【北海道出張記者のなまらいい話】蛯名の原点「すずらん乗馬クラブ」 恩師は素質を見抜いていた

スポーツ報知
すずらん乗馬クラブの川端鎮明さん

 緑豊かな馬場に、リズミカルな蹄音が響く。北海道恵庭市にある、すずらん乗馬クラブ。ここが蛯名正義のルーツだ。小学校の同級生に誘われ、5年生から中学3年生まで通った。「春休みも夏休みも冬休みも、青春をここで過ごしました」と、代表の浜田桂子さんは懐かしそうに振り返った。

 当時の最寄りである島松駅から2キロ以上あり、徒歩30分は要する。「よく駅から走って『12分で来ました』って」。ハアハアと息を切らせながら元気いっぱいにやってきた。競馬ファンだった父親の影響もあり、馬乗りを志した。「中学に入って『夢は何?』と聞いたら『騎手になりたい』と。一生懸命だったから、かなえてあげたいと思いました」

 指導した川端鎮明(まさあき)さんによると「とにかく普通の少年だった」という。「すごく真面目というわけでも、悪さをするわけでもない。技術もべらぼうに上手でも下手でもなかった。ただ、服装はなかなかオシャレでしたよ」と笑う。父親をまねて、はやりの格好をしていた。

 「あの時は本当に心配しました」。浜田さんがよく覚えている出来事がある。中学生の時、海でホーストレッキングをした時のことだ。馬に乗って河口の向こう岸まで渡るもので、大波が次々と打ち寄せ、鞍はズブぬれ。まるで映画の合戦のシーンのようななか、一頭だけポツンと後方に取り残されていた。「それが蛯名君だったんです。馬は動かないし、蛯名君の様子もおかしくて」。他の生徒たちと到着していた川端さんが戻って促したが、馬は一向に進まない。「初めての経験でパニックになって、頭が真っ白になったみたい。馬の上で気絶してたんです。競馬学校を受ける前だったし、『これで騎手になれるのかな? 大丈夫ですかね?』って、川端先生と話しました」

 そんな一面もあったが、「子供はどれだけ好きにさせるかが大事」という川端さんの指導論が、上達へと導いた。乗馬クラブでは150センチの障害を楽々と跳んだ。「体が柔らかかったですね。競馬学校は『受かるな』と思っていましたよ。芯があったから」と川端さんは素質を見抜いていた。

 取材したその日は大雨。窓の外を見ながら浜田さんは「彼は結構、重馬場に強いんですよね」と話し始めた。理由は、すずらん乗馬クラブにある。「ここは屋内馬場がないですからね。あと冬に来たら分かりますけど、雪もすごいんです」。50センチほど積もる日もあるという。G1・26勝。凱旋門賞でも2度の2着を果たしたトップジョッキーの原点はここにある。(石野 静香)

 ◆すずらん乗馬クラブ 住所は北海道恵庭市西島松548。敷地は約3000坪。小学2年生から74歳まで約100人が通う。97年金鯱賞など重賞2勝のゼネラリスト、06年神戸新聞杯など重賞2勝のドリームパスポート、14年京成杯勝ち馬プレイアンドリアルなど計27頭の乗馬がいる。今年で40周年を迎えた。

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