稀勢の里、連敗で休場ピンチ 妙義龍に金星献上

スポーツ報知
初日から2連敗し土俵下で悔しがる稀勢の里(カメラ・岩下 翔太)

◆大相撲九州場所 2日目 ○妙義龍(寄り倒し)稀勢の里●(12日・福岡国際センター)

 自身初の一人横綱を務める稀勢の里(32)=田子ノ浦=が、休場危機に陥った。連日の結びで前頭筆頭・妙義龍(32)=境川=に寄り倒された。横綱に昇進した昨年春場所以降、初日からの連敗は初の屈辱だ。完全復活を目指した今場所前は優勝宣言も飛び出していたが暗転。初日黒星スタートしただけでも過去4場所は、いずれも途中休場しているだけに、もがき苦しむ和製横綱が窮地に立たされた。

 稀勢の里が土俵下に転がり落ちた瞬間、会場の時が止まった。土俵外に尻餅をつき敗れた横綱に、誰もが息をのんだ。立ち合いから妙義龍の左を差せず。もろ差しを許し、捨て身の左の小手投げも寄り倒された。秋場所に続く14個目の金星配給。引き揚げる花道の奥で2度、天を仰いだ。支度部屋の風呂場では「あぁ」と叫んだ。報道陣に囲まれ、無言を通したその目は怒りからか真っ赤だった。

 2日目にして崖っぷちに立たされた。妙義龍戦は今場所前まで6連勝中で、先代師匠の故・鳴戸親方(元横綱・隆の里)の命日だった7日には出稽古で13勝2敗と圧倒。完勝イメージができ上がっていたはずの相手にまさかの不覚をとった。

 横綱昇進以降、初日に敗れた4場所は全てで途中休場に追い込まれている。一年納めの場所で嫌なデータを呼び込んだだけでなく、さらに今回は横綱初の初日から連敗も喫してしまった。関取になって以降も、初日から連敗した場所で2ケタ白星はゼロ。完全復活へ現実は厳しい。

 日本出身の一人横綱は03年初場所で貴乃花(場所中引退)が務めて以来。その重圧が何かを狂わせるのか。八角理事長(元横綱・北勝海)は「辛抱負けだね。辛抱するところで投げを打って、自分を軽くしてしまった」。秋巡業皆勤で作り上げ、手応えを感じていた下半身の粘りは消えていた。

 この日の朝稽古も、初日、そして先場所に続き非公開。「今は自分の事で精いっぱい」と師匠の田子ノ浦親方(元幕内・隆の鶴)は弟子を思いやったが、横綱相撲は最後まで影を潜めた。

 父・貞彦さんは「(04年に)関取になって十数年、勝負の世界ですから気疲れというのがあるかもしれない。彼は自分だけの横綱じゃない。相撲協会、そして日本出身として背負う『責任』というのがあるのでしょう」と語った事があるように、孤独にもがいている。

 取組後、福岡・大野城市の田子ノ浦部屋宿舎に戻った稀勢の里は「明日? 頑張ります」と笑みさえ浮かべた。目はまだ死んでいない。3日目は通算1勝1敗の北勝富士戦。6日の申し合い9勝3敗で、優勝宣言をするきっかけとなった相手。休場ピンチに襲われながらも、必死に一歩を踏み出す。(大谷 翔太)

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