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バド・奥原希望の“マメ”は進化の明かし

2018年12月18日16時0分  スポーツ報知
  • 親指付け根にマメができた右手を見せる奥原
  • 粘り強いプレーが武器の奥原

 人類(ヒト亜族)の誕生は700万年前ごろとされているらしい。トゥーマイ猿人の化石がアフリカ大陸中央部で発見されたことによってそのような定説が立てられた。新たな発見がそれを覆す可能性はあるにしろ、生物の進化には時間がかかることだけは確かだ。

 裏を返せば、現代に生きる私たちも、目にははっきり見えないほどのゆっくりしたスピードで少しずつ進化していると言っていい。この四半世紀ほどの間にも、人々はキーボードを操ることによってペンで書くよりもはるかに速く言葉を紡げるようになった。スマホが普及した今では、私たちは世界のどこにいても同じようなレベルの知識を共有し、SNSを駆使して自分の考えを発信することができるようになった。20年前にフェミ男だった武田真治(45)は筋肉を鍛え上げ、マッチョキャラでブレークした。そして、小学校2年生からバドミントンを始めてリオデジャネイロ五輪で銅メダリストを獲得するに至った奥原希望(23)の右手親指の付け根には固いマメができた。

 通常、バドミントンのラケットは主に小指、薬指、中指の3本の指の力で握るので、親指の付け根は他の選手はマメができにくい場所だという。本人に自己分析してもらうと、こんな答えが返ってきた。「コートに落ちそうなシャトルをぎりぎりのところで拾う時に手首を強く返すので、その時に(ラケットの)グリップ部分が親指の付け根のところで擦れるんじゃないかな」。身長156センチの小柄な体格ながら驚異的な粘りで世界のトップレベルを維持する奥原。他の選手にはあまり見られない箇所にできたマメは彼女のプレースタイルを象徴するものだ。

 世界選手権優勝者およびワールドツアーの年間ランキング上位者で争われるワールドツアーファイナル(中国・広州)女子シングルス決勝ではリオ五輪銀メダリストのシンドゥ・プサルラ(23)=インド=にストレートで屈した。試合後は「自分の精度が悪すぎて主導権を握れなかった」と反省したが、身長で23センチ上回る相手に緩急をつけるネットすれすれのショット「ヘアピン」などを駆使して見せ場を作った。今季の締めくくりとしては十分存在感を示しただろう。

 昨年は右肩と右ひざを負傷。ツアーファイナルの舞台にすら立てなかったが、けがを克服して一回り成長した姿で戻ってきた。来年は「どれだけ勝負に貪欲になれるかわくわくしている」。

 優勝を逃した悔しさも今後の進化への大きな布石となるだろう。いまやすっかり固くなった右手親指のマメだけじゃなく、彼女自身の心も固く、強くなっているのかもしれない。(記者コラム・矢口 亨)

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