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やはり内藤哲也はプロレス界の宝物…激戦の直後、心に響いた絶叫

2018年8月10日11時0分  スポーツ報知
  • 8日の横浜文化体育館大会で快勝し、笑顔を見せる内藤哲也

 台風直撃の横浜の夜。またもや、この男の試合後のマイクパフォーマンスに心を鷲づかみにされた。

 先月発表されたスポーツ誌「Number」恒例の現役最高のレスラーを決める「プロレス総選挙」で堂々2連覇を果たした新日本プロレスの「制御不能のカリスマ」内藤哲也(36)。「100年に1人の逸材」棚橋弘至(41)の猛烈な追い上げをかわしての栄冠だった。

 8日、様々なインドアスポーツの全国大会が開催されるスポーツの殿堂・横浜文化体育館で行われた新日真夏のシングル総当たり戦「G1クライマックス28」大会のメインイベント後に、その人気の理由を思い知らされる一幕があった。

 昨年に続く2連覇を狙う内藤は、この夜、自らが率いる人気ユニット「ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン」の僚友・SANADA(30)に快勝。勝ち点を12とし、この日敗れた現IWGPヘビー級王者ケニー・オメガ(34)と並び、Bブロック首位タイとした。

 2016年4月に「ロス・インゴ」に加入したSANADAとは、これが初のシングル戦。SANADA(当時は真田聖也)が全日本プロレスに所属していた12年7月の新日本&全日本40周年興行のタッグマッチで対戦したのが、これまで唯一のマッチアップだった。

 6年越しで実現した戦いは序盤からヒートアップ。内藤が入場の花道でドロップキックを見舞えば、SANADAも必殺のSkull Endで締め上げる。内藤が顔面にツバを吐けば、SANADAも吐き返すなどヒートアップした試合は最後に内藤が必殺のデスティーノで3カウント。両者、リング上に倒れたまま、しばらく動けないほどの激闘だった。

 リングに上がってきた「ロス・インゴ」の仲間、EVIL、BUSHIに囲まれた内藤はマイクを持つと、まずこう言った。

 「横浜文化体育館まで来て下さった、たくさんのお客様。俺とSANADAのプロレスは皆さんの心にしっかり突き刺さりましたでしょうか」という問いかけに満員札止め4952人の観客は大歓声で応えた。

 自分自身が少年時代からチケットを握りしめて、新日の試合会場に駆けつける一ファンだったことから来る“お客様ファースト”の姿勢。これだけでも並のレスラーとは違う魅力を感じてしまうが、この夜はこれだけでは終わらなかった。

 続けて「今、リング上にはSANADA、EVIL、BUSHIとロス・インゴのメンバーがいますが、1人足りないことにお気づきでしょうか?」と淡々と問いかける。その瞬間、場内からは7月7日の米サンフラシスコ大会での試合中に首に大ケガを負い、療養中のメンバー・高橋ヒロム(28)に対する嵐のような「ヒロム」コールが巻き起こった。その大合唱は、この日一番と言っていい温かいものだった。

 「今頃、彼も(動画配信サービスの)新日本プロレスワールドで横浜大会を観戦していることでしょう。彼がすぐに帰ってくるのか、(復帰まで)時間がかかるのか、詳しいことは俺には分からないけどさ。高橋ヒロム! とっとと帰ってこいよ! カブロン(スペイン語でバカ野郎の意味)」と絶叫した内藤。

 ヒール(悪役)ユニットを標榜しているだけに営業妨害かも知れないが、あえて書く。手荒いけど心の底から逆境にいる仲間をいたわる、その言葉の優しさは取材している、こちらにもまっすぐ伝わってきた。

 自身も大ケガで長期離脱を余儀なくされた経験を持つ。抜群の運動能力を持つ「スターダスト・ジーニアス」として早くから期待を集めたが、12年に負った右ヒザ前十字靱帯断裂の後遺症などもあり低迷。リングに上がる度にブーイングを浴びる苦難の時期を経て、15年のメキシコ遠征で自ら持ち帰ったユニット「ロス・インゴ」で、ついに大ブレークを果たした。それだけに今、ベッドでの療養生活を余儀なくされている高橋の辛い思いが手に取るように分かるのだろう。

 昨年8月、「G1クライマックス27」を制した際も内藤は自分のことは二の次だった。最強外国人ケニー・オメガ(34)とのG1史上最長34分35秒の死闘を制し、4年ぶり2度目の優勝を飾った直後、リング上でふらつきながら叫んだ。

 「今日、足を運んで下さった両国のお客様、この最高の空間を作って下さった会場の皆さんにお礼を言いたいと思います・グラシャス・アミーゴ!(スペイン語でありがとう、友よ)」。大拍手に包まれた後、やっと「今なら言える。この新日本プロレスの主役は俺だ!」と付け加えた。

 マイクパフォーマンスの第一声がいつも観客への感謝の言葉。翌日行われた優勝一夜明け会見でも、その第一声は「リング上でも言いましたけど、最高の空間を作ってくれたお客様に感謝します」だった。

 「今、新日のどのレスラーよりも観客の気持ちがわかるレスラーだと、僕は思います。(試合会場の)あの最高の空間はレスラーだけじゃ作れない。僕はありがたいと思っているだけです」。常にそう口にする男の人気は、1年たっても全く衰えない。

 満員札止めが続くG1の試合会場でも客席を埋め尽くすのは「ロス・インゴ―」のTシャツやキャップを身につけたファン。一時は倒産寸前まで追い込まれた新日をV字回復させた功労者として、オカダ・カズチカ(30)、棚橋と並ぶメインイベンターの座に君臨していても、その「お客様ファースト」「仲間ファースト」の姿勢は全く変わらない。

 そんな人柄の良さ、温かさが戦いぶりやマイクパフォーマンスから伝わってくるから、ファンは内藤の入場曲「STARDUST」が流れたとたん、熱狂的な「ナイトー」コールで会場を染め抜く。ファンは、そのレスラーの歩んできた人生にリング上の戦いを重ね合わせて応援する。レスラーの全身、生き様全てが「プロレス」なのだ。

 この夜、内藤が叫んだ「高橋ヒロム! とっとと帰ってこいよ!」という絶叫を、たぶん、私は一生忘れない。8月8日、雨の横浜。取材記者として、この場所にいられて良かった。(記者コラム・中村 健吾)

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