菅田将暉「3年A組」と張本智和から教えられた「物事の本質」を伝える難しさ

スポーツ報知
今月上旬のジャパントップ12の決勝で水谷隼を破り、人差し指を突き上げて喜ぶ張本智和

 ツイッターをはじめとするSNSに「3Aロス」のハッシュタグをつけた投稿が多数寄せられている。

 日本テレビ系列の連続ドラマ「3年A組」は、菅田将暉(26)演じる美術教師の柊一颯が卒業を控えた3年A組の生徒を人質に高校に立てこもり、半年前に自ら命を絶った女子生徒の事件の真相を「最後の授業」を通して解明していく学園ミステリー。

 視聴率は回を追うごとに上昇。今月10日の最終回では最高の15・4パーセント(関東地区・ビデオリサーチ調べ)を記録した。事件の真相が明かされていく過程でSNSによる個人への誹謗中傷やネット上にあふれる情報の危うさなど、現代の問題に向き合いながら進められたストーリーが視聴者の心に届いたのは、主演の菅田の熱演を抜きにしては語れないだろう。

 不治の病に侵された主人公を演じるにあたり、「10キロ弱くらい」体重を落とした。私生活のファッションも役に合わせて変える菅田は、ドラマ開始直前のスポーツ報知のインタビューに柊一颯みたいにブーツを履いて現れた。「自分たちの伝えたいことがしっかり届いてほしい」。そのために教師をしている友人に話を聞き、そのアドバイスに基づいて現場の空気を引き締めようと、クランクイン直後に生徒役のメンバーを集めて自分の熱い思いを語った。

 ほどほどでいい、そんな空気が少なからず流れるこの時代。一歩間違うと暑苦しく映ってしまう柊一颯の全力で真っ直ぐなメッセージが視聴者の心に響いたのは、芝居という表層の奥にある菅田の人間性や熱量に見る人たちが反応したところが大きいだろう。今年で俳優生活10周年を迎えるが、「1日24時間じゃ足りないとずっと思っている」と菅田は言う。

 誰かに物事の本質を伝えるのはそれほどまでに難しい。そして裏を返せば、受け取る側も注意していないと、物事の本質を簡単に見落としてしまうということだ。普段、カメラマンとして様々なスポーツの現場でアスリートの撮影をすることが多い自分にとっても、気を付けなければいけないことだと思う。

 ひやりとする場面があった。今月上旬に仙台で行われた卓球のジャパントップ12。決勝で水谷隼(29)を4―0のストレートで破った張本智和(15)だ。優勝を決めると右手を耳の後ろに添えて観客の声援をあおりながら左手の人差し指を突き上げる派手なパフォーマンスを見せた。背後には自分のほぼ倍の年月を生きた日本卓球界のレジェンドが肩を落としている。「メンタル強いな」という感心と、「失礼なんじゃ…」という心配が頭の中で交錯しながらシャッターを切った。

 でも、それは完全な杞憂だったことが2週間後に判明する。17日に両国国技館で行われたTリーグのプレーオフファイナル。第4試合で岡山リベッツの森薗政崇(23)を退けてチームの優勝を決めた木下マイスター東京の張本がベンチのチームメートを手招きしてコートに呼び入れる。一人の選手が15歳のエースに真っ先に駆け寄り、飛びついて固く抱き合った。水谷隼だった。

 海外リーグに参戦していた昨季までと異なり、Tリーグ元年の今季から日本に拠点を戻した水谷は、試合後のインタビューで「10年間一人で練習してきたけど、チームメートができたことで気持ちが楽になった」と仲間への感謝を口にした。近くで見てきて、張本が人一倍努力しているのを知っている。どれだけ勝ちたいと思っているかも感じている。だから、ジャパントップ12での張本のパフォーマンスも理解できた。

 張本が1月の全日本選手権の準決勝で敗れたときには、調子に乗り過ぎていたからだと公の場で批判した。信頼関係が出来ているから、自分も全力で毎日を生きているという自負があるから、相手に言いたいことが言える。張本は水谷に対してこう話す。「いつまでも憧れの選手であり、共に戦う仲間であり、ライバル」だと。

 物事の本質は一つの出来事だけではつかめない。当たり前のことだが、3Aの柊先生の言うように「今の世の中はこんな当たり前のことがわからないどほど、せわしく回り続けている」。

 だから、アスリートの喜び方も、悔しがり方も、テレビの前での態度も、ファッションやユニホームの着崩し方まで、時に誤解を与えてしまうかもしれない。でも、逆境に立った時でもブレない技術の高さや恐怖に負けない勇気を見れば、どれだけ努力してきたかを想像することはできる。

 シャッターチャンスは一瞬だ。それでも大事に撮影しようと思う。写真の見せ方も選び方も丁寧に。見ている人たちにも、目の前の、テレビの中の選手を大切にして欲しいと願う。

 そして来月の世界卓球選手権(4月21~28日、ハンガリー・ブダペスト)を控えた今、確信していることがある。Tリーグを通して技術を磨きあい、結束を強めつつある今の日本の卓球は、今までにない強さを秘めている。(記者コラム・矢口 亨)

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