【北海道出張記者のなまらいい話】札幌競馬場内「厩務員食堂」は愛情も量もG1級!

スポーツ報知
体力勝負の厩務員を優しい笑顔と愛情たっぷりの料理でもてなす田中明さんと真樹さん夫婦

 夏の札幌開催も今週がラスト。競馬場の主役は馬と騎手だが、その裏側には調教師や助手、厩務員の奮闘があり、さらにそんな彼らを温かく支える人がいる。今回、札幌出張中の川上大志記者が、札幌競馬場内にある競馬関係者専用の通称「厩務員食堂」を取材。切り盛りする夫婦の思いや、料理の味に迫った。

 腹が減っては戦はできぬ―。久々にやってきた札幌競馬場で、リニューアルされた食堂が目に飛び込んだ。扉を開けると「いらっしゃい!」と、アメフト経験者らしい力強い声が響く。声の主はマスターの田中明さん(49)。札幌市中央卸売市場近くに「びびび食堂」(札幌市中央区北11条西21丁目)を構えているが、今夏から厩務員食堂の運営を任されている。

 「縁」が出店につながった。東京出身の明さんはもともと上野・アメ横で居酒屋を開いていたが、そこにアルバイトに来たのが後に妻となる真樹さん(40)だった。結婚後の16年11月、真樹さんが北海道日高町生まれでもあり、札幌で食堂をスタート。実家が馬産地にあり近所にヤエノムテキ(宮村牧場)やバンブーメモリー(バンブー牧場)がいた真樹さんにとって、競走馬は身近な存在。同級生や知人にも競馬関係者が多く、そのつながりで昨年11月に「食堂をやってくれないか」と声がかかった。

 慣れない環境に、最初は戸惑いばかりだった。馬に携わる人の朝は早い。夏場の5時30分調教開始なら2~3時起きは当たり前。その後、体力仕事を終えた厩務員らがやってくる。「週末の競馬に向けてナイーブになっている人も多い。親切で声をかけても『もう少し静かにしてくれる?』と言われたこともありました。栗東と美浦の方が混在するので『うどんは昆布だし』『いや濃口しょうゆだ』など、味付けの好みもみんな違うんです」

 メニューはあるが形だけ。各人のリクエストに応じて料理を作っていくことにした。本店と“二足のわらじ”を夫婦とスタッフ3名ほどでこなすハードな日々だが、「おいしいものをおなかいっぱい食べてもらいたい」。その一心で日々、調理場に立っている。

 一番人気は様似産の羊肉を使った「様似のジンギスカン」。朝食とランチの営業を終えると、夕方4時からは居酒屋に。馬に引っかけた焼酎ドリンク「バリキング」も並ぶ。営業は、競馬場全休日の月曜を除く毎日。要望に応え、大事なレースが控える日曜は験を担いで「とんかつの日」にした。とんかつ定食はもちろん、カツカレーやカツサンドも用意して“レースに勝つように”と送り出す。「マスター、よく分かってるね」。そんな言葉が一番のごほうびだ。米はもちろん、地元の名産「ゆめぴりか」。腹ペコな人には心ゆくまでよそってくれる。副菜も地元のホタテを使ったクリームパスタなど、細部まで地産地消を心がける。

 今年の札幌競馬も残すところ1週間。今日も、食堂で交わる東西の厩舎スタッフたちを、明さんと真樹さんは優しく見守る。「ようやく仲良くなれたところでお別れになってしまう。厩務員さんたちがこの店を育ててくれた。来年もここで、笑顔で皆さんを待っていたいですね」。週末の熱いレースの裏に、勝負師たちの胃袋を支える食堂がある。(川上 大志)

 <取材後記> 「デカ盛りグルメ」にはまっている記者が注文したのは「今日のカレー」(640円)。軽い気持ちで「大盛りで!」とお願いしたが、あふれんばかりの盛りに仰天した。辛めで独特の酸味も感じるカレーには、地元で採れたオニオンのチップが入ってシャキシャキ感がプラス。さらに、北海道名物のざんぎ(鶏の空揚げ)なども欲張ってしまった。モットーは「笑売繁盛」。腹がはちきれそうになったが、マスターのこだわりと愛情を感じつつ完食した。(川上)

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