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貴乃花親方が明かす、稀勢の里に降りそそがれる歓声の意味とは…

2018年9月12日11時0分  スポーツ報知
  • 花道を土俵入りに向かう稀勢の里

 大相撲秋場所で進退をかけて4場所ぶりに出場した横綱・稀勢の里が連日、懸命の土俵を続けている。

 初日に幕内・勢を一方的に下して237日ぶりの白星。2日目は22歳の小結・貴景勝に横向きにされながら逆転勝ち。3日目は初顔の幕内・豊山に土俵際まで追いつめられながら右から起死回生の突き落とし。物言いがつきながらも薄氷の3連勝を飾った。

 正直、驚いた。序盤3日間を無傷で乗り切ったことではない。稀勢の里に降りそそがれる拍手と歓声の大きさに、だ。

 9日の初日。横綱土俵入りを土俵近くで見ていたが、稀勢の里が入場してきただけで国技館に期待感が充満した。昨年春場所後から続くけがの連鎖で出ては途中休場の繰り返しで、横綱の連続休場は年6場所制(1958年)以降ワーストの8場所に延びた。「集中してやるだけ」。覚悟を決めて出場してきた稀勢の里本人は多くを語らないが、秋場所の雰囲気は異常なほどに熱を帯びていることは確かだ。

 同時に注目されているのが貴乃花親方だ。横綱時代の16年前の同じ秋場所、7場所連続休場を経て出場。序盤5日間で3勝2敗と追い込まれながら最終的に12勝を挙げて優勝次点の復活劇を果たしているからだ。新旧日本出身横綱として比較をされる、というかしている。

 弟子の貴ノ岩への暴行問題があり、かたくなに口を閉ざしていた昨年九州場所中とは異なり、今は問いかければ少ないながら言葉は返ってくる。稀勢の里が3連勝した11日も後輩横綱の相撲の感想を聞こうと、審判業務を終えて、国技館を後にする貴乃花親方を報道陣が追いかけた。「攻められているけれど足がそろわず、残している。悪くないです。乗ってくんじゃないですか」。歩きながら語った言葉は技術論だったが、出口付近で親方は足を止めると多弁になった。

 終盤までスタミナが持つのかとて問われると、「スタミナ、精神面も大切です。ただ(稀勢の里は)相撲人生をかけて土俵に上がっている。やるしかない、そういう気持ちが表情に見えます」と熱い口調で語った。さらに稀勢の里に向けられた歓声が大きいことを問われるとこう言った。

 「(観客は)自分の人生を投影されているのでしょう。そうでなければただの(熱量の少ない)応援になってしまうでしょう。自分のとき? 復帰場所のときはとくにそう思いました。それ以外の本場所とは違いましたね」。

 うまくいかない状況を好転させようと必死に土俵を務める姿に、人生はいいことばかりじゃないことを知っている観客が共感しているからこその大声援だと言った。これは想像になるが貴乃花親方は現役時代、観客が必死に相撲をとる姿に共感してくれていると感じていたのではないか。だからこそ最後の優勝となった2001年夏場所も、右膝に大けがを負いながら「観客のため」と強行出場を選択したのかもしれない。

 色々あって現在の貴乃花親方は1人の審判員として本場所中は親方としての業務にあたっている。それでも人気は相変わらず。観客の声援も大きく、それについては「ありがとうございます」と語るにとどめているが、心の中では観客が自分に「共感してくれている」と思っているのかもしれない。(記者コラム・網野大一郎)

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