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念願の岩本輝雄さんの評論スタート…それでも頭をよぎる24年前の苦い思い出

2018年11月18日11時0分  スポーツ報知
  • 「スポーツ報知」評論家デビューの岩本輝雄さんは地元・横浜で自らの評論のカギ「個」と書いた色紙を持ってポーズ

 ついに、この人と仕事をする機会がやってきた。こんな時が来るとは数年前までは、つゆほども思っていなかった。

 今年6月のロシアW杯で日本代表のグループリーグ突破を点数までほぼ的中させ、「予想がハンパなく当たる評論家」として名を挙げた元日本代表MF岩本輝雄さん(46)が16日の日本―ベネズエラ戦で「スポーツ報知」解説者デビューを飾った。

 ご本人の発案で付けたコラム名は「岩本輝雄のDirecto(ディレクト)」。スペイン語で「まっすぐに」を意味する言葉には、真っ正直なその性格がそのまま現れている。

 記者と取材対象としての付き合いは、かれこれ四半世紀を超える。初対面はサッカー担当だった1993年の初冬。J1に昇格したばかりのベルマーレ平塚(現・湘南)担当となった私は平塚市の大神グラウンドでの練習を初取材。すでに甘いマスクの左サイドバック「テル」として女性ファンの熱視線を浴びていた岩本さんと右サイドバックの名良橋晃さん(46)のケタ違いのスピードでの駆け上がりに、いきなり圧倒され、体が震えた。

 無言で2人の練習を見つめ続ける私に、二頭体勢でチームの指揮を執っていた古前田充監督とブラジル人のニカノール・ヘッドコーチは声をそろえて、「この2人はすぐに代表に呼ばれるからね。追いかけた方がいいよ」と教えてくれた。

 首脳2人の言葉どおり、岩本さんは順調な成長を続けた。ファルカン・ジャパンで背番号10を背負うなど、代表でも中心選手になった。それでも、まったく偉ぶったところがなく、誰とでもフランクに接する人柄に惹かれた。ロッカールームで彼女の写真も見せてもらったし、日本代表合宿ではお気に入りのシャンプーを売っている店を求めて男2人で名古屋の町をさまよった。サッカー担当を離れた後、95年の私の結婚式にも出席してもらった。

 そこに落とし穴があった。親しくなったことが理由だったのか。私には岩本さんに大きな“借り”ができてしまった。

 「マリノスに誘われてるんだよね」―。練習後の大神グラウンドの芝生の上で、そうささやかれたのは、ベルマーレが94年のセカンドステージでヴェルディ川崎(当時)と勝ち点差1の2位に躍進した直後のことだった。

 Jの舞台で大暴れした「湘南の暴れん坊」の中心選手に成長した岩本さんには当然のように格上チームからの誘いが来ていた。実は横浜Mの有力選手を通じた本人への打診があった直後だったが、駆け出しサッカー記者だった私はすぐに前のめりになって、デスクに報告してしまった。

 「テルちゃん、『横浜M移籍も』って書いていい?」―。今の私だったら、いや、その2年後の私だったら、当人のささやきを聞いた直後に記事にしてしまうようなことはなかった。じっくり仮契約くらいまで待って、移籍が揺るぎない事実になった段階で書いただろう。それでも間に合ったはずだった。

 でも、その頃はニュースが書きたくて、記者としての実績が欲しくて、しようがなかった。岩本さんの「書いていいよ。大丈夫だよ」という言葉にも後押しされて翌日のサッカー面のアタマ記事になった。

 そして、移籍話はつぶれた。原因はただ一つ、話が漏れるのが早過ぎたからだった。その後、何度も考えた。「あの時、ビッグクラブのマリノスに行っていたら、テルちゃんは、もっと、もっと大きく才能を開花させていたのではないか?」。全てはタラレバの話だ。だが、くよくよ気に病んでいた私を励ましてくれたのもまた岩本さんだった。

 自宅が近い私たちは、電車の中でバッタリ出くわすことが何度もあった。サッカー担当を離れて10年ほど経た時だったと思う。またも偶然、同じ車両に乗り合わせた機会に本当に思い切って聞いてみた。

 「あの時、マリノスに行ってたら、テルちゃんのサッカー人生は変わっていたかな?」―。すると、いつもの魅力的な笑顔を見せた岩本さんは、たった一言。「あの頃は本当に楽しかったよね」とだけ言った。

 その時、私はなぜか「許された」と思った。それだけ岩本さんの口調がなんのわだかまりもなく、自然そのものだったから。

 そして、岩本さんは今、サッカー評論家として一流への道を歩み始めている。

 苦戦が予想された西野ジャパンのW杯1次リーグを「コロンビア戦は2―1で勝つ。セネガル戦は1―1のドロー(実際は2―2)です」と予想し、的中。“当たる評論家”としてTBS系「ひるおび!」、テレビ朝日系「ワイド!スクランブル」などのワイドショーにもハシゴ出演。その後も様々な番組に引っ張りだこになった。評論家でただ一人、優勝候補に挙げたクロアチアが準優勝したのも記憶に新しい。

 年間30試合は「大好きなので」というスペイン中心に現地観戦。今年6月26日から7月5日にかけてのW杯観戦に関してもスポンサーなどは全く付けない完全な自腹。自費での観戦だからこそ、最先端の技術を見る目が養われるという側面は確かにあると思う。

 「1・4東京ドーム大使」を務めるほどの新日本プロレスのファンだったり、プロデュース公演まで企画してしまうAKB48ファンの横顔も持つが、そのサッカーへの熱い思いと研究熱心さは本物だ。

 そんな元日本代表を迎えての評論「岩本輝雄のDirecto」が、ついにスタートした。構成を担当する私自身も楽しみでしようがない。

 「僕は人の意見は聞かないので『スポーツ報知』でも自分が見たものだけを伝えていこうと思います。戦術もそうなんですけど、世界のサッカーって最後に勝負を決めるのは個人なんで。サッカーは団体競技だけど、最後のところは『個』の力です。解説者として、その『個』の所を伝えて、しっかりと選手の分析をしていきたいと思ってます」―。

 そう言って胸を張ったテルの評論に期待して欲しい。「本物中の本物」をお届けする自信が、私にはある。(記者コラム・中村 健吾)

SAMURAI BLUE 岩本輝雄のDirecto
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