愛好者3億人超え盛り上がるeスポーツ、五輪種目になる?

スポーツ報知
大勢の観客を集めたeスポーツ競技。「ウイニングイレブン」はアジア大会で公開種目として採用された人気タイトルだ

 今、世界的な盛り上がりをみせている「eスポーツ(エレクトロニック・スポーツ)」。コンピューターゲーム、ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉えたもので、先日のアジア・ジャカルタ大会(インドネシア)では公開競技として導入され、その新規性は大いに注目を集めた。やがて五輪にも広がるのでは、と期待される電子世界のスポーツ競技の現状に迫った。(小野田 寛)

 今月20日から4日間、千葉・幕張メッセで開催された「東京ゲームショウ2018」。過去最高となる総入場者数29万8690人が詰めかけた会場内に用意された大型ステージ「e―Sports X(クロス)」では、コナミの人気サッカーゲームの最新版「ウイニングイレブン2019」による「国内最強チーム決定戦」が行われた。来年1月に開催される国際親善試合「日本・サウジアラビアeスポーツマッチ」の日本代表チームを決める同大会では、ハイレベルなテクニックの応酬に、集まった観客は本物のサッカーの試合さながらに魅了された。

 世界のeスポーツ愛好家は3億人を超えるといわれ、北米、韓国、中国での人気が高い。特に、韓国でのeスポーツ熱はすさまじく、24時間eスポーツをオンエアする専用チャンネルやアイドル的人気のeスポーツ選手まで登場。ゲーム大国のイメージがある日本だが、eスポーツ競技の世界では決して“強豪国”とは言えないようだ。

 日本では、日本野球機構(NPB)がコナミの人気野球ゲーム「実況パワフルプロ野球2018」を使ったプロリーグを発足。11月にはペナントレースが開幕する。Jリーグでも、米人気サッカーゲーム「EA SPORTS FIFA 18」による「明治安田生命 eJ.LEAGUE」を3月に開催するなど、現実のスポーツ団体がゲーム業界と連携し、相乗効果による発展を目指して動き始めている。

 今年1月には「一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)」(岡村秀樹会長)が発足した。同団体は、eスポーツ大会の主催・招致、国際大会に出場する日本代表選手の選出と派遣、特定のタイトルに対するプロライセンスの発行と大会の認定、選手育成の支援、日本におけるeスポーツの普及・振興を目的に活動している。

 日本eスポーツ連合のチーフディレクター・村野いつき氏は「年齢、性別、身体的ハンディキャップの垣根を越えてプレーを楽しめるeスポーツは、国際的にも認知され、今、大いに盛り上がっています」と、その魅力を語る。世界的な関心の高まりから、eスポーツは国際競技にまで成長し、アジア・ジャカルタ大会では「ウイニングイレブン」をはじめ6種類のゲームが採用され、18の国と地域から135人の選手が腕を競い合った。

 日本製タイトルとして唯一、選ばれた「ウイニング~」は95年の発売以来、世界累計販売本数が1億本を超え、モバイルゲームとしては世界150の国と地域に配信される超人気タイトル。海外では「プロ エボリューション サッカー(PES)」の名前で親しまれ、毎年世界大会も開催されている。そんな日本発の人気タイトルによって競われた種目は、杉村直紀(22)・相原翼(18)の日本代表チームが優勝。記念すべきアジア大会eスポーツ初代王者に輝いた。

 この開催に続き、eスポーツは、22年のアジア・杭州大会では正式競技として採用。eスポーツ愛好者や関係団体、ゲームメーカーがその先に期待を寄せるのは、オリンピックでの正式競技化だ。一部では、24年のパリ五輪での採用を有望視する意見も挙がっているが、これに関しては何も決まってはいないのが現状だ。

 eスポーツの五輪競技化への道のりには、大きな壁が2つ存在する。

 《1》国際的統括団体の不在

 国際オリンピック委員会(IOC)の承認を得るためには、サッカーにおける国際サッカー連盟(FIFA)のような、その競技を束ねる明確な窓口が必要だ。しかし、eスポーツは韓国の国際eスポーツ連盟(IeSF)、香港を拠点とするアジアeスポーツ連盟(AESF)、英国のeゲームスグループ、そして日本のJeSUが、それぞれのエリアを統括。国際大会の開催時には組織間で連携をとってはいるが、現状では統一団体は存在しない。

 《2》ゲームのエンターテインメント性と五輪の理念を並立することの難しさ

 アジア・ジャカルタ大会を訪れたIOCのトーマス・バッハ会長は、五輪競技とするには“いくつかの条件”を満たす必要性があると発言した。世界的な人気ゲームの中には、格闘技や銃などの武器が登場する暴力を想起させるテーマのものも多く、それが「人類がともに栄え、文化を高め、世界平和の灯を永遠にともし続ける」という五輪の理念と反することが危惧される。eスポーツが平和の祭典で競われるようになるためには、人気だけではない多面的なタイトル内容の検討が求められる。

 この他にもクリアしなければならない問題も多く残されているが、eスポーツが五輪競技の正式種目として採用されたなら、それは五輪史上最も“間口の広い競技”となることは間違いない。「ゲームが好き」という情熱があれば、誰もが金メダリストを目指すことができるかもしれない時代が目の前に迫っている。

 ◆eスポーツの歴史 eスポーツの原点は、1972年に米・スタンフォード大の学生が開催した対戦型シューティングゲーム「SpaceWAR!(スペースウォー)」の大会だといわれる。80年代に任天堂「ファミリーコンピューター」など家庭用ゲーム機が急速に発展し、ゲームプレーヤーが増加。さらに、90年代後半のパソコンの普及により、ネット対戦などを行うPCゲームプレーヤーも増加した。海外ではこのスタイルが主流となり、PCゲームによる大会が多数開催されるなどeスポーツ興行は発達を遂げる。一方、日本では長い間、家庭用ゲーム機でのプレーが主流であったため、この波に乗り遅れてしまうが、2010年以降に格闘ゲームジャンルのコミュニティーからプロ選手が誕生し、国際大会で活躍。国内のeスポーツへの関心が高まるようになった。

 ◆eスポーツ市場 米調査会社Newzooによると、2017年のeスポーツの市場規模は約700億円、その視聴者数は約3億3500万人になるといわれる。人気の高まりを受けて、eスポーツ競技の大会数も増加。さらに、動画配信サービスの充実によって競技を気軽に楽しめるようになったことで、市場は拡大。18年には約969億円になることが予想される。

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