井上尚弥、ヘビー級頂上決戦とロマチェンコ統一戦を語る

スポーツ報知
エキサイトマッチの見どころを語る井上尚弥(WOWOW提供)

 今年5月にプロ16戦目で世界3階級制覇を成し遂げ、10月には元王者を70秒KOで退けたWBA世界バンタム級王者・井上尚弥(25)=大橋=が、12月中旬に発売される米老舗専門誌「リング・マガジン」の表紙に起用された。世界的に知名度を上げる「モンスター」にこのほどWOWOWが単独インタビューを行った。先の初防衛戦と今後の展望、そして日本時間12月2日に米国で行われるWBC世界ヘビー級タイトルマッチ、デオンテイ・ワイルダー(33)=米国=対タイソン・フューリー(30)=英国=のこと、さらに12月9日に米国で行われるワシル・ロマチェンコ(30)=ウクライナ=対ホセ・ペドラサ(29)=プエルトリコ=戦にまで話は及んだ。

 ―10月7日のファンカルロス・パヤノ(34)=ドミニカ共和国=との初防衛戦は70秒KO勝ち。自分でも理想的だったか。

 「一発で終わらせたので理想的ですね。自分では長丁場になって、もっともつれるかと思っていたので、1ラウンドKOのイメージはなかったんです。実際に戦ってみてサウスポーのパヤノは半身で懐が意外に深くスピードもありました。踏み込みは早かったけれど思ったほど出て来なかったので最初の10秒、20秒は『どうやって崩そうかな』と思っていました」

 ―70秒だったが、濃い時間だった

 「濃密な時間でしたね。最後の右ストレートの感触はズーンという感じで、バッチリでした。その前の左は踏み込んで打ったもので、それが良かと思います」

 ―あの雰囲気の中、もっと戦っていたかったという思いも?

 「それはないです。周りのファンはもっと長く見たかったかもしれないけれど、自分も身内も1秒でも早く終わった方がいいんすよ」

 ―試合は何度も見直したか

 「ダイジェストも含めれば50回ぐらいは見たと思います。あの舞台と同じ状況、同じ条件で、ああいう勝ち方は2度とできないんじゃないかと思います」

 ―パヤノ戦の2週間後、米国で次戦の相手、19戦全勝12KOのIBF王者エマヌエル・ロドリゲス(26)=プエルトリコ=の試合を偵察した。どんな印象?

 「(ロドリゲスは)全ての面でまとまった選手という印象です。後半に失速しましたが、前半に見せた1つ1つの技術はさすがチャンピオンというものでしたね。良い面、そうでない面、両方見ることができました」

 ―攻略の糸口は

 「何となく見えたかなという感じです。誰が相手であろうと僕が勝負のカギにしているのは距離感で、自分のパンチを当てる距離にいかに入るかということなんです。ロドリゲスとはかみ合うと思うけれど、お互いにパンチが当たる距離になると思うので、集中力を欠いた方がやられるという勝負になると思います」

 ―プロデビューから6年が経ち、17戦全勝(15KO)、3階級制覇という実績を残した

 「自分で思い描いていた予想だと、まだ世界チャンピオンになっていないんですよ。17戦じゃないですか、チャンピオンになる前にそのぐらいのキャリアを積みたいと思っていたので。早いけれど、頑張ったとは思うし、いいところに来ていると思います」

 ―この先の目標は

 「まずは出場中のトーナメント(ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ=WBSS)で優勝して、そのうちにスーパーバンタム級に上げて、とそこまでが考えられる範囲ですね」

 ―12月2日に米国のロサンゼルスで行われるWBC世界ヘビー級タイトルマッチ、デオンテイ・ワイルダー対タイソン・フューリーに話題を。井上選手はヘビー級というとどんなイメージ?

 「迫力、パワー、派手なKO…。2メートルを超えるような大きな男たちが戦うわけで、軽量級にはない倒し方などが見られますよね。例えばロープにもたれこむようなクリンチであったとしても、迫力があるじゃないですか。そういうところがヘビー級の魅力だと思います」

 ―ヘビー級と聞いて真っ先に誰をイメージ?

 「マイク・タイソン(米国=1980年代~2000年代に活躍した元世界王者)ですね。もちろんライブでは見ていませんが、映像で見てもすごいスピードですよね。体の大きな相手にスピードを生かして潜り込む、そしてワンパンチで倒してしまう。これから僕も階級を上げていった場合、踏み込みのスピードは重要になってくるはずなんです。僕はバンタム級でも大きい方ではないので、スーパーバンタム級、フェザー級と上げていく場合、相手はもっと大きくなる。そう考えると、角度、頭の位置、踏み込みなどタイソンの戦い方は参考になりますね」

 ―現役のWBC世界ヘビー級王者、ワイルダーについてはどんな印象?

 「たくさん映像を見ているわけではないですが…。とにかくパンチを当てて倒してしまうという印象ですね。攻撃はシンプルだと思います。特に右ストレートは強そうですね」

 ―40戦全勝(39KO)の戦績もインパクトがある

 「すごいですよね。戦績もヘビー級ならではですね」

 ―井上選手の17戦全勝(15KO)も驚異的

 「僕なんかまだまだですよ。これから階級を上げていけば判定が続くかもしれないし」

 ―そのワイルダーが迎えるフューリーは構えを左右に変えるスイッチ・ヒッターで、戦績は27戦全勝(19KO)

 「フューリーは頭脳的な技巧派なんでしょう? ヘビー級では珍しいですよね。パワー型のワイルダーと頭脳派のフューリー。興味深い組み合わせだと思います。加えて2人とも2メートル以上ですからね(ワイルダーは身長201センチ/リーチ211センチ、フューリーは206センチ/216センチ)」

 ―注目ポイントは?

 「ワイルダーのパワー、フューリーの頭脳、どちらが上回るかという点でしょう」

 ―ずばり、どちらが勝つ

 「う~ん…ワイルダー、かな」

 ―12月9日にはライト級の王座統一戦、WBA王者ワシル・ロマチェンコ(12戦11勝9KO1敗)対WBO王者ホセ・ペドラサ(26戦25勝12KO1敗)が米国のニューヨークで行われる。ロマチェンコはアマチュア時代にオリンピックと世界選手権を連覇、戦績は397戦396勝1敗

 「オリンピックと世界選手権を連覇するなんて、本当にすごいことですよ。(アマチュアの)戦績もヤバいでしょう(笑い)。アマチュアボクシングは3分×3ラウンドですからね。それであの戦績でしょう。もうロボットですよ」

 ―井上選手はアマチュア時代、国際大会の現場でロマチェンコの試合を見たことは

 「あります。ロンドン・オリンピックの前の世界選手権(2011年)でしたが、アディダス社製の大きなグローブなのにボディーブローで倒していました。それほどパンチのタイミングがいいわけで、当時から目立っていました」

 ―ロマチェンコも3階級制覇をしている

 「ボクシングは基本的には殴り合いなんですが、ロマチェンコはそれをゲーム感覚でやっている印象ですね。僕の中ではアマチュアの練習で採り入れているタッチゲーム(相手の肩や膝などをタッチしてポイントを取る)のイメージが強いんです」

 ―それでも8連続KO勝ち

 「ロマチェンコはパンチが強いわけではなく、タイミングがいいんです。倒すというよりも、どの角度からもパンチを当てるゲームの印象ですね。タッチゲームに耐え切れずに相手がギブアップする感じ。相手はばん回できないと諦めるんでしょう」

 ―今年5月のホルヘ・リナレス(33)=帝拳=戦は見た?

 「いい試合でしたよね。ロマチェンコの気の強さが見えた試合でした。技術はある、スタミナもある、そして精神力も強い。ロマチェンコは完璧でしょう。6回にダウンを喫したけれど(ダメージが)足にきている感じではありませんでした」

 ―身長170センチ、リーチ166センチ。ライト級では小柄

 「パワーで勝ち上がってきた選手は(階級を上げると)体重の壁に当たるけれど、ロマチェンコは技術で上がってきているので階級(体重)の壁を感じないんだと思います」

 ―ロマチェンコがスイッチ・ヒッターのペドラサと対戦。ペドラサもアマチュア時代に08年北京オリンピックに出場(ライト級初戦敗退)、09年の世界選手権では準優勝

 「でも、パワー型ではないですよね。そうなると体格では上回っていてもロマチェンコに勝つのは難しいでしょう。ただ、スイッチ・ヒッターは読めないところがあるので、やりにくいのは事実です。反面、慣れてくると崩されやすいというマイナス面もあるんです。結局、パターンは同じなので、ロマチェンコはすぐに読んでしまうと思います。ペドラサも戦っていてイヤになってしまうんじゃないですかね」

 ―もしも体重や条件が合えばロマチェンコと戦いたい?

 「もちろん戦ってみたいですね。ロマチェンコのスタイルはだいたい分かっているので、それをイメージしてリングに入って、あとはその場の感覚で戦ってどこまで対応できるかということになると思います」

 WOWOWでは「エキサイトマッチスペシャル ヘビー級全勝決戦! ワイルダーvsフューリー」を12月2日正午から、「エキサイトマッチスペシャル ボクシング史上最高傑作 ロマチェンコ統一戦!」を12月9日正午からと、2週連続でビッグマッチを生中継する。

 12月1日には「最強ボクサー激突! 12月2週連続ビッグマッチ完全ガイド」と題し、午後6時30分からWOWOWプライムで特別番組を無料放送。井上尚弥や山中慎介氏らのインタビューを交えながら、ワイルダー対フューリー、ロマチェンコ対ペドラサの注目ファイト2試合のみどころを紹介する。

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