらせてください」と返事をした。

 現役時代を経験していたから、ブルペン捕手になった時は少しギャップがあった。もちろん捕手としてボールを捕ることは一緒だけど、選手と裏方の関係だから、立場は違うんだ、と。目配り、気配りとか捕手をやっていた時から大事にしていたけど、もっと敏感になった。選手ができるだけ気持ち良く投げてもらえるように、ミットで捕る際に大きな音を鳴らしたり。

 選手たちは意外にも音に、けっこう敏感です。僕も100%できているわけではないですけど、できるだけ大きな、いい音を鳴らすように気をつけている。後は、投手は投球の軌道もみたいと思うので、ミットを流さないように、しっかり止めることを気にしています。

 自分はキャッチングがうまいとは思っていない。ブルペンに入ってコミュニケーションを取ったりするけど、相手の表情とか見ながら、話すようには心がけています。例えば、投手の調子が良くない時に「あーだ、こーだ」と言い過ぎても相手のストレスになるかもしれない。現役選手の時も同じことが言えますが、試合とかでピッチャーの表情とかよく見ていました。マウンドに駆け寄ってコミュニケーションを取る際などは言葉を選びながら会話をとったりしていた。僕はそこまで、ズケズケいくタイプじゃないけど、そういうところはプロの捕手を経験したから今に生きている部分でもある。

 優れたブルペン捕手の先輩たちが周りにはたくさんいる。毎日が勉強で、学ぶことがたくさん。理想は、選手からお願いされて捕ってほしいと言われるようなブルペン捕手になりたい。先輩たちは球を受けた投手の投球フォームの違いとかに気づく。僕もそういうところも気づけて、的確に言えたらいい。選手も自分のこと見てくれているんだなと思って、『またお願いします』と言われるようになると思う。細かなことにも気づけるブルペンキャッチャーを目指したい。

 僕はジャイアンツに運が良く入ることができて、キャッチャーとして野球をやってきたおかげで球団の方から仕事をもらえた。巡り合わせじゃないですけど、僕がもしキャッチャーをやっていなかったらこういう仕事もやってなかったかもしれない。そういうのを考えたら本当にありがたい話。こうして今、ブルペン捕手をして幸せなのも、プロを目指したあの時の気持ちがあったからだと思います。

 ◆高専選手のドラフト 鬼屋敷氏がドラフト指名された2009年当時、野球協約では、指名対象選手を「翌年3月に卒業見込みの者」とし、5年制の高専に通う選手は想定していなかった。7月にNPBの要望を受け、日本高野連が全国高専体育協会に照会。同協会から「3年次修了をもって、高校在籍生徒と同等の取り扱いをすることに異議はない」などの回答があり、鬼屋敷氏の指名が可能となった。

 ◆鬼屋敷氏の年度別メモ

 ▽10年(1年目) 2軍で17試合に出場し、打率1割5分。

 ▽11年(2年目) 2軍で14試合に出場し、打率0割7分7厘。

 ▽12年(3年目) イースタンの開幕戦にスタメン捕手として出場。

 ▽13年(4年目) 6月9日の楽天戦(東京D)でプロ初出場。9回表で捕手として登場した。

 ▽14年(5年目) プロ初打席となった10月1日のヤクルト戦(神宮)では秋吉に空振り三振。

 ▽15年(6年目) 春季1軍キャンプで原監督からMVPに挙げられるも1軍出場なし。

 ▽16年(7年目) 2軍で55試合に出場し、打率2割3分7厘。

 ▽17年(8年目) 背番号が64から95に変更。1軍での出場はなく、現役引退を決意。

 ◆鬼屋敷 正人(きやしき・まさと)1991年6月19日、三重県紀宝町生まれ。27歳。近大高専では1年秋からベンチ入り。2009年ドラフト2位で巨人に入団。高専選手で史上初めてドラフトで指名された。1軍出場は13、14年にともに1試合ずつの計2試合。180センチ、82キロ。右投右打。

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