【二宮寿朗の週刊文蹴】小笠原の鹿島プライド…プレー、振る舞い、生き様伝わった

スポーツ報知
引退した小笠原

 鹿島プライド。

 小笠原満男の生きざま、プレー、立ち居振る舞いからそれは伝わってくる。21年のプロキャリアの中で、1度だけ鹿島を離れたセリエAメッシーナでもそうだった。06年ドイツW杯を終えて満を持して欧州に挑んだものの、1シーズン通してリーグ戦は6試合の出場にとどまった。ボランチに適性を見いだされて先発2戦目で初ゴールを奪いながら、主力がけがから戻ってくるとベンチ入りすることすらままならなかった。

 それでも諦めなかった。歯を食いしばった。「ベンチにも入れないわけだから気持ちを落とさずにやるのって簡単じゃなかったし、ギリギリでしたよ。でも自分はアントラーズに育ててもらって、試合に出ようが出まいが一生懸命やる人たちをずっと見てきた。そういう姿勢を自分の目で見てきたから、腐ったらもったいないなと思えた。歯を食いしばれるかどうかは自分次第だった」

 安っぽいプライドじゃない。ここで腐ったら、鹿島での日々を否定することにもなりかねない。「紅白戦が俺にとってのセリエA」―。つかみ合い、削り合いは当たり前。本番さながらに激しく体を当ててボールを奪い切ることに執念を燃やした。練習から100%でぶつかり合うのも、鹿島プライド。ベースにそれがあったからこそ、ひるむことは一切なかった。出場機会に恵まれなかったとはいえ、充実した日々が小笠原を心身ともにひと回り成長させた。

 欧州で活躍できなかったら「失敗」になるのか。それは違う。小笠原を見ればいい。リーグ3連覇を遂げ、MVPにも輝いた。「その後」が大事だと教えてくれる。イタリア仕込みの守備が加わった勝負の鬼は、ずっと鹿島プライドの象徴であり続けた。まだトップレベルでやれるのに彼は引退を決断した。鹿島で始まり、鹿島で終える。それこそが小笠原のプライドなのだろう。(スポーツライター)

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