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馬のために命懸け競馬界の貴親方

2018年11月17日11時0分  スポーツ報知
  • 装蹄師の牛丸広伸さん
  • アーモンドアイが桜花賞からオークスの中間の調教で使用していた右前脚の蹄鉄

 好きな言葉を尋ねた。「うん、あるよ。フシャクシンミョウ」。スマホで調べ始める私の横で、装蹄(そうてい)師の牛丸広伸さん(43)は説明を続けた。「体を惜しまず、馬のために。命を惜しまず、馬のために」。仏教用語の一つで、過去には元貴乃花親方が横綱昇進の口上で「相撲道に不惜身命を貫く所存でございます」と述べたという。こんなに、どストレートなモットーを挙げた人は初めてだった。

 命懸けでレースや調教に騎乗する騎手やスタッフと同じように、心身を削りながら競走馬と向き合う。蹄鉄を打つ際は中腰で作業するため、職業病であるヘルニアは2回手術。担当馬でもレースは怖くて見られないほど、プレッシャーは大きい。「これだけの馬だから寝られないよ」と話すのは、今年、史上5頭目の牝(ひん)馬3冠を達成したアーモンドアイ。「他馬と比べものにならない」ほど強い蹴る力は、自らの脚を傷つけてしまうため、特殊な保護材で補強し、蹄鉄の角を取って滑らかにした。

 そんな苦労も、馬の活躍で報われる。「あんなヨタヨタした歩様の馬がG1を勝つんだから…」。立派な額縁に飾られている、蹄鉄を感慨深げに見つめた。かつて担当した皐月賞馬ロゴタイプのものだ。引退するまでは作らないのが競馬界の常識で、「『脚を取られる』って言うだろう? 故障して長く現役生活を続けられなくなるから」。7歳まで走ってG1を3勝。このU字形の鉄に思い出が詰まっている。

 家では2人の娘を持つ父親。「家族には何にもしてあげられてないから、かわいそうだよな。『パパ、どうせ運動会来ないんでしょ?』って」。プライベートも犠牲にして馬のために生きてきた。冒頭の言葉を借りれば「競馬道に不惜身命を貫く」人が、ここにいる。(石野 静香)

 ◆石野 静香(いしの・しずか)2012年入社の29歳。同年10月から中央競馬担当。

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