鈴木大地長官が激白「スポーツは変わる」 揺れた18年、暴力NO!!

スポーツ報知
スポーツ界の現状と未来像を熱く語ったスポーツ庁の鈴木大地長官(カメラ・能登谷 博明)

 スポーツ庁の鈴木大地長官(51)がスポーツ報知の単独インタビューに応じた。2月の平昌五輪、8月のジャカルタ・アジア大会で盛り上がりを見せた一方、相次ぐ不祥事に揺れたスポーツ界。プレ五輪イヤーの2019年のキャッチフレーズに「スポーツ明治維新」を掲げ、さまざまな改革に取り組む鈴木長官の思いを聞いた。(構成・高木 恵、太田 倫)

 ―今年1年の総括を。

 「平昌五輪、パラリンピック、アジア大会で日本選手が活躍してくれて、強化事業も順調にいっているのかなと思っている」

 ―18年度中の新設を目指す大学スポーツの統括組織・ユニバス(大学スポーツ協会)が目指すものは。

 「アメフトの悪質タックル問題があった。なぜこういうことが起こるのか、というのを考えたことがありますか? 練習試合とはいえ全国放送、ネット配信されていれば、自分がやったことが目に留まるわけですよ。そしたら、やりましたかね? 要するに、まだまだマイナーだと、見えないところでバレないだろう、そういう考えがあったのでは。大学スポーツを始め、現場が注目をされていれば、そういう事故、事件は起こらなかったかもしれない」

 ―見られることで意識も変わる。

 「昨年Bリーグの1周年記念パーティーに行った時に『この1年どうだった』と選手に聞いた。お客さんがいっぱい入るようになり『練習するようになった』と返ってきた。『お前ら練習してなかったのか』って(笑い)。注目を浴びることで、恥ずかしいプレーはできないってなるじゃないですか。『じゃあ練習しよう、自分を磨こう』となるので注目、関心を浴びることは競技力の向上にも必要なこと」

 ―文武両道は可能か。

 「いやあ…やってました? 私はあまりやってなかった(笑い)。今考えると、学生時代にいろんな専門の先生が周囲にいたわけで、もっと勉強しておけばよかったなと思う。もし勉強をしっかりした状態で社会に出ていたら、社会人の前半戦、もっと輝けたのにな、と思うんですよね」

 ―運動部活動改革は昔から問題だったのか、時代の流れか。

 「大きいのは時代の流れもあると思いますね。問題もあったし、両方だと思う」

 ―練習時間が減ると競技力が落ちるのでは。

 「まず、今年策定したガイドラインは一般的な中学生、高校生を対象としたものだということ。みんながみんな金メダリストにはなれない。中高大とスポーツをやって社会に出て行く。その中で勉強もスポーツもバランスを取っていくことが社会への近道。中高の部活に関しては、やり過ぎによる弊害がある。部活を引退した時、肘や肩が痛い、燃え尽きた、もうスポーツやれません、こういう状況はやめましょうと。生涯スポーツに親しんでもらいたい」

 ―長官は水泳のほかは。

 「子供の時は野球、サッカー、駅伝もやったし、一番得意なのは雲梯(うんてい)。超速かったよ。あとは床雑巾拭き。クラスNO1だった。足の回転が本当に速い。クラスのリレーで僕はエースだった。4年生からは水泳だったけど…」

 ―練習が嫌いになっていく子供たちも多い。

 「子供の時はスポーツをやりたくて始めたはずが、部活で『今日休み』っていうと『やった~』って。嫌になっているわけですよ。もうちょっと量を抑えた状態で『明日もやりたいな』って思ってもらえるような活動が望ましいですね」

 ―アスリートを発掘するJスタープロジェクトの成果は。

 「11月に1期生の修了式があって。1年たって見違えるように立派になった。パラはアジアパラに出場した選手もいたし、オリの方も、競技の年代別の全国大会に優勝している人が何人もいた。2、3、5年後が勝負。さらに成績が出てくれると思っている。21年以降も見据えた強化策なので、継続してやっていきたい」

 ―どの競技が花開いたか。

 「ラグビーはボールを捕ったり、投げたり、走ったりという複合的な競技。7人制もあり、いろんな人たちに門戸は開かれている。バレーやバスケをやっていた女性がラグビーに転向し注目されているので、もっと入ってきてほしい。ボートもそう。なかなか小学校からやっている人はいない。各競技で基礎体力をつくって、そこから挑戦というのにも期待したい」

 ―高校球児で有望な選手はいたか。

 「残念ながら応募がなかった。去年は高校野球予選の真っ最中に締め切りがあったので、話もうまく伝わらなかったし、当然野球の方に集中したい状況でしたから。宝が眠っていますので二刀流、三刀流をね、ぜひ。甲子園を目指してもいいし、同時に五輪競技でも日本代表になっちゃおうっていう、やる気満々の野心家をね、もっともっと作っていきたい」

 ―二刀流、三刀流。夢が広がる。

 「不祥事の話に戻りますが、子供たちはもっといろんな体験をするべきだと思っている。一番問題だと感じたのは、指導者から暴力があっても『暴力だと思ってない』っていうことですね。もっといろんな先生に出会ったり、他の競技も体験して指導を受けたり、世の中のことをもっと経験することも必要だと思っている」

 ―暴力なしの指導は浸透していくか。

 「していきます。暴力的な指導をして強くなると思っているのは日本だけ。これだけグローバル化して、選手がいろんな国に行って、いろんなコーチングを体験する時代に、こんなことをやっていたら笑われちゃいます。もう時代が劇的に変わっていることを、暴力教師は気づかないといけない。指導者が勉強しないといけないですね」

 ―長官の時代も暴力はありましたよね。

 「まだありましたね。でも私はそこで頑張らなかったんですね。殴られてタイムを上げちゃうと、殴ればタイムが上がるものだと思われる。ずっと殴られ続けますからね。それはいかんだろうと。頑張らなかった」

 ―いつ頃ですか。

 「中学生の時」

 ―頭が切れる中学生ですね。

 「すると、それ以来なくなった。結局やらされているうちは強くもならないし、面白くもないんですよね。自分で速くなりたい、強くなりたいってならないとトレーニングの効果は上がらない。前向きにスポーツに取り組める在り方を、これから考えていかないといけない」

 ―五輪後も国民にスポーツが浸透していくことを見据えてか。

 「もちろんです。来年はスポーツ明治維新! 大学もスポーツも変わる。ラグビーW杯も始まる。翌年には東京五輪もある。新しく生まれ変わるということ。新しい元号にもなりますしね」

 ―東京五輪は日本オリンピック協会(JOC)が金メダル30個を目標に掲げているが。

 「現場統括団体が立てている目標の実現に向かって、我々は最大限のサポートをする。ライバルは1964年東京五輪。金メダル16個。金メダル獲得率は約10%。競技実施種目163のうちの約10%です。2020年は339種目。そうすると30個は妥当。全然可能。いけると思います」

 今後スポーツ庁が力を入れていく活動の一つに「武道ツーリズム」がある。観戦やスポーツイベントへの参加など、スポーツを主な目的とする観光旅行のことを「スポーツツーリズム」と称するが、その中でも柔道や空手、剣道、合気道といった武道に特化したものだ。

 空手発祥の地である沖縄県は、空手を通じた観光客の呼び込みに成果を収めている。鈴木長官は「武道は日本の発祥であり、日本の精神性をくんだスポーツということを世界に発信していく。そのためのシンボリックな活動をこれから考えていかないといけない」と、さらなる普及に努める構えだ。

 また、グルメサイトの「食べログ」に着想を得たナビゲーション的なシステム“スポログ”構想もある。「実際スポーツをやってみようという人も増えてくると思う。じゃあ、自分の家の近くでどこに行けばバドミントンができるか、水泳を習いたいがどこにいけばいいか、というね」と鈴木長官。まずは地方でモデル事業を展開し、将来的に規模を広げる理想を描いている。

 ◆鈴木 大地(すずき・だいち)1967年3月10日、千葉・習志野市生まれ。51歳。7歳から水泳を始め、市船橋高3年時に背泳ぎで84年ロス五輪に出場し、男子100メートル11位、200メートル16位。順大に進みバサロ泳法を武器に、88年ソウル五輪100メートル背泳ぎで金メダルを獲得。92年4月に引退し、米国留学。2013年に歴代最年少の46歳で日本水泳連盟会長に就任。15年10月からスポーツ庁初代長官。

 ◆運動部活動改革

 スポーツ庁は今年3月、活動時間や指導者、大会のあり方など運動部活動に関する総合的なガイドラインを策定。部活動が地域、学校、競技種等に応じた多様な形で最適に実施されることを目指している。

 ◆ユニバス(大学スポーツ協会)

 スポーツ庁の大学スポーツ改革の柱。選手の安全確保、学業との両立、大学スポーツのブランド力向上の3本柱を軸に、全米大学体育協会(NCAA)をモデルにして来年2月末の一般社団法人設立を目指す。

 ◆ジャパン・ライジング・スター(J―STAR)プロジェクト

 全国の将来性豊かなアスリートを発掘するためのプロジェクト。五輪・パラリンピック合わせて昨年は1303人、今年は1629人がエントリー。11月に修了式を迎えた1期生(49人)は、バスケットボールから7人制ラグビーに転向した上田芽生ら。

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