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プロレスラーの「旬の時」とは…タイムリミットと戦う飯伏幸太を見逃すな!

2018年7月16日11時0分  スポーツ報知
  • 15日のG1クライマックス初戦で快勝。念願の初優勝に向け、好スタートを切った飯伏幸太(右=カメラ・相川 和寛)

 猛暑の日本列島を、さらに熱くしているプロレスラーがいる。

 15日に開幕した新日本プロレス真夏のシングル最強決定戦「G1クライマックス28」にフリーランスの立場で参戦中の飯伏幸太(36)=飯伏プロレス研究所=。「ゴールデン☆スター」として、プ女子人気NO1のイケメン・レスラーが「結果を残します」と、ただ一つ優勝という結果だけを目指して戦っている。

 15日の東京・大田区総合体育館大会での初戦。今年3月の春のシングル戦トーナメント・ニュージャパンカップ(NJC)2回戦で敗れたザック・セイバーJr.(30)と戦った飯伏は、序盤から「サブミッション・マスター」の異名を持つザックの七色の関節技にNJC同様、痛めつけられた。

 何度も絞め上げられながら、ギブアップだけは絶対しない。試合時間の大半を変幻自在の関節技に苦しめられながら、最後は掌底の連打、ライガーボムとたたみかけ、クロスアーム式スープレックスからのカミゴェ。ついに炸裂させた強烈な蹴りでザックをマットに沈めてみせた。

 試合後、フラフラの状態でバックステージに座り込んだ飯伏は「結果だけ。結果だけは勝ちですが…。納得した内容で巻き返したいから。何か、このG1で出せるんじゃないかと、自分も楽しみにしてます。でも、まだ、自分を追い込んでないんで。まだ始まったばかりですから。これから。これからです」―。絞り出すように言うと、壁に手をつき、ふらつく体を何とか支えながら引き上げていった。

 その背中を見送った私の耳に何度もこだましたのは、この日、会場を埋めた満員3826人の観客から飯伏に飛んだ「飯伏、覚醒しろ!」という言葉だった。

 そう、新日の大黒柱・棚橋弘至(41)に「飯伏がいれば、この先ずっとプロレス界は安泰」と言わせ、現在、米WWEでスーパースターの座に上り詰めた中邑真輔(38)に「飯伏は今までいなかった、ちょっと特別な存在」と認めさせた逸材は、完全に覚醒しないうちに36歳になってしまった。

 今年2月、本紙の女性向けページ「L」欄に登場してもらうため、70分間に渡って話を聞く機会があった。その時も、穏やかな表情ながら、こう言葉を紡いでいた。

 「今、やらないといけないことが自分の中で分かってます。今年が勝負だから選んだのが、一番見ている人数が多い新日。今年、行くところまで行きたいし、自分が一番、楽しみです」。何度も「今年」という言葉を繰り返し、2018年が勝負の年であることを強調し続けた。

 トップロープから天高く飛ぶ必殺技フェニックス・スプラッシュにバミューダ・トライアングル。「アブナイ」空中殺法も平気な顔で繰り出す。試合は常に見ているこちらが怖くなるほどの荒業の連続。戦いの後の「いつもMAXです。いつも全力です」が決まり文句の男がひしひしと感じ取っているのが、年齢という壁。「自分も年齢が年齢なんで、もう逃げられないんですよ。戦いからも逃げないようにやるだけです」―。

 20代前半でも通用しそうな若々しいルックスを持つが、1982年5月21日生まれ。今を時めく人気ユニット「ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン」率いる内藤哲也とは同い年。プロ野球選手で言えば、巨人・内海哲也、ソフトバンク・内川聖一と言ったベテラン選手と同学年になる。

 ジャイアント馬場さんが61歳で亡くなるまで現役だったように何歳でも現役を名乗れ、何回でも引退、リング復帰を繰り返すレスラーすらいるプロレス界だが、ファンを心底、納得させる最高の動きができる「旬の時期」は他のアスリート同様、意外と短い。

 鍛え抜いた体とパワフルな戦いで、長年に渡ってファンの心を鷲づかみにしてきた長州力(66)でさえ、10日のプロデュース興行「POWER HALL2018」の試合後、来年中の引退を宣言。長州が口にした「リングに上がるのが怖い。試合するためにトレーニングするのがキツイ」という言葉こそ、自分の体一つで何万人もの観客を感動させることができる代償として、ボロボロになっていく体を引き受けざるを得ない“エンターテイナー”プロレスラーとしての本音中の本音ではないか。

 だからこそ、アスリート系レスラーの代表・飯伏は今、限りある時間と日々、戦っている。「プロレス界の歴史を変えたいと思っています。これからですね。変えて行くのは自分次第だし。変えられなかったら変えられなかっただけど、絶対に変えられるっていう自信があるんで」と、前のめり気味に訴えたこともある。

 「天才」として子供の頃から「頭の中で想像できる動きは全て実際に再現できる」という抜群の運動神経を生かした戦いが、永遠にできるわけではない―。そのことを一番分かっているのが飯伏自身。だからこそ、レスラーとしての「旬の時」に迎えた、この夏のG1で「結果を残して」勝つしかないのだ。

 その覚悟や良し。こちらも真剣に追いかけよう。「僕には今しかない」と繰り返す、いつも真剣勝負の男の戦いから、一瞬も目を離してはならない。(記者コラム・中村 健吾)

 ◆飯伏幸太(いぶし・こうた) 1982年5月21日、鹿児島・姶良(あいら)市生まれ。36歳。キックボクシングや新空手に熱中後、2004年7月、DDT東京・後楽園ホール大会でのKUDO戦でレスラーデビュー。09年からは新日本プロレスに参戦。ケニー・オメガとのタッグチーム「ゴールデン☆ラヴァーズ」で活躍。11年にはIWGPジュニアヘビー級王座を奪取。13年、DDTと新日のダブル所属を発表。15年にはAJスタイルズの持つIWGPヘビー級王座に挑戦するなどエース格に成長も16年2月、両団体からの退団を発表。個人事務所・飯伏プロレス研究所を設立し、フリーランス選手として各団体のリングに立つ一方、路上プロレスなどの活動も。愛称は「ゴールデン☆スター」。181センチ、92キロ。

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