【ジャパンC「3冠牝馬ガラスの靴」<上>】アーモンドアイの強烈な末脚を支えたレース専用の蹄鉄

スポーツ報知
アーモンドアイが秋華賞本番で履いた蹄鉄。右前脚の蹄鉄(右)には黒いゴム素材がつけられた

◆第38回ジャパンC・G1(11月25日、東京競馬場・芝2400メートル)

 第38回ジャパンC・G1(25日、東京)で、3冠牝馬アーモンドアイが史上2頭目の3歳牝馬Vを目指す。史上5頭目の牝馬3冠に輝いた強烈な末脚を支えた蹄鉄について、「3冠牝馬 ガラスの靴」と題し、2回にわたって連載する。初回は秋華賞の舞台裏に迫った。

 10・14の京都競馬場。秋華賞のレース前、蹄鉄検査でアーモンドアイの脚を上げた競馬場スタッフが思わず声を上げた。「何だこれは!?」。右前脚に施された約6ミリのヒール。調教時の蹄鉄とは異なる“勝負鉄”を履いていた。

 「保護しながらいい体づくりをするため(調教用)の蹄鉄と、最高のパフォーマンスをするため(レース用)の蹄鉄は違う。この馬の場合はあまりにも特殊」と装蹄師の牛丸広伸(43)は語る。トモ(後肢)の推進力が強過ぎて、右前脚の蹄付近にぶつけて傷付けてしまうトラブルを抱えているアーモンドアイ。オークスまでは、その部分に保護素材を塗って持ちこたえていたが、それでは不十分になった。そこでさらに脚もとを保護するため、調教用とレース用の蹄鉄を初めて使い分けることにした。

 レースで脚が接地する際の衝撃は約1トン。傷つきやすい右前脚にかかる負担を軽くして、よりパフォーマンスを発揮するにはどうすればよいか。牛丸は何日も考え、2時間かかってようやく完成させたのが、冒頭の蹄鉄だった。3ミリの傾斜をつけ、さらにその上にクッションの役割を果たす3ミリの黒いゴム素材を装着。「衝撃を吸収して、なおかつ高さを出すことで、しっかりと地面をつかむことができる」。これで左右のバランスも均等になり、また、両前脚のそれぞれ内側にあたる蹄鉄の先端を浮かせ、“土踏まず”のようにすることで、さらに衝撃を緩和させた。

 強烈な末脚をミリ単位の精巧な技術がアシストした史上5頭目の栄冠。繊細な“ガラスの靴”のストーリーに終わりはない。11月上旬、調教師の国枝栄のiPadが鳴り、牛丸は厩舎に呼ばれた。ジャパンCを目指して放牧されている福島県・ノーザンファーム天栄の場長、木実谷雄太からだった。=敬称略=つづく(取材、構成・石野 静香)

 ◆牛丸 広伸(うしまる・ひろのぶ)1974年12月31日、千葉県生まれ。43歳。土浦日大高卒業後、社団法人日本装蹄師会(現公益社団法人日本装削蹄協会)の装蹄教育センターで資格を取得。94年に父・牛丸森伸装蹄所に入り、09年3月に独立して開業。現在は300頭以上を受け持ち、島川隆哉オーナーやゴドルフィンの担当装蹄師でもある。これまで手がけたG1馬はクィーンスプマンテ、ロゴタイプ。祖父・牛丸森男さんから続く3代目で、伯父は加藤修甫元調教師。家族は妻と2女。モットーは「不惜身命」。「体と命を惜しまず、馬のために働きたい」

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